ハロー警報が発令されました

ダイナイ

ハロー警報が発令されました

『本日、東京都でハロー警報が発令されました。東京都在住の方は、注意してお過ごし下さい』


 家族で朝ご飯を食べていると、テレビで放送しているニュース番組からそう聞こえて来た。


「なんだと!母さん、お〜い」


 父がそう言い、食べるのを中断して勢い良く椅子から立ち上がる。

 ご飯くらいゆっくり食べれば良いのに、と思いつつ俺は白米を口に運ぶ。


「どうしたのよパパ」


 キッチンで洗い物をしていた母が、洗い物を中断してリビングへと来た。


「ハロー警報が東京都で発令されたらしいんだ」


「えっ! 本当に?」


 母は、急いでテレビの方へと向かってニュース番組を確認する。


『本日のニュースはこれでお終いです。続いては......』


 アナウンサーが言葉を続けかけた所で、母がテレビを消した。

 朝のテレビくらいゆっくり見たいのに、と思いながらも目玉焼きを口に運ぶ。

 ニュース番組が終わりテレビを見ていた母が、ご飯を食べている俺の方へと来た。


「あのね、裕ちゃん。ハローはこんにちはってあいさつのことなの」


「それくらい学校で習ったし、言われなくても分かるよ」


 ご飯を食べながら、今更そんな事を言わなくても良いのにと思った。

 確かにテストの点数は悪かったが、それくらいの英単語は既に知っている。


「そうじゃないんだ裕太」


「そうよ裕ちゃん。あいさつされたら、返さないといけないのよ」


「今度のテストは気を付けますよ〜だ」


 俺はご飯を口に詰めし込み、カバン片手に玄関へと向かう。

 両親からバカにされているように感じて、これ以上の会話をしなくなかったのだ。

 それになんだハロー警報って、波浪警報の間違いだろ。


 間違っているのはどっちだよ、と思いつつ学校へと向かう。


 ◇


「お〜い裕、朝のニュース見たか?」


「波浪警報のことだろ? それがどうかしたのか」


「あ、あぁ。お前知らないのか」


 通学路を歩いていると、小中同じでクラスまで同じという腐れ縁の山田が話しかけて来た。

 山田までその話題を口にしてくるのが珍しいと感じたが、会話を続ける。


「お前もハローはあいさつだ、とか言うじゃないだろうな」


「おお〜、よく分かったな。あいさつはされたら返さないと大変な目に会うからな。それに波浪じゃなくてハロー、な」


 俺には両親と山田が言っていることが良く分からず、みんなして頭がおかしくなったとすら思えた。

 山田の言ってる事がよく分からなかったので、適当に返事をしてその場をやり過ごす。

 その後は、いつもと変わらないアニメやゲームなどの話をしながら学校へと歩いた。


 ◇


 今日の授業が終わり、部活にも入っていない俺は帰宅の用意を進める。

 同級生たちは、部活や委員会に所属する者と俺みたいにすぐに帰宅する者に分かれ、それぞれ違った準備をしていた。


「お〜い裕、この後すぐに帰るんだろ? なら本当に気を付けろよ、あいさつは大切だからな」


「まだ言ってたのか山田、こりない奴だな」


「おいおい、これは......」


「またな〜」


 帰宅の用意を進めていると、山田が話しかけて来た。

 山田の奴は、朝と変わらずふざけているようだったので、会話を途中で切り上げて廊下へと向かう。

 山田は、この後所属しているサッカー部の練習に行くらしく、練習着に着替えていた。


「あらまぁ、大丈夫かねぇ〜」


 後ろの方でそんな声が聞こえてきたが、無視して歩き続ける。


 ◇


「ハロー」


 一人で通学路を家に向かって歩いていると、唐突とうとつにそんな声が聞こえてきた。

 それは日本人が発音するような英語ではなく、流暢りゅうちょうな英語の発音だった。

 俺は、どこかで外国人が話しているのだろうと思い、そのまま歩き続ける。


「「ハロー」」


 しばらく歩いていると、また先ほどと同じ台詞が聞こえて来た。

 しかも、先ほどと同じ台詞ではあるが、先ほどとは異なり人数が増えているようだった。

 ここは東京都であり、日本人だけではなく外国人も多く住んでいるため、よくある事だと思い歩き続ける。


「「「ハロー」」」


 流石に3回も同じ台詞が聞こえて来ると、恐怖を感じた。

 先ほどと同じ台詞、けれど先ほどよりも人数が増えている。

 俺は、恐怖を感じてそのまま早歩きで家へと向かう。



「「「「ハロー」」」」


 その台詞が聞こえて来た時、俺は無心で走り出していた。

 周囲は閑静な住宅街で、この辺に住んでいる外国人もあまり多くなく、観光地でもないのであまり見かけない。

 それなのに、四人もの声が一斉に聞こえて来たのだ。



「「「「「ハロー」」」」」


「「「「「「ハロー」」」」」


「「「「「「ハロー」」」」」」


 おかしい。

 いくら走り続けても、同じ台詞が後ろから聞こえて来る。

 これ以上走り続けても同じことだろうと思いつつ、俺は走るのを辞めて勇気を出して後ろを見た。


「あの、さっきから俺を追いかけて来てるのはどなたですか?」


 後ろを振り返ると、多様な国家の外国人と思われる人が6人ほどいた。

 高齢の人から女性も人もいて、とても俺の走りに着いて来られるとは思えなかった。

 何とも言えない恐怖を感じていると、6人は俺の方を見て言った。


「「「「「「「ハロー」」」」」」」


 俺は、身体中から鳥肌が出ているのを感じた。

 先ほどまで目の前にいたはずの外国人は6人であり、決して7人ではなかったはずだ。

 それなのに今の俺の目の前には、7人の外国人がいる。


 この時、俺は朝の両親が言っていたハローのことやテレビのハロー警報、山田が言っていたことを思い出した。

 あれがもし波浪警報ではなく、ハロー警報だとしたら......

 俺はありえないと思いつつ、ある言葉を口にする。


「は、はろー」


「「「「「「「ハロー!!」」」」」」」


 俺が言った事に対して、7は流暢な英語で返した。

 7人は満面の笑顔を浮かべ、とても満足しているように見える。

 多様な国々の外国人たちは、それだけ言うとそれぞれ別方向へと歩いて行く。


 何がなんだか分からないが、彼らが満足したのは間違いないらしい。

 今まで両親が言った事や、山田の言った事を無視し続けてた結果、怖ろしい目にあってしまった。

 あの時、少しでも真剣に話を聞いていればこんな思いをしなくて済んだかもしれないなと思った。


「ハロー警報、か......」

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