おまけ お前も貧乏になるんだよ!
「来ねぇな」
「暇だ」
「ならチェスしようぜ。この日の為にルールブックを読み込んで……」
「ルール知らない」
「同じく」
「あ、さいですか……」
アライバルエリアの隅の港から月を見上げる三人の影。
虎顎のエージェントでありながら任務失敗という情けない結果に終わった彼らは、モノレール駅で数則とアビィを襲撃した
三人は任務失敗後もツァンシュンの『
しかし、迎えの時間は過ぎているのに待てど暮らせど迎えはこない。しかも他のエージェントも一人として来ず、三人はもう迎えは来ないのではという事実から目を逸らすように雑談する。
「時間間違えて置いていかれたか?」
「時間管理、
「遠回しに俺が時間を間違えたみたいに言うのやめなさい。ちゃんと合ってます。現実の方が予定狂ってんだよ!」
「……で、その、フィーアンとツァンシュンはさ……どこまで関係進んでる訳?」
「おいフェイ、お願いだから付き合ってる前提で話進めるな。拗れるぞ、ほら拗れるぞ今拗れるぞ」
「一緒に寝た。同じ部屋で」
「ほら拗れたぁぁぁーーー!! 寝たって言ってもフィーアンが俺の膝を枕にスリープしただけの寝ただから誤解なくぅぅぅーーー!!」
「その必死さが逆に隠してる感あるもんっ!!」
親友に隠し事をされたと思い込んで涙目で叫ぶフェイだが、フィーアンは狼狽えるフェイの姿で飯が美味いとばかりにニヤニヤしながら彼女を眺めている。
フィーアンは普段気を許した相手としか接しない内向的で無口な子なのだが、どうやらガサツに見えて実は初心だったフェイを弄ることに覚えてはいけない悦楽を覚えたようだ。
その後、暫く説得したりからかったり気まずくなったり七変化する会話を一通り終え、改めて三人は現実と向かい合う。
「
「潜水艦の騒ぎ、情報拡散してる。もうこの辺りの海は厳戒態勢。ほら、あれ」
フィーアンが自らの異能である『
凌いでから異能を解除したフィーアンは小さくため息をつく。
「迎えも来ない。アジトもない。パスポートもない。閉じ込められた……」
「ツァンシュン! 『
「無茶言うな馬鹿野郎ッ!! ここからウチの勢力圏まで二〇〇〇km以上あんだぞ!?」
ツァンシュンのテレポート有効効果範囲は最大で五〇〇m。かなり無理をして、一定の条件も満たしてやっと五〇〇mだ。ショートテレポートを連打しても黄海まで辿り着けるかさえ怪しい。
「ああクソ! せめて
「確かに、あの人なら迎えが寄越せなくても全員飛ばして帰れたんだけどなぁ……チクショー日本人め!」
「老師、許してくれるかな……」
フィーアンが顔を青ざめさせて呟くと、残る二人も黙る。
彼らは
万一体躯の小さなフィーアンが頭でも撫でられようものなら、その最期は悲惨なものになるだろう。
それを想像したツァンシュンは、想像したくもないとかぶりを振り、二人に話しかける。
「目的を決めよう。第一にこちらで俺たちが暮らす基盤を確保する。それが出来次第、本国への帰還方法を考えよう。それと同時進行で師父への手土産を確保する。素体が一番だろうが、大風の兄貴の奪還なら師父も喜ぶし、兄貴の手を借りれば戻れる」
「そう、かな……?」
「アタシはその話に乗るぜ。今回の件で革新派はかなり厳しい立ち位置になった筈だしな。手土産は効く筈だ!」
「……二人が言うなら、うん。わかった。私も乗る」
三人は円陣のように互いに肩を組み、顔を突き合わせる。
「三人で協力して、必ず生き残るぞ」
「うん!」
「おうよ!」
――この時、ツァンシュンは気付かなかった。
見知らぬ土地でたった三人の仲間しかいない中、率先して指針を決めて心強い言葉をかける男と、それに付き合う二人の女……それが二人の仲間意識だけでなく、女性としての心まで揺さぶっていたことに。
(こんなに頼れる奴だったんだコイツ……あれ、なんだろう。なんでアタシこんなにドキドキして……)
(もし帰れなかったら、フェイと
吊り橋理論とは、切っ掛けに過ぎない。
そしていつの時代も男と女がいればそこに生まれるものがある。恋愛経験皆無三人衆の極貧潜伏生活が辿り着く先は、果たして本当に本国帰還なのであろうか。
異能社会でも生活は楽じゃないんだよ!? 空戦型ヰ号機 @fafb03
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