第3話義眼の男、ウオッチメンと呼ばれる

 ものは試しとあけ美の住むマンション近くを探してみたが、それは徒労に終わった。


 スマホの画面を見る。

 そこには薄い茶色の毛並みの仔猫が写し出されていた。

 かなりの愛らしさである。

 動物のモデルになってもいいだろうと思われた。

 あけ美からもらった画像である。

 それらしい仔猫は見当たらない。

 カラスなんかに食べられてないといいのだが……。

 一抹の不安が心をよぎる。

 ある程度探したあと、那由多は切り上げ、小都という名の老舗らしい喫茶店に入った。



 とある人物と会うためである。

 その人物に会えば、仔猫をみつけるのは容易いであろう。

 来てくれたらの話ではあるが。



 待ち時間の間に那由多は昼食をとることにした。

ウエイターを呼び、ナポリタンとホットケーキ、メロンソーダを注文した。もちろんメロンソーダにはアイスクリームが添えられている。

 目の前に並べられた品々をおてふきで手をふきながら、ごくりと唾を飲み込み、ながめた。


 これだよ、これ。


 パンケーキではなくホットケーキ。

 バターとメイプルシロップをたっぷりとかけ、一口だいに切り分ける。

 甘ったるい味が口に広がる感覚は幸福いがいのなにものでもない。

 次にナポリタンの山にホークを突き刺す。

 ケチャップのやや焦げた香りが鼻腔をくすぐる。

 くるくると豪快にまきつけ、それを一気に頬張る。

 ケチャップの甘辛さがたまらない。

これを嫌いな人が世の中にいるのだろうかと那由多は疑問に思う。



「相変わらず、良く食うな。カロリーの女王」

 一番呼ばれたくない通称で呼ばれ、ナポリタンの麺を口に入れながら、那由多は声のほうを見た。



 鷲鼻に丸型サングラスをかけた背の高い男が立っていた。安物のスーツに身を包み、不敵な笑みを浮かべている。

 その男は那由多の向かいに座り、ホットコーヒーを注文した。

 

 ほどなくして珈琲が運ばれた。

 

 男は何も足さずに珈琲を一口飲んだ。


「で、用件はなんだ」

 ときいた。


 サングラス越しに目が合う。

 彼の左目にはまるで生気というものがなかった。

 それは精巧な義眼であった。


 アイスクリームを食べ、ソーダを飲む那由多は、

「来てくれて、助かる。ありがとう、ウオッチメン」

 と目の前の男に向かって言った。


 彼を知るものは少ない。

 そして彼を知るものはウオッチメンと呼んだ。

 もう一つの呼び名がある。

 それは監視者であった。


 スマホの画面を見せ、那由多は仔猫を探していると言った。

 ほお、猫探しかいとウオッチメンは尖った顎を撫でながら、答えた。

「で、どの辺でいなくなったのだ」

 と義眼の男が聞くので、あけ美の住所を教えた。

 この際、個人情報は知ったことではない。

 ビジネスバックからタブレットを取り出し、なにやら操作しだした。

 その様子を那由多はホットケーキとナポリタンを交互に食べながら、待った。

 料理のほとんどを食べた頃、ウオッチメンは言った。


「いたよ」

 とである。


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