6月23日の赤ずきんちゃん
狼さんと赤ずきんちゃんが居ました。
今日は二人で森を歩いていました。それだけでも、赤ずきんちゃんは嬉しくて楽しいのでした。
そうやって楽しくお散歩していたのですが、困ったことになりました。赤ずきんちゃんは、お手洗いに行きたくなってしまったのです。
これは仕方がありません。赤ずきんちゃんは、素直にお手洗いに行きたいのと告げました。しかし、狼さんは困った顔をします。
「この辺りにはお手洗い、ないんだ」
困りました。すると、狼さんは言います。
「僕の家なら近いけどね。行く?」
これは、助かりました。赤ずきんちゃんはコクリと頷きました。
「うん、すぐに出るから」
「じゃあ、行こう」
初めて入った狼さんのお家は、とてもきれいでした。
赤ずきんちゃんは、あぁこれが狼さんのお家なのねとなんだか嬉しい気持ちです。しかし、居座るわけにもいきません。お手洗いから出た赤ずきんちゃんは、ありがとうとお礼を言って家を出ようとしました。しかし、狼さんはソファに座ったまま動きません。
「君も座るといいよ」
狼さんがそう言うので、赤ずきんちゃんは頷いて狼さんの横に座りました。
狼さんは、そのままお話を始めました。どうやら、今日は狼さんのお家でお話することに決めたようです。
明日のお天気の話をしました。いつも出かける店の話もしました。それから、これから咲く花の話もしました。
赤ずきんちゃんは、狼さんの隣でそれを聞いていました。狼さんの肩に頭を乗せて聞いていました。狼さんの呼吸が聞こえます。
なにか幸せでした。狼さんもそう思っている気がしました。
おいでと狼さんは言って、赤ずきんちゃんを抱き上げると抱っこしてくれました。触れ合ったほっぺたが気持ち良くて眠気を誘います。
その時でした!
狼さんが、ちゅっと可愛く赤ずきんちゃんの首にキスしたのです。その次は、なあに? と顔を上げた赤ずきんちゃんのくちびるに。
幸せだと思いました。このまま食べられちゃうかもしれない、微かにそう思いましたがすぐに忘れました。狼さんが大好きなのです、だからいいと思いました。
でも、その前にたったひとつだけ、狼さんに訊きたいことがあります。赤ずきんちゃんは、勇気をふり絞って口を開きました。
「狼さん。どうしてキスしてくれるの?」
狼さんは笑いました。赤ずきんちゃんの頭をなでなでしながら答えます。
「したいから」
「それじゃわからない。どうしてしたいの?」
「……好きだから」
好き!
狼さんが初めてくれた言葉でした!
狼さんも赤ずきんちゃんを好きでいてくれたのです!
「うれしい」
こんなに幸せなことなどあるでしょうか。赤ずきんちゃんの胸は、なんだかわからないけどわくわくするものでいっぱいになりました。
「君は、どうしてキスさせてくれるの?」
「……好きだから」
それ以外の答えなんて赤ずきんちゃんは知りません。
「食べちゃってもいい?」
「まだだめ」
こんな幸せな時に食べられちゃったらもったいないわ!
赤ずきんちゃんはそう思ったのでした。
「じゃあ、悪い人になってもいい?」
「悪い人はいや」
もう少しこのままでも罰は当たらないわ。赤ずきんちゃんは、急に自分が欲張りになったことに気がつきましたが、知らないふりをすることに決めたのでした。
狼さんは、なんだかちょっとふくれた可愛いため息をつくと、赤ずきんちゃんを抱きしめました。
それは、とてもあたたかくて幸せな香りでした。
たくさんたくさんたくさん、狼さんとわたしに幸せがあったらいいな。赤ずきんちゃんはそう願ったのでした。
それは、これから叶う物語です。
おしまい。
赤ずきんちゃんの恋 はな @rei-syaoron
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