あれこれと詳細な説明の一切いらない物語って、あるんだなあ。そう思いました。甘い、苦い。痛い、悲しい、愛おしい。全ての感情が溶け込んだ、熱いカフェオレ。ただ、胸が、ぎゅううっと。この上なくシンプルで、淡々と——それでいてどんな詳細な描写よりも一言一言が胸に訴えかけてくる不思議。静かに湧き上がる熱いものに、胸が震える掌編です。
読んですぐに、「もしや……」って思うんですよ。まさかそんなことはないだろうって思いつつも、でも読み進んでいくうちに確信に変わるわけです。でも、だからといってそこでやめようとは思わない。この2人がどのような結末を迎えるのか、きっと幸せであることを願いながら、読まずにはいられませんでした。
暖かくて、少し甘くて、少し苦い、そして味わい深くもある。本当にカフェオレのような物語でした。最後に発覚する嬉しい出来事をどう解釈するのかを考えるのも楽しい時間でした。
意図的に、チビチビと飲むカフェオレです。展開も結末も、勘の良い方なら、すぐに察しがついてしまいます。でも飲み始めると……思っていた以上のカフェオレの味の良さに、飲み終わりたくなくなって、ゆっくりじっくり飲んでいきたくなります。そして、飲み終わると思わず、その味をもう少し味わいたくておかわりしたくなるでしょう。つまりは、そんなお話……。
心地よいショートショート作品です。雨月物語を連想させますし、こういった作品はわりとよくあるという印象をうけるかもしれません。実際たくさん読んだ気がします。ですが勘所を押さえ、読者に空想の余地を与えていることで、とても広がりのあるものとなっています。なんとなく寂しいところも素敵です。