第8話 コスプレ喫茶
ゆったりとした時間を過ごした僕たちが、公園を出るころにはもうすっかり辺りは夕暮れに染まっていた。
肩に頭を乗せられてドキドキとしていた僕は、もう夕暮れになっているなんて思わなかった。
どれだけ緊張してたんだろ。
「じゃあ夕ご飯を食べて、ラブホテルにいきましょうか。太陽くん」
「うん。ごはん食べて帰ろっか。どこで食べる?」
ナチュラルにホテルとか言わないで麗華さん。
「もう…つれないわね。順番はおかしくないでしょ?」
「順番はおかしくないけどさ。初デートでそれはどうなのかな?」
付き合うなんて麗華さんが初めてだから分からないことが多いんだけど、
いきなりその……ホテルはないんじゃないかな?
確かにデートの流れからすれば順番はおかしくないとは思うけども!
それとね?人通りが多いせいなのか、麗華さんの発言で何人かがこっちを見てるんだよね。
早くこの場から立ち去りたい!
「初デートも初めても処女も変わりないわよ!行きましょう太陽くん!ラブホテルに!!」
「色々おかしいから!麗華さんの発言いろいろおかしいから!そして、目的が変わってるってことに気づいて!」
だめだ!
とりあえずこの場から立ち去らないと!
じゃないといろいろまずい気がする!社会的に!
「と、とにかく夕ご飯を食べに行かない?」
話題を変えて?話題を変えて?最初から夕ご飯の話をしていた気もするけど、なんとか麗華さんを落ち着かせようとする。
成功したのか、麗華さんは首を小さくコクンと縦に振ると
「そうね。男の子は腹が減ってはセ○クスができない!お腹が減ってる女の子には精子を飲ませろって言うくらいだものね!」
とんでもない事を言い出した。
「それは麗華さんしか言わないよ!もう、ちょっと来て!」
たまらなくなった僕は、麗華さんの腕を掴んで人通りの多いところから少ない路地裏へと連れ込んだ。
走ってる最中麗華さんが、「いきなり強引になるのもこれはこれで」とか言ってる気がしたけど気にしない。
まぁ、なんとかこれで、他人に麗華さんのあれな発言を聞かれることはなくなった。
「こんな人通りの少ない路地裏に連れ込んで何をする気?太陽くん。はっ…!この変態!人にばれるかばれないかの瀬戸際でセ○クスをしたいって言うの!?」
「違うよ!僕はただ麗華さんのあれな発言を」
「それはそれで興奮するわね!初めてはロマンチックにって思っていたけど、これはこれで二人だけの特別な思い出になるからいいわね!さあ!太陽くん!今なら誰もいないわよ!私のしょ」
「少し落ち着いて麗華さん!」
興奮状態の麗華さんの口を止めるため、僕は彼女の口を手でふさいだ。
ペロペロと舐められている気もするけれど、なんとか興奮は治まったみたいだ。
「落ち着いた麗華さん?」
「(コクコクペロペロ)」
「ふぅ。じゃ手を離すよ。ごめんね急に」
麗華さんの発言のせいで急に手で塞ぐことになったとはいえ、女の子の口を急に塞ぐなんて普通ならやっちゃダメだと思うし、やらないと思う。
ここは、素直に謝まっていたほうがいい。
そして、僕はゆっくりと彼女の口から手を離す。
なぜか、手がべったりとなっていた。
「ぺろ。ん…強引なんだから」
なんだろう。いまの麗華さんからは、何故か妙な色っぽさを感じるんだけど。
なんか、変なスイッチを押しちゃったのかな?僕は。
「その、時間も無くなるしごはん食べようよ」
刺激しないように、僕は言葉を選んで麗華さんをごはんに誘う。
「ごはん……じゃあ…その…召し上がれ」
麗華さんはそう言うと、服をはだけさせながら…!!
「待って!待つんだ麗華さん!」
「?」
「僕が言ってるのは食べ物の方のごはん!」
「?私のことでしょ?」
「なんでそうなるの!」
おかしい!なんか状況が…というか麗華さんの脳がどんどんアレなほうに向かってるんだけど!
「ふふ。冗談よ。じゃ、夕ご飯食べに行きましょ。行きたいところがあるの」
「冗談にしては悪すぎるよ」
なんとか正常になった麗華さんと一緒に、彼女が行きたいというお店に二人で向かうことに。
もう、麗華さんの本気と冗談の区別がつかないんだけどどうすればいいかな?
☆
二人で数分歩いた後、たどり着いたのは、オシャレな看板が立てかけられている喫茶だった。
店の前の歩道ではメイド服を着た何人かの呼び込みの娘がお客を誘っている。
「メイド喫茶?ここに来たかったの?」
「違うわ太陽くん。ここはコスプレ喫茶よ」
コスプレ喫茶?最近はこんなのもあるんだ。
なんで麗華さんはここに来たかったんだろう。
「どうしてここに来たかったの?」
女の子より男の僕たちの方が来たがると思うんだけど。
あれかな。可愛い服を着てみたいからとかそんな感じかな?
なんだ麗華さんも普通に可愛いところがあるじゃないか。
「太陽くんはどんなコスプレが好みなのかと思って。プレイの参考にね!」
「そんな笑顔で言われる僕は、なんて返したらいいの?」
全然普通じゃなかったよ。麗華さんは麗華さんだったよ。
「とりあえず入りましょうか」
「う、うん。そうだね」
……なんだろう。
僕だって男だ。こういった店に興味が無いわけじゃないから入ってみたいって気持ちがさっきまであったんだけど、不思議だよね。
麗華さんの一言のせいで入る気が失せちゃってるよ。
☆
「お帰りなさいあなた!ごはんにします?お風呂にします?それとも…」
店内に入ると、エプロンを着た女の子が案内をしにやってきた。
ここで重要なのは、麗華さんと違って裸の上にエプロンじゃなく、ちゃんとした服の上にエプロンを装着しているということだ。
こんなところに来たこと無いから分からないけど、ここの仕様なのか、コスプレ喫茶ならではなのか、普通の接客じゃなく、着ている服つまりコスプレしている格好によって接客をしているみたいだ。
僕らの前に来てくれた女の子は新妻のコスプレなのか、(新妻はコスプレにはいるのか?)前に麗華さんもやった新妻の出迎え方で接客をしてくれる。他に入ったお客さんに対してはナースのコスプレをした女の子がお注射打ちますかなんて言って接客をしている。
こういう感じ僕は好きだな。なんだか楽しくなるしね。
今度、太郎でも誘ってこようかな。
はまりすぎて太郎と一緒に破産する未来が見えるけど。
さて。
メイドさんの問になんて答えようか。
ここは普通にごはんでって言った方がいいんだろうけど、おふざけでお風呂とか貴女でって言ってもいいんじゃないかな。
でもまあ勇気がないから言えないけどね。
「えーとじゃあ、ごはんに」
「ちょっといい?」
僕が女の子に答えようとしたら麗華さんが凄い剣幕で女の子の前に立った。
こんな顔をした麗華さんを見るのは初めてかもしれない。
「私の前で太陽くんを誘惑するなんていい度胸ね」
「あっ、えーとお嬢様その」
「麗華さん?」
一瞬、不倫相手か何かの演技でもしているのかと思ったけど違う。
女の子もこれがまじなやつだと思ったらしく、接客を忘れ固まっている。
「見てなさい!あなたの誘惑より私の誘惑で堕ちる太陽くんを!」
勢いよくコートを脱ぎ、上着に手をかける麗華さん。
ってちょっとまったあああ!!!
「なにをしようとしてるの!?麗華さん!」
「なにって、決まってるじゃない!新妻をやるのよ!」
「いやいや意味が分からないよ!」
「こんな子に負けていられないわ!私が一番新妻で太陽くんを誘惑できるってことを証明するのよ!!」
え?どういうことだ?いきなりの展開すぎて分からないんだけど、麗華さんは目の前の女の子に負けたくないから新妻をやろうとしていて…ああ!
とにかく今は麗華さんを止めないと!
このままじゃ公然の前で全てをさらけ出した麗華さんが!!
「いいよ麗華さん!新妻なんかしなくて!」
「でも!」
「麗華さんが一番新妻で誘惑出来るのは僕が知ってるから!」
ああ。僕は何を言ってるんだ…。
これじゃあ麗華さんの新妻姿を見たってことを言ってるようなものじゃないか。
いや、実際見たんだけどね。
「新妻ごっこで誘惑…!?」
「ああ誤解です!誤解ですから!」
目の前の女の子がすごい勢いで引いてるのが分かる。
違うんですよ。誤解なんですよ。これはあれなんですよ。見たのは事実なんですけど。
僕は心の中で女の子に誤解を解くために必死に弁明していた。
☆
「もうやめてね?麗華さん。みんなの前でいきなり服を脱ごうとするのは」
色々言葉を重ねて多少の誤解を解いた僕たちは、なんとか店の中に通されて席に着けた。
席について早々したのは説教だ。
僕が麗華さんに対して軽く説教をするなんて初めてかもしれない。
「だってぇ」
「だってでもないよ。ほかの誰かも分からない人に裸を、しかも無償で見せちゃうんだよ?もっと自分の裸が価値のあるものだと分かってよ」
麗華さんの裸はとても価値があるものだと思う。
麗華さんに限らず女の子の裸は価値があると思うけど、麗華さんの裸は格別だと思う。
そんな裸を無償で見せるなんてもったいない。
そんな裸を無償で何かいか見ている僕は世界一幸運だと思う。…裸を見るたびに何かしらの危険はあるけど。
「それに…僕以外には見られたくないかな」
恥ずかしさが勝って最後の方は声が小さくなった。
下僕という名の彼氏が何言ってんだって話になるけど。
「うん…!これからも太陽くん以外には絶対に見せない」
「そうしてもらえると助かるし、嬉しいかな」
「じゃあさっそく今晩は私の裸じっくり見てね!」
「うんって、え?」
「遠まわしにセ○クスしようっていう誘いなんでしょ?今のは」
「違う!違うよ!」
なんだろう。噛み合ってるようで噛み合って無いね。僕と麗華さん。
☆
「いろんな種類があるんだね」
渡されたメニュー表を見ると、丼ものから麺系、定食にフレンチとたくさんの種類があった。
食べ物の種類も豊富なんだけど、僕が気になったのはコスプレという項目だ。
説明書きが書かれてあって読んでみると、どうやらこれは好きなコスプレをしている女の子を選べるみたいで、その女の子が料理を運んでくれるみたいだ。別料金を払えばそのまま接客してくれると書いてある。
うん…できれば接客してもらいたい気持ちもあるけれど、これは今度太郎と来た時に頼もう。
これはもう破産の未来だね。ついでに前園さんに太郎がこういう店に来てたよっていうことを教えないとね。
「そうみたい。んとこれは」
「どうしたの?」
メニュー表を見ていた麗華さんの視線がある一点で止まった。
麗華さんの視線を追って僕もメニュー表を覗いてみると、コスプレ体験と書かれてあった。
「やろうかしら?」
「え……やるの?」
なんだろう。すごく嫌な予感しかしないんだけど。
コスプレ体験で着れる服装はいろいろあって、スタイルのいい麗華さんが着ればどれも映えるんだろうけど、めちゃくちゃ見たい気持ちもあるんだけど、僕の中の何かが着ないで!と叫んでる。
「辞めといた方がいいんじゃないかな?」
「それもあれなの?他の人に見せたくないから?」
「う、うん。そうだよ」
裸と違ってコスプレなら逆に見せびらかしてもいいと思うんだけど、コスプレした麗華さんが何かをやらかすよりは、ここで話を合わせておいた方がいい。
コスプレして暴走した麗華さんを止める自信なんてないからね。
「そっか。残念。色々着たかったんだけどな~可愛い服もたくさんあるし」
僕に向けた言葉ではなく、麗華さんは独り言と思われる言葉を呟く。
何を考えてるんだ僕は!彼女が着たいって言っているのにそれを止めるなんて!
麗華さんはただ純粋に可愛い服を着てみたいだけなのに!
麗華さんの言葉を聞いて反省した僕は、麗華さんにコスプレ体験してみようと提案…
「それにどれが太陽くんの好みかも分かるし、うまくすればそのままラブホ」
「さあ!麗華さん!何を食べる!?」
うん。やっぱり提案は辞めといたほうがいいね。
「え?そうね。このカップル専用オムライスがいいかしら?」
麗華さんに言われてメニュー表を見てみると、確かにカップル専用オムライスと書かれたメニューがあった。
二人で食べるもののようだし、これを頼もう。値段も二人分にしては安いし。
「じゃあこれにしよっか」
「太陽くんがコスプレの女の子選んでいいよ」
「え、じゃあ…うん」
なんか女の子に女の子を選んでいいよって言われると、罪悪感と恥ずかしさがすごいね。
気恥ずかしい中、僕はメイド服の女の子を選んだ。
「他意はないからね?スタンダードに無難なのを選んだだけだから!」
「ふふ。分かってる。えーとメイド服…メイド服あった…ぽちっと」
スマホをいじって何かつぶやいてるけどなんなのかな?
あれだからね?僕は決してメイドコスが好きなわけじゃないからね?無難なのを選んだだけだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます