第4話その異能、王権の守護者

 くるりと手際よくタブレットを回転させるとウォッチメンは画面を那由多に見せた。

メロンソーダを一口のみ、氷をかむと身をのりだし、画面を注視した。

 

画面とウォッチメンの鳥類のような顔を交互に見て、

「こいつか……」

 と那由多は言った。


 その画面には茶色の毛をした仔猫を抱き上げる青年の姿が写し出されたいた。

 チェックのよれよれのシャツにデニムのパンツをはいた細身の男であった。

 髪にははりも艶もなく、無精髭を生やしたその顔は不潔な印象をうけた。


 その顔を見た那由多は嫌な予感が背中が走るのを感じた。


 ふしくれだった指でウォッチメンはタブレットの画面をタッチすると画面の男は動き出した。


 動画になったのだ。


 

 痩せた青年は、抱き上げた仔猫を乱暴に使い古されたリュックに押し込んだ。

 キョロキョロと周囲を見渡す不審な動きをした後、足早にその場を立ち去った。



 この男は仔猫をどこかに連れ去ったようだ。



 眉間にシワをよせ、那由多は椅子に座り直し、腕を組んだ。

「こいつの行き先、わかるか」

 ときいた。

「ああ、もちろんだ」

 タブレットを持ち直すと、画面をいくつかタッチするとそこには年季のはいったアパートが写し出された。

「ここがあの猫を拾った男のアパートだ。やつはここに仔猫を連れ込んだようだ」

 にやりと那由多は笑う。

「さすがは義眼の王。すべてを見渡す者。王権の守護者の一人。頼りになるな」

「なに、お前さんにはかなわんよ」

 鷲鼻にかかる眼鏡の位置をなおし、ウオッチメンは言った。



 二人は喫茶店小都を後にした。


 仔猫を連れ去ったと思われる青年の住むアパートは車で十分ほどのことだというので、ウオッチメンの愛車である旧型マーチに乗り込んだ。


 マーチは軽やかなエンジン音をたて、街中を走る。


 ぼんやりと景色を眺めていた那由多に、

「着いたぞ」

 とウオッチメンは言った。



 見るからに古びたアパートであり、さびた鉄の階段がついていた。

 急ぎ、二人は階段を昇る。

 青年の部屋は二階の奥だ。

 ドアノブに手をかける。

 当然のように鍵がかけられていた。

 ガチャガチャという金属音だけがむなしく響いた。


 那由多はスカジャンのポケットに手を突っ込み、銀の懐中時計を取り出した。それを軽く握りしめる。


 もう一度ドアノブの取っ手に手をかけるとカチャリという軽い音をたて、ドアが開かれた。


「さすがは機械じかけの王だな」

 くくっと喉の奥からだすような笑いかたをし、ウオッチメンは言った。

「なに、こんなのは探偵にとっては朝飯前のことだ」

「もう、昼すきだかな」

 つまらない減らず口をウオッチメンは叩いた。


土足のまま二人ははワンルームの部屋にあがりこんだ。


二人は見た。


三つの目から発せられる視線が部屋でテレビゲームに没頭する青年の隣で、傷だらけで横たわる仔猫の姿を。


足は関節とは逆に折れ曲がり、目からは濁った血が流れていた。

ピクピクと痙攣している。

誰にでもわかる、どうにか生きているという状態であった。


ようやく二人の存在に気づいた青年は、

「なんなんだ、あんたらは」

震えた声で言った。


「探偵だ……」

奥歯を噛みしめながら、那由多は名乗った。






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