第347話:アルとリリーナ
――卒業式が終わり、アルのところには多くの学生が集まって来た。
リリーナやクルルは当然の事、エルクたちのパーティや一年次にFクラスだった者もいる。
クラス分けに関してアミルダが学園長に就任してから一年ごとに規則が変わっていき、アルが卒業する年には完全な実力主義になっていた。
レベル1しかなくとも、レベル3以上を持っていなくても、実戦の実力があればAクラスにもなれるというものだ。
その結果、三年次にはアル、シエラ、レイリアはAクラス、リリーナとクルルはBクラス、エルクたちはCクラスになっていた。
「おめでとう、アル!」
「おめでとうございます、アル様!」
「アルさん、おめでとう」
学園長室で挨拶をしているリリーナたちは一歩引いており、エルクたちや他の学生に場所を譲っている。
それでも帰りは一緒に帰る予定なので全く構わないのだ。
「みんな、ありがとう」
「なあなあ、アル。お前、冒険者になるんだろ?」
「あぁ。しばらくはユージュラッド領にいるけど、外も見に行くつもりだよ」
「そうなんですね。……寂しく、なりますね」
「うん」
エルクの質問に答えたアルだったが、その答えを聞いてキースとマリーが寂しそうな顔を浮かべる。
「何を言っているんだ。お前たちはまだまだ学生だし、リリーナたちもいるじゃないか。パーティ、組むんだろ?」
アルが卒業するにあたって、リリーナとクルルはエルクたちのパーティに加わる事になった。そこにはシエラとレイリアもおり、新しいユージュラッド最強のパーティになると言われている。
「魔法競技会の連覇、頑張れよ」
「おう! やってやるぜ!」
「あはは。できるでしょうか、僕たちに」
「やる。アルさんが安心して冒険者をやれるように」
不安を隠さないキースだったが、エルクとマリーは自信満々にそう口にした。
「期待しているよ」
その後も多くの学生と会話を交わしたアル。
◆◇◆◇
学生たちから解放された頃には、すでに夕方になっていた。
「ずいぶんと遅くなってしまいましたね、アル様」
「あぁ、そうだな」
学園からの帰り道、アルはリリーナと二人で街路を進んでいる。
二人を照らす夕暮れが、並んで歩く二人の影を後ろに伸ばしてくれる。
「そういえば、何か用があったんじゃないか?」
この時間は学園長室でリリーナが提案したからこそ生まれたものである。
アルの言葉からリリーナは顔を赤くしたのだが、夕暮れのおかげで気づかれずに済んでいた。
「……今日で本当に、アル様は学園から去るんですね」
「そうだな。だが、冒険者としてしばらくはここに残るから、会えなくなるわけじゃない」
「はい。……でも、今までのようにずっと一緒という事ではなくなるのです」
「確かにそうだな」
実を言えば、アルはリリーナの気持ちに気づいている。
だが、ここでその事に触れてしまえば彼女を傷つける結果になる事も理解していた。
「……アル様」
「……なあ、リリーナ」
「……なんですか?」
「俺は冒険者になる。しばらくはここに残るとしても、やっぱり離れてしまう未来が待っているんだ」
「……はい」
「会えなくなるわけじゃない。だが、会えない時間はどうしても長くなる。それも、とてつもなく長くな」
「……はい」
言わせてはならない、諦めさせるしかない、そう思いながらアルは言葉を並べていく。
「それに、俺はいつか王都に向かわなければならない。そして、そうなったら戻ってくる事は冒険者でいた頃よりもさらに難しくなるだろう」
「……はい」
「……だから、無理だと思う」
「……」
「……分かってく――」
「私は待てます」
アルの言葉を遮る形でリリーナが口を開いた。
「私はいつまでもアル様を待ちます」
「……いつになるか分からないんだぞ?」
「それでも待ちます。私の心の中にはもう、アル様しかいませんから」
立ち止まったアルを置いて少し先まで進んだリリーナが振り返ると、笑みの中に緊張がないまぜになったような、今まで見た事のない表情を浮かべていた。
「私、リリーナ・エルドアは、アル・ノワールを愛しています。私を生涯の伴侶として迎えていただけませんか?」
そして、言葉の後には決意に満ちた目でアルを見つめていた。
「……俺で、いいのか?」
「はい」
「……どこに行くかも分からない、命の危険だってある冒険者になるような男だぞ?」
「はい」
「……もっとちゃんと考えた方が――」
「アル様でなければダメなのです! それに、私はずっと考えていました、これ以上は考える意味がないのです!」
またしてもアルの言葉を遮ってリリーナが口を開く。それだけ、彼女の決意は固いという事だ。
「……答えを、聞かせてはいただけませんか?」
改めてそう口にしたリリーナの目を見て、アルも決意を固めて大きく息を吸い込み――ゆっくりと言葉を続けた。
「……我、アル・ノワールは、リリーナ・エルドアの申し出を受け入れ、伴侶とする事をここに誓う」
「――!」
「……迷惑を掛ける事になるが、構わないか?」
「はい! もちろんです!」
緊張していた表情は一気に笑みを刻み、そして決意に満ちた瞳からは嬉し涙が溢れてきた。
一歩、また一歩とアルに近づいていったリリーナは、目の前まで来ると立ち止まる。
「……アル様がユージュラッドを離れるなら、私もお供します。卒業までに離れていたなら、必ず追い掛けます」
「何を言っているんだ。それまで待っているに決まっているだろう?」
「いいえ、足手まといにはなりたくありません!」
「そうか? ……なら、一年だ。一年で卒業を決めろ、いいな?」
「分かりました!」
お互いに微笑み合いながらアルも一歩前に出ると――優しくリリーナを抱きしめた。
「これからもよろしくな、リリーナ」
「はい、アル様」
体を離した二人はお互いに見つめ合い、優しいキスを交わしたのだった。
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