第7話 平和な時間

「うふふ。冗談よ」


そう言って、彼女はちらつかせていたスマホをポケットに仕舞った。


口では冗談よ。と言っていたけどね麗華さん?

目が全然笑ってなかったんだけど……本気じゃ無いよね?


僕は信じてるよ。

麗華さんのことだから2割は冗談だってこと。

……それはほとんど本気じゃないか!


「じゃ、戻りましょ。お父さんたちに彼女とやらせて下さいって言いに。それから街でセ○クスしましょ?」


「彼女を下さいだよね!?本来なら!いや、本来もなにも今日は言うつもりがないんだけどさ!挨拶が変わったどころか、一周回ってド直球すぎるよ!それと、あたかも僕が我慢できないみたいに言わないで!」


やばい!ツッコミが追いつかない!

てか、彼女を下さいって今日僕言うの!?


「え?太陽くんはしたくないの?私とセ○クス」


彼女の純粋な、言ってる内容があれなのになぜか無垢な瞳で僕を見ている彼女の言葉が、不本意ながら僕の心に、脳に、ストんと落ちた。

彼女の純粋な疑問の言葉が。


ツッコミで血圧が上がっていたはずの僕の体温が一気に下がった。

それほど彼女の言葉が心に響いたんだろう。

純粋に聞いただけの彼女の言葉が僕の心に響く。


いつもの僕なら


『今はそういうことを言いたいんじゃない!』


とかなんとか、話の流れから考察して僕はツッコんだと思う。


「え……いや、その……」


でも、今の僕はツッコミどころか、直ぐに答えられない……。


僕だって人間だ。いや、男だ。

そう言った欲ぐらい僕だって持っている。

持ってないと言えば嘘になる。

だからなのか、いつもならツッコミを速攻で入れる筈なのに、今の僕には出来なかった。


そんな若干の混乱状態のなかで、僕の眼は瞳は視界は彼女の身体全体を捉える。


僕が今まで出会った中で断トツに整っている顔。

サラサラとした金色の髪。

肢体から伸びるスラリとした両腕両脚。

僕は脚フェチだから彼女の柔らかそうでムチムチしている太ももに目がいってしまう……って何を言ってるんだ僕は!


服の上からでも膨らみがあるのが分かる生で見たこともある彼女の胸……これらを見せつけられて尚且つ、それを所有している所有者に言われると僕にだってくるものがある。


したい!ってぜがひでも言ってしまいそうになるよ。

でもね、話の流れ的にいう場面ではないと思う。

あーなんで僕はこんなにも深く悩んでしまうんだ。あれの内容なのに!

なんか、だんだんイライラしてきたぞ!

麗華さん、なんてことを聞くんだ!


心の中で逆ギレしてしまった僕が何も言わないのを心配してか、麗華さんが口を開いた。


「ふふ。大丈夫よ太陽くん。太陽くんはやりたい時に私を使えばいいの。だから、今は答えられなくてもいいわ。私はいつでも受け入れ態勢万全だから!24時間365日いつでも私を犯してね!それと、私もちゃんと太陽くんのご両親にもう一度やらせて下さいってお願いするから」


「なにも大丈夫じゃないよ!いい話かと思ったけど、内容があれのせいで、全然いい話でもなんでもなくなったよ!麗華さんはもう少しいや、けっこう自重すべきだよ!あと、あの感じだと即OK出すよあのバカ両親は!」


ほんの一瞬いい話かな?とも思ったけれど、最初からこの話はいい話でもなんでもないよ!ただの下ネタだった!!


「でも、初めてはいい思い出にしたいから、ロマンチックに……でも太陽くんはこう見えて鬼畜で……この変態!私の初めてのいい思い出を返して!」


「理不尽だ!話が麗華さんの中だけで飛躍し過ぎてて訳がわからないよ!」


麗華さんの勝手な妄想で変態と罵られ、怒られるって理不尽すぎる!


「おっ!やったのか!?太陽!」


「大丈夫だぞ華麗!痛いのは初めだけだ!後は慣れでどうにかなる」


声が大きかったのか、それとも単に盗み聞いていたのかは分からないけれど、何処からとも無く父さんたちが顔を出してきた。


おっかしいな〜。

ここはさっきまでいた部屋に近くもなく遠くもなくって場所なんだけどな〜。……なんで父さんたちがいるんだッ!


「普通の子に育てたつもりだったんだけどね」


「大丈夫よ華麗。貴方もすぐに慣れて太陽くん好みの女の子に調教されるから」


そして、その後ろから母さんたちも顔をのぞかせてきた。


「誤解だよ!母さんに麗華さんのお義母さん!」


この後僕はツッコミ……じゃなかった。誤解を解くのに必死になってまわった。まったく、麗華さん一人でも大変なのに+4人も相手になるとなると僕の体力が持たないよ。


「太陽くん好みの女の子……太陽くん!さぁ早く私を太陽くん好みに調教して!さぁ!」


「止まって!麗華さん止まって!」


迫り来る麗華さんを紙一重で躱し、僕はなんとか難を逃れた。

麗華さん……両親の前で調教してとか言わないでもらえると助かるんだけどな……と、僕は心の中で呟いた。



「まっ、それにしてもまさか太陽に彼女が出来るなんてな母さん」


部屋に戻り、運ばれてきたごはんを6人で食べながら歓談していると、酒の入った父さんがいきなり言い出した。


「そうよね。まさか太陽がね。一人暮らしをしたいがために私たちの前に靴を持ってきて、僕の覚悟を見て!って言ってその靴を舐め」


「ねぇ母さん!喉乾いてない?ほらっ水飲んで!」


「あら。珍しく気が利くわね。ありがと太陽」


「ねぇ。太陽くん。今の話って一体どういう……」


「え?!なんのことかな?僕にはさっぱり分からないや」


ハハハ。母さんは何を言ってるだ……酒を飲んでるようには見えなかったけど、飲んでたのかな?


「あ〜あれな。あれはびっくりしたぜ。いきなり俺の靴」


「そう言えば僕がこっちに来る前に父さんの部屋で見慣れない黒い箱に入ったDVDがあったんだけど、あれはなんなの?父さん?」


「あーあれはな。俺が母さんに隠して持ってるえーって、てめぇ!何言わせやがる!」


実の息子にてめぇ呼ばわりする最低な父親には、僕以上に酷い目にあってもらなわないとね!

あとは、酒の恐ろしさを味合わせないとね。


「それはどういうことかしら?あなた?」


「いや、違うんだ母さん。決してやましい気持ちで見ようとしたわけじゃ」


「やましい気持ちで見ないはずないわよね?」


うん。予想通り母さんの制裁が下ったぞ。

僕の両親はこう見えて、まぁ、どう見てもいいんだけど、母さんは父さんのこと好き過ぎてるからね。


エッチなDVDを持ってるだけでブチギレするからね。

なんならテレビに出てきた女の人を見た父さんの表情でブチギレるからね。


「私という人があなたの傍に居るというのに……はぁ。もう〜怒った。あなた。今夜は寝かせませんからね?」


「は、ひゃい!」


麗華さんのご両親もあれだなって思ってたけど、僕の両親も大概だ。


「ねぇ。太陽くん?靴がどうかしたの?」


「え?靴?なんのことかな?」


「さっき太陽くんのご両親が言ってたじゃない。靴がどうのこうのって」


「えーと。僕にはなんのことだかさっぱり分からないなー」


苦笑いで麗華さんの質問を誤魔化し、僕はこの冷や汗はどうにかならないかと思案していた。

いや、ほんとうに、一人暮らしをしたいがために靴を舐めたわけじゃないからね?それくらいの意気込みと覚悟を見せただけだから!



「私の両親はどうだったかしら?太陽くん」


僕の両親と麗華さんの両親を交えた食事を終えて、やっと僕らは俗に言うデートを始めた。

いや、朝からデートはしてたんだけどね?でも普通のデートはここからだからさ。


両両親たちと別れ、駅に向かう道中で麗華さんはそんなことを聞いてくる。


麗華さんの両親がどうだった……か。

んー。なんて答えればいいんだろう……。

一言すごかったよって言ってもいいんだけれど、それじゃあなんか失礼な気がする。


僕は考えたあげくこう答えた。


「ん〜。何と言うか麗華さんの両親だな〜って感じがしたよ。それと、いい人そうだと思ったよ」


うん。嘘も何も言ってない。

この感想は本心だ。麗華さんの両親は麗華さんの両親だなと思った。


それに、けっこうギリギリな発言はあったけど、雰囲気そして、少し話してみて思ったのはいい人ということだ。


「そ、そう。良かった」


僕の感想を聞いて、麗華さんは小さくため息をした。自分の両親を紹介するのはさすがの麗華さんでも緊張するんだね。


「太陽くんのご両親も素敵な人たちだったわね」


「そ、そうかな?」


自分の両親を他人に褒められるというのはけっこう恥ずかしい。あんな、両親を素敵って言ってくれるなんて。


「これで、気兼ねすることなくセ○クスできるわね!」


「うん。今の話の流れからどうしたらそうなるのかな?」


麗華さんと出会ってまだ日が浅いけど、全然麗華さんのことが分からないし、分かる日が来るのかどうかも分からない。

いや、分かってしまったらそれはそれでなんか恐ろしい気がする。



電車から降りた僕たちは、駅の前にある公園に来ていた。

街の中枢にあると言うのに、緑が多く、噴水があってそこら中にカップルの人達がいる。

どうやら、ここはカップルたちの定番のデートスポットのようだ。

リア充たちがっ!


「えーと、これからどうしよっか」


周りをキョロキョロしながら、麗華さんに聞く。

周りがカップルだらけと言うのもあってか、なんだか気はずかしい。


「とりあえずあそこに座りましょ?」


そう言って麗華さんが指さした場所にあったのは二人掛け用のまるでカップルの為だけにあるようなベンチだった。


えーと。あれに座るの?なんかちょっと、いや、かなり恥ずかしいんだけど!

背もたれはハート型になってるし、色はピンクだし、人通りは多いしで座りたくないんだけど!


「さっ!行きましょ太陽くん!」


そんな僕の気持ちとは裏腹に、麗華さんは僕の腕を掴んで一直線にそのベンチへと向かう。


まず、ベンチに麗華さんが座り、隣をトントンと叩く。ちょうど空いている一人分のスペースに座れと言うことらしい。


「ほら、太陽くん恥ずかしがってないで座って!」


「かなり恥ずかいから座りたくないんだけど」


だって、これに座ってしまえば、周りからどんな目で見られるか分かったもんじゃない!というか、めちゃくちゃ恥ずかしい!超恥ずかしい!


「私は太陽くんに恥ずかしい姿をいっぱい見られてるんだけどな〜」


「交換条件風に言ってるけど、僕が見たんじゃなくて、見せてきてるんだからね!?」


裸エプロンしかり、裸しかり、裸しかり、ほとんど裸。恥ずかしい姿どころか、麗華さんのありのままを見せられてきた。


「でも、私のオ○ニー姿を見たときは、私が見せたわけじゃないわよね?」


チラチラとスマホをチラつかせる。

くっ。たしかに、麗華さんの自慰行為は僕が見てしまった。それを言われると、


「あっ、けっこう柔らかい材質なんだね。このベンチ」


座るしかないじゃないか!


「素直じゃないんだから太陽くんは」


「ははは」


乾いた笑いしか出てこない。




「お水でも飲む?」


行き過ぎる人たちを眺めていると、麗華さんから環境にやさしいペットボトルの水を差し出された。


「ありがと」


僕はそれを受け取り、蓋を開けて飲もう……としたけれど、彼女、麗華さんが朝やった一件を思い出し躊躇する。


「ふふ。心配しなくても何も入ってないわよ?それとも入れといた方が良かったかしら?」


「何も入れなくていいよ。じゃあ……信じるからね?」


まさか、水を飲むだけで信じるという言葉を使う日が来るとは思わなかったよ。

I believe in the future 私は未来を信じてる。

小学生の時歌ったよね。


未来というより、麗華さんを信じなきゃいけないんだけど。


受け取ったペットボトルに口をつけ水を飲む。

うん。水だ。普通の市販の水だ。変な味はしない。


「言ったでしょ?何も入れてないって」


「そうだね」


麗華さんの言った通り、何も水には入ってなかった。今度からは麗華さんの言葉を多少は信じてもいいかもしれない。


ゆったりと時間が流れる。

気温も過ごしやすい気温だし、風も適度に心地よく吹いている。噴水の音、木々たちの風に吹かれて葉っぱが擦りあう音。

なんて、平和な時間なんだろう。


麗華さんと出会ってから一番の平和な時間を今過ごしているかもしれない。


「意外だね。麗華さんがここをチョイスするなんて」


今回のデートは、麗華さん主導のデートだ。

恥ずかしながら1回もデートをしたことがない僕は麗華さんに全てを任せていた。


麗華さんのことだから、もっと派手目なところにでも行くのかと思ったけど、こんな落ち着いた場所をチョイスするなんて思わなかった。

その疑問を僕は口にしていた。


「ラブホテルの方が良かったかしら?」


「僕は断然公園が良かったよ」


「ふふ。私もこうして好きな人と落ち着いた時間を過ごしてみたかったの」


「え?」


僕が聞き返したのと同時くらいに、麗華さんは自身の頭を僕の肩に乗せてきた。

よくカップルたちがやっていて、爆発しろと僕が常々思ってたやつだ。


「いい?」


「う、うん」


甘えたような麗華さんの声に僕はやられてしまった。

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