第346話:あの日から……
ユージュラッドに戻ってきたアルたちは、多くの住民たちから拍手喝采を受けた。
アミルダがサモンした闇の眷族から報告を受けた教師たちが、先に戻っていたノワール家やエルドア家の面々が、他にも魔法競技会を観戦しに王都へ行っていた多くの人たちがユージュラッド魔法学園のダブル優勝を口にしていたのだ。
その中で大目玉を喰らった者たちもいる――個人部門一回戦で敗退してさっさと戻ってきていた学生や同伴した教師たちである。
彼らは後日、アミルダによって処罰を受けた。
教師に関しては減給や休職、中には職を辞する者もいた。
生徒に関しては停学のみだったが、全員が貴族家だった事もあり各家にて処分が下っている。
中には次期当主争いから外された者もいて、厳しい処分が下っていた。
そして――ユージュラッドに戻ってから、二年が経った。
毎年行われている魔法競技会では初めての三年連続ダブル優勝を成し遂げたユージュラッド魔法学園の名前は全国に広がっており、他領から多くの入学希望者が殺到した。
アミルダは忙しすぎると悲鳴をあげていたが、その表情には笑みが浮かんでおり嬉しい悲鳴だったのかもしれない。
入学希望者の中には実力者もいれば磨けば光る原石もおり、アミルダによって刷新された教師陣は張り切っている。
だが、今年に限って言えば新入生の指導以上に張り切っている行事が待っていた。それは――
「――……まさか、本当に三年で卒業する事になるとはな」
「父上の言いつけでしたからね」
「本音は、もっと早くに中退して冒険者になりたかったと言いたげだな?」
「まあ……否定はしませんよ」
「素直なのね」
「父上と母上に隠し事をしても意味がありませんからね」
ユージュラッド魔法学園の卒業式へ向かう馬車に乗っているのは、三年での卒業を決めたアル、そしてレオンとラミアンだ。
「それにしても、ヴォレスト先生はなんの用事なんでしょうか?」
「私も聞いていないから分からんな」
「私も聞いていないわねぇ」
誰も理由を知らず、アミルダが良からぬ事を考えているのではないかと不安になってしまう。
そんな事を考えていると馬車はユージュラッド魔法学園に到着した。
卒業式の準備はすでに整っているが、時間が早い事もあり生徒は誰もおらずとても静かなものだ。
「……学園に、こんなにも静かな時間があったんですね」
「誰もいないからな。さあ、行くぞ」
「はい、父上」
レオンに促されて歩き出したアルは真っすぐに学園長室へ向かう。
在学中に何度も足を運んだ場所なので慣れた様子で進んでいく。
ドアの前に到着するとレオンがノックをし、返事を待って中へ入った。すると――
――パンパンッ!
「「「「「「「アル! 卒業おめでとう!」」」」」」」
「……何をしているんですか、皆さん?」
学園長室にいたのはアミルダにペリナ、そしてリリーナ、クルル、シエラ、ジャミール、レイリアの七人だった。
音の正体はクラッカーで全員の手に握られている。
「何をって、君の卒業を一足先に祝おうと思ってね!」
「そうよ、アル君!」
アミルダとペリナが笑顔でそう口にする。
「一足先にって、ヴォレスト先生は学園長としてあいさつしますよね?」
「まあまあ! それにさ、みんなもいるんだから良いでしょう?」
呆れたように口を開いたアルだったが、アミルダは笑いながらリリーナたちへ振り返る。
「卒業おめでとうございます、アル様!」
「あーあ、私たちも一緒に卒業したかったなー」
「実力は申し分ないから、来年の卒業は問題ないわ」
「が、頑張ります!」
同学年ではアルだけが卒業であり、他の面々は来年以降も学園に在籍する事になる。
「シエラの言う通り、みんなの実力なら来年の卒業はほぼ確定だろうな」
「そうだよね~。そうそう、アル君はすぐに冒険者として活動するかい?」
唯一、ジャミールだけは部外者になる。彼は去年の時点で学園を卒業しているからだ。
「はい。しばらくはユージュラッドで活動しますけど、見て回る場所がなくなったらもっと色々な場所を見て回ろうと思っています」
「そうなんだね~。その時は、僕も一緒に行こうかな~?」
「ずるいわ、ジャミール。私を置いていくつもり?」
「う~ん……それはないから安心してよ~」
「今、少し間があったわよね?」
気安く話をしているシエラとジャミールだが、二人は付き合う事になった。
シエラがアルに想いを寄せていると思っていたジャミールだが、それが憧れに近いものだと気づきアタックしたところ、オーケーを貰ったのだ。
ただし、シエラから条件として『模擬戦で勝てたら』を提示された時は呆れてしまったが、ジャミールは紙一重ながらシエラに勝利し付き合っている。
シエラからすると勝手に先へ進んでいくアルよりも、寄り添い助け合いながら進んでいけるジャミールの方が高みを狙えると思ったのかもしれないが。
「アル様……やはり、ユージュラッドを離れてしまうんですね」
「さっきも言ったがすぐじゃないよ。ユージュラッド領内にも珍しい場所はあるだろうし、一年はいるかも?」
「確定じゃないじゃないのよー! ……ねえねえ、リリーナ。やっぱり言っておいた方がいいんじゃない?」
「ん? 何の話だ?」
寂しそうな顔を浮かべるリリーナにクルルが小さく耳打ちをすると、アルが気になって声を掛けた。
「な、なんでもないよ、アル様!」
「えぇ~? せっかくシエラがジャミール先輩とくっついたのに~?」
「二人が何か関係しているのか?」
「ほ、本当になんでもないの!」
「……ここまで来ると鈍感とかの問題ではない気がしてくるな~」
呆れ顔のジャミールがそう呟くと、彼の隣に立っていたシエラが歩き出して今度は彼女がリリーナに耳打ちをする。
「……言っておくけど、アルを狙っていたのは私だけじゃないわよ?」
「シ、シエラ様!?」
慌てて顔を上げたリリーナだったが、その視線の先にいたのはレイリアだった。
「……え、わ、私ですか!?」
「レイリアも何かあるのか?」
「な、なんでもありません! リリーナ様、頑張ってください!」
「えぇぇっ!? あの、えっと、その~……」
顔を真っ赤にしながらキョロキョロするリリーナだったが、その視線がアルと交わると動きを止めてしまった。そして――
「…………そ、卒業式の後、時間をいただけませんか!」
「……あ、あぁ、分かった」
困惑するアルだったが、クルルたちは誰一人欠けることなく拳を握りしめていた。
「い、いいんですか、先輩?」
「家を出るアルにとって、相手に誰を選ぼうが私は何も言えないさ」
「むしろ、エルドア家が大丈夫かどうかよね~」
「ロズワルドたちなら諸手をあげて喜びそうだけどねー」
大人たちは壁際から子供たちの初々しいやり取りを見つめていたのだった。
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