第348話:エピローグ

 ――冒険者としてユージュラッド領内を旅していたアル。

 腰にはアルディソードとベビードラゴンの鱗を使って作られた剣――ドランリウムが下げられている。

 懐には斬鉄とオールブラック潜ませており、まさに冒険者という感じの装備を身に付けていた。


「……久しぶりだなぁ」


 まだ見足りない場所もあるのだが、アルは一年ぶりにユージュラッドに戻ってきていた。

 その理由は一つしかない――ユージュラッド魔法学園の卒業式だ。

 リリーナとの約束を果たすために戻ってきたのだが、アルは彼女が卒業できるのかどうかを聞いていない。

 しばらくユージュラッドで生活をしていたアルだったが、とある護衛依頼を受けてからは領内を駆けずり回る形になってしまった。


「ほほほ、ご無理を言ってしまい申し訳ありませんでした、アル様」

「これで恩返しができたと考えれば問題ありませんよ。それに、俺の我儘も聞いてもらっていますしね」

「何を仰いますか。今年はクルルも卒業が決まるかもしれませんからな。私も結果を聞いておらんので楽しみですよ」


 アルが受けた護衛依頼はクルルの祖父であるラグロス・リーズレットからの依頼だった。


「アル様はリリーナ様の結果を確認しに来たのでしたな」

「はい。今年卒業となれば、彼女は俺と一緒に冒険者として旅立ちます」

「エルドア家が良くお許しになりましたなぁ」

「ノワール家とエルドア家は懇意にしていますからね。その辺りは問題なく話が進みましたよ」


 貴族同士の婚姻には色々と手続きが必要になる事もあったが、辺境の地という事とアルがノワール家から出ている事、そしてエルドア家が下級貴族でありリリーナが次女である事も都合よく働いた事でスムーズに話は進んでくれた。

 エルドア家当主のロズワルドからの条件としては、リリーナがユージュラッド魔法学園を卒業する事だけなのでアルは完全にノータッチである。


「お互いに楽しみですなぁ」

「そうですね」


 笑いながらそう返したものの、アルはそこまで心配していなかった。

 リリーナの実力ならば、今年の卒業は問題ないと確信を持っていたからだ。


「では、行きましょうか」

「そうですね」


 門を潜り、二人は久しぶりのユージュラッドに足を踏み入れた。


 一度リーズレット商会に顔を出すと言ったラグロスと別れたアルは、久しぶりの町並みを懐かしみながら学園へと向かう。

 ノワール家の屋敷に向かおうかとも思ったが、ここでリリーナではなく家を重視するとラミアンに怒られるかもと思い直した。

 何しろ、ラミアンはリリーナと恋仲になった事を知るや否や飛び上がって喜んでいたからだ。


「さて、久しぶりの学園だなぁ」


 門が見えてくると、学生時代の記憶が蘇ってくる。

 辛く当たられる事も多かったが、アミルダの努力で徐々に改善されていった。

 クルルやシエラ、エルクたち学友もできた。

 そして、一番はリリーナとの出会いだろう。

 お互いに顔を知っていても、学園で出会わなければ友人関係すら築けなかったかもしれない。


「……本当に、世話になったんだなぁ」


 感慨深いものを感じながら門を抜けると、すでに卒業式は始まっており外には誰もいない――はずだった。


「……リリーナ?」

「……アル、様?」


 今まさに祝われているはずのリリーナが、たった一人で校舎の外に立っていた。

 大抵の事では驚かないアルでも、さすがに驚いてしまい口を開けたまま固まってしまう。


「……お前、何をしているんだ?」

「何をって……アル様を、待っていました」

「待ってたって、卒業式は?」

「学園長が私だけ、前倒しにしてくれたんです。アル様が迎えに来るだろうからって」

「……全く、あの人は」


 頭を掻きながら嘆息するアルだったが、それでも嬉しい気持ちに抗う事はできず歩き出すと、合わせてリリーナも前に進む。

 お互いにあと一歩という距離で立ち止まると、恥ずかしそうに笑い合った。


「……ただいま、リリーナ」

「……おかえりなさい、アル様」

「……もう行けるのか?」

「はい! 家族やクルル様たちとは、もう話をしていますから!」

「用意がいいんだな」

「……わ、私は、早くアル様と冒険をしたかったんですよ?」


 最後だけは少しだけ頬を膨らませながら、それでも恥ずかしそうに口にする。

 そんな様子がかわいかったのか、アルは優しくリリーナを抱き締めると、耳元で呟いた。


「……俺もだ」

「……はい!」


 体を離すと、代わりに手を取って走り出すアル。

 それにリリーナも続いた。


「行こう!」

「はい!」

「俺は世界を回り、最強の剣士になる! ついてこれるか?」

「もちろんです! 私の成長を見せてあげるんですからね!」

「楽しみだ!」


 学園を飛び出し、ユージュラッドを飛び出した二人。

 どこまで駆け上がるのか、それを見届けるのは――


(――……私、忘れられてない?)


 神像となり、アルがマジックバックに入れて持ち歩いているヴァリアンテだった。

 だが、長い間冒険者として活動していたせいか、その存在は忘れ去られている。


(――……もう神界に帰してくださいよ~、フローリアンテ様~!!)


 二人と一柱の冒険は、始まったばかりだ。


 完

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最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~ 渡琉兎 @toguken

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