Lounge act (Epilogue)

「こ…れは…」


 王の間の兵士たちは皆、甲冑を貫かれ絶命していた。


 死体は山と築かれており、すべてが同じ死に方だった。


 身体の中心を図ったように正確に剣で貫かれていた。


 どれほどの膂力があれば、かような所業を為すことが出来るのか。


 どのような怪物なのか。


「あなたが王様?」


 振り返るとそこに居たのは翠色の目をした少女だった。


 その身には血の染み一つついていない。そのことがこの地獄の有り様の中で逆にひどく不気味に映った。


「き、貴様は一体何者だ…悪魔か…?」


「…あなたにはそんな風に見えるの?」


 無言で後ずさる王に少女はぼそりと告げた。


「私は……大切な人の天使になりたかった」


 答えることのない王に少女はモノローグを続けた。


「私はね、神様になるんだって…悪い天使がそう言ってた。私はばかだから。ずっとそう思って生きてきた…でも、人を殺すことしか自由にできないなんて…大層ひどい神様だと思わない?だから辞めたの。それでそんな私にぴったりの名前があったのを思い出した」


 少女の力なき翠色の眼は死そのものの不吉な空虚さをたたえていた。


「私は…アイリーン・F・ウッド……『冒涜のアイリーン』…」


「…き…さま…悪魔め……!!…魔なるもの……魔王……アイリーン……!!必ずや勇なるものの力が貴様を下すだろう…!!」


「そう」


 王の頭蓋をかち割るように剣が縦に貫かれた。


 アイリーンは周囲を見渡すと血に塗れた一人きりの玉座に腰掛けて、独りごちた。


「…それなら…優しい人がいいな、アイルみたいに…」


 冒涜のアイリーン。


 人々は彼女を魔王と呼ぶ。


 一人ぼっちの玉座の上、彼女はこいねがう。


 自身に死の安寧あんねいをもたらす一振りの剣をたずさえた英雄を。

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アイリーン・F・ウッド 藤原埼玉 @saitamafujiwara

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