第2話 脅迫される?
こんな偶然はあるのだろうか?
朝見た。いや、見てしまった女の子が、新入生代表挨拶をしているという偶然が。
「ん?どうしたんだ?太陽固まって。あ、ははーん。あの美貌にやられたのか?分かるぞ。あれで落ちない男はいないだろ。見てみろよあの胸なんか。ぜったいいい形」
「うん。いい形だったよ」
「それはどういう意味だ?」
おっと、動揺しすぎてうっかり答えちゃったよ。
落ち着くんだ僕。
確かに、柔らかそうで白くていい形だった。
じゃなくて!
もしかしたら今、あそこに立っている女の子は、朝見た女の子とは違うかもしれないじゃないか。
世界には自分の似た顔の人が3人はいるっていうくらいだ。
彼女も顔が似てるだけかもしれない。
金髪だって日本じゃ珍しいけど外国じゃ当たり前じゃないか。
あの碧い瞳もカラコンか何かさ。
うん。絶対そうだ。
それとね太郎。
さっきから前園さんのものと思われる殺気が、場所を間違えているのか、僕にドンピシャで注いでいて息苦しいから、早くその伸びきっている鼻の下を戻すんだ。
心地いいとすら思っていた彼女の凛とした声が、僕にはもう届いて無かった。
僕の頭は、あそこに立っている女の子で埋め尽くされているのに、その女の子の声が聞こえないという良く分からない状況になっている。
僕が訳わかんなくなっていると、挨拶も佳境に入り、心に余裕が出たのか、彼女は挨拶文が書いているのであろう用紙から目を離し、新入生たちに視線を向けながら挨拶を述べる。
一人一人と目を合わせるつもりなのか、それとも男を落としにかかっているのかは僕には分からないけど、彼女はいろんな方向に視線を向けて話す。
そして、僕と目が合っいや、彼女は僕を見た。
『これから私達は……へっ……!?』
さっきまでの凛とした声ではなく、彼女はその風貌からはまず出さないであろう、素っ頓狂な声をあげた。
そして、みるみるうちに顔を赤くする。
『んん。し、失礼しました。これから』
しかし、何事も無かったかのように挨拶を再開し先程までの凛とした声で挨拶を続けた。
ほんのりと頬を染めながら。
「おい太陽!今、俺をみて詰まらなかったか?」
隣では太郎がおめでたいことをいってくる。
僕も切にそれを願うよ。太郎を見て言葉を詰まらせたとね。
それと、関係ないんだろうけど。前園さんには特殊能力かなにかあるみたいだ。だって太郎がおめでたいことを言った瞬間に、殺気が強まったんだから。
『新入生代表、|麗華華麗(れいかかれい)』
僕の頭の中でなんの整理もつかないうちに、新入生代表挨拶は終わった。名前は麗華華麗って言うんだ。
なんかお嬢様みたいな名前だ。
たぶんお嬢様なんだろうけど。あの感じは。
彼女は綺麗なお辞儀をしたあと、悠然とステージを立ち去り、何人かの男の人のハートを盗んで挨拶を終わらせた。
「華麗ちゃんって言うんだ……」
太郎もまた盗まれた一人みたいだ。ってちょちょちょ前園さん!?
抑えて!抑えて!殺気で息が!息がぁ!
僕はというと、形のないものにタップしていた。
☆
「ちょっといいかしら?」
入学式が終わったあとのHRも終えて、帰り支度をしていると、件の女の子が話し掛けてきた。
まさか女の子の方から来るとは思わなかった。
僕は、同じクラスだということを思い出した瞬間から、彼女に話しかけるどころか、関わらないように決め込んでいたのに。
「な、なにかな?」
いたって普通に、冷静に答える。
彼女への気配りの意味合いもあるけれど、一番は僕が死なないために。
波風立てないような発言をしないと。
『麗華さまがはなしかけてる……だと!?』
『あの冴えない男……何者だ?』
『ことと次第によっちゃ……』
『俺たちの華麗たんを……』
どうやら僕はこのクラスで太郎以外に友達を作るのは無理みたいだ。
いつの間にか出来ていた彼女の親衛隊に喧嘩を売ったようなもんなんだから。
せっかく黒歴史の中学校時代を封印するべくこんな遠いところの高校に通って、高校デビューしようとしゃれんこでいたのに!
さようなら!僕の高校生活!
こんにちは!地獄の毎日!
僕が脳内で昼はどこで食べようか考えていると、彼女は耳元で囁いた。
「ちょっとついて来なさい」
この瞬間、クラスの男たちが僕に一斉に殺気を放ったのは仕方ないことだろう。
救われたのは太郎がこの場に居なかったって事くらいかな?前園さん優しくしてあげてね?
「はい……」
僕は先導する彼女の後ろを小さくなりながらついて行った。
☆
彼女に連れてこられたのは、告白にも使えるし、暴力と言う名の呼び出しにも使えそうな体育館の裏だった。
「あなた……朝会ったわよね?」
真正面にいる彼女がそう聞いてくる。
頬を染めながら睨むように見ていて怖いな〜。
朝のあれは、会ったということでいいのかな?
みた。のほうがいい気もするけど。
「え?なんのこと?」
色々考えたけれど、僕はとぼけてみせた。
これをしてしまえば、まず朝に会ったということを無くすことができるし、みたというのも誤魔化せる。
こうすれば彼女は「あ、そうなの?」と勘違いで済ますことができて、万事解決。
お互いハッピーな気持ちで過ごすことができる。
もしかしたら地獄の毎日を過ごすハメにならなくなるかもしれない。
「とぼけないで」
そんな僕の考え方とは裏腹に彼女はいい迫る。
いや、そこは納得してもらいたかったんだけど。
「見たでしょ?あなた私のあれを……」
あ、やっぱり見た。っていう表現になるよね。
会ったではないよね?
彼女はさらに顔を赤くしながら聞いてくる。
恥ずかしいのなら聞かなければいいのに。
忘れようとしている記憶が蘇るじゃないか。
はーしょうがない。もう一回だけ。
「だから、なんのこと?」
もう一回だけとぼける。
助け舟は出したつもりだ。
あとは彼女がこれに乗っかるだけ。
僕は彼女のあれを見たはしたけど、撮影したりはしてない。
だから僕には彼女にたいして何かをすることは出来ないし、彼女も僕に何かをする必要もない。
何かって何って思うかもしれないけれど、僕だって男の子だ。教材をみて何かを知ったさ。
だから、あとは彼女が僕が出した助け舟に乗っかってくれれば万事解決……
「見たでしょ!私のアレをしてるのを!私はあなたの顔を覚えてるのよ!」
だめだ!
のっかってくれない!
なぜかは分からないけど、追い詰められた。
「えと。だから」
「見たでしょ!?」
「だか」
「見たわよね!?」
「だ」
「どうなの?」
「……はい。僕が見ました」
気分はまるで自白した殺人犯の気分。
どうして僕はこんな思いをしてるのだろうか?
「私の何を見たの?」
え?なんで聞いてくるのかな?
あ、そうか彼女から今度は助けを出してるだね。
「えとなんだったかな?」
「嘘を言ったら分かるわよね?」
あれ?どうやら違うみたいだ。
目がマジになってるよ。
なんで僕は彼女に彼女のやっていた行いを言わなければいけないという状況に陥っているのだろう。
「えーと、その、はは。なんだろうね」
「早く言いなさい。私が何をしていたのかを」
何で僕はこんなにも追い詰められているんだ?
でも、言わないとダメだ。
じゃないと解放されない気がする。
「その、自慰こ」
「オ○ニーと言いなさい」
「ちょっと待って!流石におかしい!」
つい、ツッコンでしまった。
せっかくオブラートとに言おうとしたのに、彼女はなんなんだ?!
僕の声に驚いたのか、彼女は一歩後ずさり、両手を左右反対の肩に回して身体を守るようにしてみせた。
そして、
「つ、ついに本性を見せたわね!」
「え、本性?」
それこそ、なんのこと?と僕は思った。
「私の秘密を知ってあなたは私にいろいろと……」
ブツブツと彼女は独り言をいい始める。
怯えた子鹿のように。
そして、今度は僕に向かって、独り言でも言っていたであろう内容を言う。
「私はあなたに秘密を握られて脅迫されるのね?」
まるで誘拐犯に捕まった可憐な少女のように彼女は僕に聞いてくる。
「?僕はそんなことしないって」
もちろん、そんな気なんてない僕はこう答える。
「あんなことやこんなことを要求する気でしょ?この変態!」
「だからしないって!それに変態はどちらかと言えば君のほうだ!」
「!やっぱりいろいろ要求する気ね!」
「どうしてそうなるの!だからしないよ!」
僕がしないと否定したあと、彼女はおもむろにゴソゴソと何かをし始めた。そして、ポケットから何かを取り出した。
「ここにカメラがあるの。意味が分かる?」
取り出したのは小型のカメラだ。
なんで彼女はそんな物を取り出したのか分からない僕は、
「分かんないけど」
と答える。
なんで彼女はカメラなんて取り出したんだろう。
謎だ。
僕がそう思っていると、彼女は持っているカメラを操作しながら僕に言う。
「このカメラにはあなたが私の秘密をしった時の映像が入っているの。これを流出されたくなかったら……」
「え、もしかして僕脅迫されてる?」
何故かは分からないけど、僕は彼女に脅迫されてるみたいだ。
どうして僕が、彼女に脅迫じみたことを?
そう思っていると、彼女は操作をやり終えたのか、カメラで撮ったであろう静止画を僕に見せてくる。
「この映像、見かたを変えたり、私が編集したら……」
僕が見ている静止画は、角度的に、僕が彼女のそのアレ(用を足してるでも可)をしているのを覗き魔みたいに見ている静止画だった。
静止画に映っている僕と、顔を赤くして、涙目の美少女な彼女。これは……どうみてもアウトだ。
「ごめんなさい!やめてください!」
こんな物を流出されてしまったら、内容は真実はどうであれ、僕は生きてられなくなる!
僕があたふたとしていると、彼女は勝ち誇ったように言う。
「形勢逆転ね!どう?追い込まれた気分は?」
さっきまでの怯えていた表情から一変、彼女は嬉しそうに悪徳令嬢のように言う。
「何も言えないわよね?」
駄目だ本当に何も言えない。
まさか、彼女の秘密を知ったことで僕が脅迫されるなんて。僕はこれからどうなるんだろう?
毎日下僕のような扱いになるのかな?
はー高校デビューしようとシャレこんでいたのに下僕デビューとは。
とんだ高校デビューだよ。
「で、君は僕に何をさせる気?君の秘密を知って弱みを握られてしまった僕に」
「あら。随分と自分の立ち位置を分かっているじゃない」
本来なら、本来ならというのもおかしいけれど、本来なら僕が脅迫する立場になってるはずなんだけどね。
なのに何故か僕が脅迫される立場になってしまっている。
世界は不思議で満ちているね。
「そうね。これを流出されたくなかったら……」
彼女は楽しそうに、僕をどうするか考えている。
僕はただ痛くない系だといいなと思いながら、数分前に僕の神様になった彼女の言葉を待つ。
やがて、いい案が思い付いたのか、彼女は頬を染めながらって頬を染める?
彼女は頬を染めながら人に酷いことを言う趣味でもあるのかな?
とんだサディストだ。
「じゃあ……」
そして僕に、天命が下る。
「私の彼氏になりなさ……なっ、なってください」
「はい喜んで。って.......え?はい?」
耳を疑った。
下僕になりなさいと聞くはずだった僕の耳は、なぜか彼氏なんて言う、下僕の数段高いグレードの役職の言葉を聞いたからだ。
いや、もしかしたら彼女の中では彼氏=下僕なんだろう。
そう考えると合点がいく。
なんだ、やっぱり下僕じゃないか。
こんにちは!僕の地獄の学校生活!
「か、勘違いしないでよ!私はあなたを脅迫できるものをもっているけれど、あなたには私のアレをしているのを見られたから、誰にも言わせないために傍に置こうとしただけなんだから!言わば彼氏と言う名の下僕よ!」
ほらやっぱそうじゃないか。
彼氏と言う名の下僕。
近くに僕を置いて監視するためというね。
「で、その……返事は?」
顔をこれでもかと真っ赤にしている彼女は聞いてくる。返事って僕には、
「それを流出されちゃまずいし、断る理由がないよ」
脅迫されている僕に断る理由なんてない。
断ったら社会的に抹殺されてしまうから。
「そ、そう。なら」
そう言い、彼女は僕に抱きついてきた。
豊満な彼女の胸が僕に当たる。
「よろしくね太陽くん」
高校入学式の日。
僕は一人の女の子の秘密を知ってしまって脅迫されて、彼氏と言う名の下僕になった。
なかなかの高校デビューだと自分でも思うよ。
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