僕は彼女に脅迫されて.......る?

ハタケシロ

第1話 秘密を知る

よく晴れた気持ちのいい朝に、僕こと柳瀬太陽は、自分を変えるべくジョギングをしていた。


なんで自分を変えるのに走ってるかって?それはなんとなくだ。

とにかく自分を変えるにはなにかやらなくちゃ行けないって思ったんだけど、とりあえず思いついたのがジョギングだったんだよね。


そして、今日から僕は高校生になる。

中学の時の黒歴史は封印して、新しい僕へと変わるべく、まず始めたのがジョギングだ。

ジョギング自体は先週くらいから始めていて、もうだいぶ体も慣れてきた。


うん。朝日を浴びながらジョギングをするのは気持ちがいいね。

なんかもう生まれ変わった気分だ。

ここ最近、毎日僕はこう思っている。


走ると人は変わると言うけれど(たぶん)うん、変わると思うよ。

だってこんなにも清々しい気分になってるんだから。


ジョギングをし始めて数分経った頃、僕は尿意に襲われた。

汗もかいてきたし、休憩がてら用をたそう。


そう思った僕は、近くにある公園に立ち寄り男子トイレへと足を運んだ。

この公園はいつも休憩に使っているけれど、トイレはあまり使ってない場所だ。

だからまさかあんなことになるなんて、この時の僕は想像すらしてなかったよ。


今日は入学式もあることだし、帰ったら念入りにマッサージをしないとな。なんて考えながら男子トイレへと入ると、人のすごく苦しそうな声が聞こえた。


「あっ……ん……うぁ……」


今にも死にそうな声がする。

これは大変だ。

救急車を呼ばなきゃ!と思った僕だったが、ジョギングに携帯は必要無いと思って、持ってきて無かった事に気づいた。


くそっ、なんでこういう時に限って僕ってやつは!


自分を叱るけれど、そうしている暇はない。

今にも死にそうな声を出している人が居るんだ。

まずは、僕にも出来ることをしよう。声はどうやら一番奥の個室から聞こえる。まずはその人の容態をみないと!


ある程度の応急処置の仕方は中学で習った。僕にもそれくらいはできる。頼むからあまり酷くない状態であってくれ!


僕はそう思いながら個室へと近づいた。

近づくときに見えたのは開けっ放しの扉。

良かった。扉が開いてるんならすぐに対応できるぞ。扉を壊さなくて良かったと内心思いつつ、僕は一番奥の個室にたどり着いた。


そして、僕が目にした光景は……


















自慰行為をしている女の子の姿だった……。



「あ、えっと、あの……えと」


いや、待つんだ僕。

もしかしたら自慰行為に似た何かかもしれない。

けれど、ろれつが回らない。

というか、言葉が浮かばないし、発せられない。

だってこんな経験初めてなんだもん。

いや、こんな経験をする人自体珍しいと思うけど!


僕が目にした。いや、している光景。

それは、僕と同い年くらいの女の子の自慰行為、(みたいな)だった。

服を胸の上までまくり上げて、白い肌に、ピンク色のって!何を実況してるだ!僕は!右手は秘部に、左手は豊満なって!だから何を実況してるだ!

ん?あの嗅いでるのはタオル?どっかで見たような……


とにかく自慰行為、(みたいな)を女の子はしていらっしゃった。


さらに驚くことに、驚くことにというかもう驚きを超えてよく分かってないんだけれど、その女の子はとびっきり可愛かった。


日本人だと思うけど、その髪は、金髪でさらさらしていて、身体の肉付きもよく、出るところは出てて……丸見えで。

ほっぺはりんごみたいに真っ赤っかで。

万人の心を吸い込みそうな大きな二つの瞳は、開眼したみたいに見開いていて……


「あ……あ…ああ……」


口は金魚みたいにパクパクしていた。


バッチリと僕と目が合う。

















時間が止まればいいのになって僕は思った。

そして、これは何かの間違いであってくれとも。


いや、だめだ僕。

考え方を変えるんだ。

いいことじゃないか!人が死にそうな声を出していたんじゃなくて、悶えていた声なんだから。

うん。良かった良かった。

人が倒れていたらどうしようかと思ったよ。ハハ。


よし。とじゃあジョギングに戻らないとね!


「えと、失礼しました」


会議中に間違えて入ってしまった平社員のように僕は謝った。

そして、何ごともなかったかのようにその場を……


「ま、待ちなさいよ…!」


消えそうなか細い声だったけど、その声は芯があって僕を止めるには十分な声量だ。

離れようとしていた僕は、足を止めて、女の子に安心させるように声をかける。


「大丈夫。安心してよ。記憶メディアの類は持ってないし、このことは誰にも言わないから。というかあの、ごめん。それじゃあ…」


僕は勢いよく立ち去った。


僕の言ったことは本当だからね?美少女さん!

もう会うことはないだろうから安心してね!


心の中でそう思いながら僕は、朝日が眩しい帰り道を全速力で走った。



さぁ、僕は今日から高校生だ。

朝には日課になりつつあるジョギングをして、気分爽快になったし、女の子なんて見てないし、気分よく学校に行こうっ!


真新しいブレザーに袖を通す、うん。中学は学ランだったけど、やっぱり高校生にもなるとブレザーだよね!なんか大人っぽいし。


ブレザーを着込んでいざ学校へ!


僕の通う高校は、僕の住んでいるアパートから徒歩数分というところだ。

近からず遠からずと言えばいいのかな?


ちなみに、僕は一人暮らしをしている。

親に頼みに頼みまくって、そりゃもう靴を舐める勢いで頼みまくって、一人暮らしを許可して貰ったんだ。いや、舐めてはないからね?


まぁ、頼んで一人暮らしをさせてもらえることになった。

理由としては通う高校が実家からだと遠いのと、僕自身が地元にいたくなかったからだ。

中学の黒歴史を封印するためには仕方ないよね。


今日から始まる学校生活にワクワクしながら歩いていると、僕と同じように今日入学式を迎える予定の学生が通学路を歩いている。

まだ、一人で歩いているのが多いのを見ると、この時点ではグループを形成してないみたいだ。そりゃそうだよね。同じクラスになるとも限らない相手にこのタイミングで話すやつなんてそうそう


「よぉ!お前も新入生か?」


いるみたいだ。


「うん。そうだけど?」


内心びっくりしながら答える。

まさかこの僕に話しかけてくれる人がいるなんて。

それと、対人コミュニケーションの練習をしといて良かった。オドオド答えたらせっかくのチャンスを無駄にするからね。


「そうか!なら一緒に行こうぜ!」


僕に話しかけてくれた男の子はそう言うと、僕の隣に並び一緒に歩き出す。

この人、すごい対人スキルの持ち主だ。


「おっと自己紹介が遅れたな。俺は第一中学出身の|辰巳太郎(たつみたろう)だよろしく!」


「僕は柳瀬太陽。こちらこそよろしく」


差し出された右手を、僕も右手で握る。握手なんて久しぶりだ。


「おう!よろしくな太陽!」


「グイグイ来るね」


「別にいいだろう?太陽も俺のことは太郎って呼んでいいからさ!」


「分かったよ。太郎」


なんか、ハイテンションな人だな。

こういう人がどんどん友達を作れるんだろうな。


「で、太陽はどこ中出身なんだ?」


「え?僕?」


一瞬ドキッとする。けど事前に答えを用意している僕は、それを冷静に答えた。


「ここらへんの中学出身じゃないから言っても分からないと思うよ」


「へーそうなのか。てことは一人暮らし?」


「てことはの意味が分からないけど、うん。一人暮らしだよ」


僕がそう答えると太郎は、僕に羨望の眼差しを向けてくる。


「うお!まじかよ!いいなー!一人暮らし!」


「そうでもないよ。炊事洗濯は自分でやらないといけないし、朝も自分で起きないといけないし」


一人暮らしはメリットがある反面、デメリットもある。

それが炊事洗濯を自分でやると言うことだろう。これがまた非常にめんどくさい。


「まぁ、でもさ一人暮らしだといろいろできんじゃん!」


「いろいろ?」


僕がそう聞くと、太郎は目を輝かせて饒舌に言う。


「女の子とか連れ込めんじゃん!」


「いやいやその前に、僕が彼女なんかできるはずないじゃん。なんなら女の子と仲良くすらなれないかも」


確かに太郎の言う通り、一人暮らしだといろいろできる。

そのうちの一つが女の子を堂々と呼べるということだろう。

呼んで何をするかって?それは想像に任せるよ。


でも、女の子を連れ込むなんて行為はカーストの高い人しかできない。

僕みたいに見た目も中身…も平凡なやつに彼女どころか、女の子の友達ができるはずがない。女の子を部屋に連れ込むなんて夢のまた夢の話。


「あ、そうだよなー」


うん。そうだよなってどういうことなのかな?


「俺らじゃ無理だよなー」


良かったらってつけてくれて。

なんか太郎とはいい友達になれそうな気がする。でも、太郎は僕と違ってイケメンとまでは呼べないけど、そこそこのルックスがあると思うんだけど。


「俺も一人暮らしだったとしても連れこむ女の子がいねー」


悲観そうにする太郎。うん。やっぱりいい友達になれそうだ。


「じゃあ僕らは同士だね」


「あーそうだな!」


一日で二度、同じ人と握手をするという出来事を僕は体験した。なんか、同士っていいね。


「太郎〜太郎〜!」


「げ、咲月!」


「げ、とはなによ。げとは。置いてかないでって言ったじゃーん!」


「お前が遅いのが悪いんだろ」


「おばさんと話してただけじゃん!」


急な女の子の登場に戸惑ってしまう僕。


「え、えーと」


「おっと悪いな太陽。紹介するぜ。こいつは咲月。まぁなんていうかあれだ腐れ縁だ」


「腐れ縁とは酷いわね!あっごめんね。太郎の友達……になったのかな?こいつ馬鹿だからすぐにいろんな人に話しかけるのよ」


「馬鹿とはなんだ!」


「馬鹿だからそう言ったのよ。あ、自己紹介が遅れたね。私は|前園咲月(まえぞのさつき)こいつの幼馴染で監視役だから。よろしくね!」


彼女はニッコリと満面の笑で僕に自己紹介をした。


「僕はさっき太郎と友達になった。柳瀬太陽こちらこそよろしく」


僕もなんとか返すことに成功。

こんな可愛い子に自己紹介をする日が来るとは思わなかったよ。


ていうか太郎?幼馴染って言った?

この黒髪ロングニーソの笑顔がキュートな女の子が?



リア充がっ!


「お、おいどうしたんだよ太陽?そんな苦虫を食ったような顔して」


「太郎との友好関係は今終わったよ」


「急にどうしたんだよ!?そんなこと言うなって!仲良くやろうぜ!」


肩を組んでくる太郎。性格がいいな太郎は。

リア充だけど仲良くなれそうだ。



「えーと、あったE組か」


掲示板に張り出されているクラス名簿を見て、僕がどのクラスなのかを確認する。

A組から見ていったから、途中で僕の名前がないんじゃ……って思っちゃったよ。


「太陽!何組だった!?俺はE組だったぞ!」


「僕もE組だったよ」


「まじか!やったな!」


太郎は嬉しいのか、笑顔だ。

たぶん僕も、とびっきりの笑顔をしていると思う。だって友達になったこと同じクラスになれたんだから。


「私もE組だったわよ太郎!」


「あーそうか」


どうやら前園さんも同じクラスみたいだ。

すごいな。こんなにも固まるなんて。


けど前園さん?そろそろ解いてあげてもいいんじゃないかな?プロレスなんて見ないから技名なんて分からないけど、さっきからタップしている太郎がそろそろ落ちそうだよ。


そんな光景を微笑ましく見ていると


「おい助けてくれ……!太陽……!」


ん?今のは幻聴かな?なんか助けを呼ぶ声が聞こえたけ気がするけど。

ごめんね太郎。

僕、痛いのはいやなんだ。

それに傍から見ると仲睦まじくしていて、嫉妬でうっかり太郎をやっちゃいそうだよ。


そんな光景を眺めていた僕の耳に、喧嘩とまでは言わないけど、言い争ってる声が聞こえた。


『触らないでくれる?汚れるわ』


『てんめぇ!調子にのんなよ!』


『私は事実を言っただけよ。調子になんてのってないわ』


『このぉ!』


『何をする気なの?暴力?まぁ残念。入学早々停学なんて』


どうやら、女の子とそれにちょっかいでも出した男の子が言い争ってるみたいだ。


「教室に行こうぜ太陽。ここにいるとめんどくさそうだ」


「そうだね」


いつの間にか開放されていた太郎と、前園さんと一緒に教室へ。

太郎の首には絞められた跡がまるで、首輪みたいにくっきりと残っていた。

この時、前園さんの機嫌は損ねないようにしようと僕は心に誓った。



教室で今日行われる入学式の説明を、担任の先生から簡単に受けたあと、僕たちは体育館に移動した。


特に席順とかも無いみたいで、僕は太郎と並んで座っていた。男女はさすがに別 別々だったけど。


「知ってるか?太陽。噂によると、今年の新入生代表はとびっきり可愛いらしいぜ」


「どこから仕入れたんだよ。その情報」


太郎は仕入先など詳しく話していたけど、興味のない僕は聞き流すことに。

太郎が情報通、とくに女の子のことに関してはすごいと言うのは分かった。

あと、前園さんがすごい殺気をこっちに放っているから、女の子の話はしない方がいいよ太郎。


「しかもうちのクラスらしいぜ。ほら、教室で1つ席が空いてただろ?新入生代表だから居なかったんだな。打ち合わせで」


「よく見てたね」


「まぁな」


たわいもない会話をしているうちに、式が始まった。

いろいろな挨拶がされる中、太郎注目の新入生代表挨拶が始まろうとしていた。


『うぉぉ』


体育館の至る所から、ため息とでもいえばいいのか、感嘆の声があがる。

どうやら、太郎の情報通り新入生代表は可愛いらしく、それに見とれて、みんな声を漏らしたようだ。


僕は朝にジョギングをしている疲れと、退屈な式とが相まって眠たさがMAXになり、新入生代表を見る余裕がなかった。

けど、マイクのスイッチが入り、新入生代表の凛とした声が体育館中に響きわたった時、眠気が吹っ飛んだ。

なんていい声なんだ。


僕はその声の主に興味を持ち、太郎の言う可愛いさがどれくらいなのかを確認しようと、顔をゆっくりとあげた。


下半身は、テーブルで隠れて見えない。へそあたりから僕はゆっくりと視線を上げる。


制服を着ていてもわかるくびれている腰。

制服の上からでも分かる胸の成長具合。

手や首は白くて、透き通ってるみたいだ。

顔を見るとたしかに、太郎の言った通りの.......。


僕は、……目を疑った。

そして、忘れようとした記憶が鮮明に蘇る。


朝見た美少女が。

自慰行為( みたいな)をしていた美少女が、堂々とした格好で、凛とその場に立っていたのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る