第1590話 他の群集の動き
桜花さんに任せていた、安全圏での黒の異形種との接触は……失敗に終わった。まぁそれはそれで成果ではあるんだけど……俺らがこれからやる事の重要性が増してきたなー。あ、そうだ。これも聞いとこ。
「桜花さん、他の群集の動きは分かる? あと、黎明の地の方の動きも!」
「合間で確認してた程度だから、他の群集の動きまではチェック出来てないが……黎明の地では、特に変わった様子はないみたいだぜ?」
「それはわたしも確認したけど、黎明の地ではまだ『瘴気の転移門』が見つかったって話は出てないね。羅刹さんの説明を聞いた感じだと、今はまだ黎明の地からは、占拠した海岸エリアへの転移の一方通行なんだと思うよ」
「……なるほど。となると、黎明の地では無所属勢との戦闘の可能性は低そう?」
「多分ねー!」
「俺もそう思うぜ。対人戦をする気がない人や、戦力不足の人は、黎明の地で落下物探しが継続なんだろうよ」
「まぁそりゃ、そうなるかー」
簒奪クエストの影響で急に対人戦が始まってる状態になったけど、それを好まない人もいるはずだもんな。既に命名クエストが終わってる場所なら、こっちの新エリアでも変に戦闘にはならないだろうし……だからこそ、他の群集の動きも気になってくるね?
「ベスタ、そっちに他の群集の誰かから接触があったりしない?」
「いや、今のところはその気配はないな。そういうケイの方はどうだ?」
「俺の方も特に何もなしだけど……いっそ、こっちから探りを入れる?」
「……悩ましいところだな。俺らはケイの呼びかけで、午前中の段階で群集内の連携をある程度は戻せていたが……他所は、今その段階の可能性があるからな」
「あー、そうか。そういう段階の可能性はあるのか……」
午前中に灰の群集のみんなで協力して動けるようにしたのは、イブキから簒奪クエストに関する情報を得られたからの話だもんな。あの情報がなければ、俺らだって今頃大慌てで、連携出来る状況に戻している最中だったはず。
そもそも、あちこちの黒の異形種の溜まり場の位置を探ってまとめたのはベスタだし、その情報も今まとめている最中の可能性は高い。そう考えてみれば……他の群集はまだ、黒の異形種の溜まり場へ大勢を向かわせる事は出来ていない?
「弥生達はどこかで黒の異形種の溜まり場は見つけてるんだし……赤の群集……というより、赤のサファリ同盟は動き出してるかもね?」
「レナさん、それって赤の群集と連携してるかどうかは、聞いてみないと分からないって事?」
「うん、そうなるねー! わたし達、灰の群集でも味方が敵な状態になってたんだから、情報が揃うまでは迂闊に連携状態には戻せないしさ。でも、それを待つだけじゃなく、同時に自分達で探りに行けるのが赤のサファリ同盟だしね?」
「あー、そりゃそうだ」
赤のサファリ同盟は実力者集団なんだから、赤の群集と完全に足並みを揃えなくとも、独自で探りにいけるだけの力はある。
それに、翻訳機能の重要さは、俺らと接触した時にシュウさんが気付いているはず。必要な物を全て揃えた上で、既に動き出している可能性は高いか。
「……ベスタ、赤のサファリ同盟と接触してみるのはあり? 多分、あそこなら情報を取られるだけって事はないと思うんだけど……」
「今の他の群集の動向は知りたいところだしな。シュウが相手なら、そこまで問題にはならんだろうが……ケイ、青の群集の方はどうする気だ? 赤の群集だけに接触すれば、ジェイがうるさそうだが?」
「……あー、確かにそれはありそう」
ベスタの言う通り、ジェイさんはその辺の対応って気にしそうなんだよなー。でも、今の青の群集の状況はさっぱり読めないから、どう対応するかが悩む……。
「っ!? 十六夜さん、東の方の反応がおかしくないか?」
「……確かに、妙だな? 戦闘の気配もなく、急に反応が消失して……っ!? これは、獲物察知の妨害かもしれんな」
「やっぱり、そう感じるか。ケイさん、もしかすると青の群集のお出ましかもしれんぞ?」
「……獲物察知の妨害をしてる集団が、こっちに近付いてきてる?」
「あぁ、その可能性はあると思うぞ。まぁ絶対に青の群集だという保証もないがな」
「まぁそりゃそうだ」
反応を隠しているんだから、具体的に誰なのかはここからじゃ分からない。でも、そういう手法を使う人に心当たりは思いっきりある訳で……。
「ベスタ、青の群集に俺らの動きが筒抜けになってる可能性は?」
「かなりあるな。俺や紅焔達が呼びかけているのは隠してはいないから、そこから推測して探りを入れにきている可能性は高いだろう。ジェイならば、自ら出向く事は多いしな」
「ですよねー! 十六夜さん、ラジアータさん、獲物察知の反応が消えてる付近に、灰の群集の人の反応は?」
「……いくつかあったが、拾えなくなっている」
「こりゃ、既に接触してるんじゃねぇか?」
「はいはーい! レナさん、その辺の人達に確認を取ってもらう事は?」
「今、確認してもらってるところ! ……あ、目撃情報が上がってきたよ! あらら? いつかの競争クエストの時に見た、空飛ぶ岩のドームがあるってさ。ただ、プレイヤーの姿は見えないみたいだねー?」
「それ、絶対にジェイさん達じゃん!?」
土の操作Lv10で、スリムさんが作ってたやつ! 姿を隠す気があるのか、ないのか、どっちだよ!?
いや、隠したい相手は、俺らじゃないのか? あの岩のドームの存在を知ってる相手に隠しても意味はないし……むしろ、無所属の乱入勢に対しての警戒なのかも?
「レナさん、弥生さんへ連絡を頼んでいい? 俺はジェイさんに連絡してみるからさ」
「およ? それはいいけど……わたしが弥生になの? ベスタさんが、シュウさんにじゃなくて?」
「ベスタは大勢を引き連れての移動中だし、俺らの方が手は空いてるからさ。それに……弥生さん相手なら、情報戦にはなりにくいんじゃね?」
「あー、それはあるかもねー。うん、そういう事なら任せて!」
「よろしく!」
情報に詳しいのは、間違いなく弥生さんよりもシュウさんの方だけど……シュウさんは色々と探りを入れてくるから油断は出来ない。でも、リアルで友人のレナさんと弥生さんなら、この状況での駆け引きは最小限に抑えられるはず!
俺は……まぁジェイさんとの駆け引きは避けられないんだろうけど、こっちに近付いてきてる可能性がかなり高いんだから、時間の問題でしかないしなー。出来れば、身動きが取れない状況なのは知られないようにして――
「……って、あっちからフレンドコールが来るんかい!」
「ジェイさんからかな?」
「そうなるなー。やっぱり、俺らがここにいるのを見越して、やってきてそうだ……」
「……ケイ、ファイトかな!」
「まぁ無視する訳にもいかないしなー。ちょっと、やりあってくるか」
という事で、ジェイさんからのフレンドコールに出る! さて、どういう切り口で、どんな探り方をしてくるのやら……?
「おや? 随分とあっさり、出てくれたものですね?」
「……そっちからかけておいて、そういう言い方をする?」
「いえ、もう少し警戒されるかと思っていたのですが……それ以上に警戒すべきものでも、確認しましたか?」
いきなり、直球で探ってくるな!? これ、無所属の乱入勢が大々的に動き出しているかどうか、把握してるかの確認だろ!? てか、こういう言い方をしてくるって事は……ジェイさんの方にも、その情報はあるんだな。
変に探り合っても仕方ないし、ここは俺も直球で返すか。
「無所属の乱入勢が『簒奪クエスト』を進行させたのは、確認済み。黒の異形種が溜まり場にしてる洞窟を狙いに行ってるのもなー」
「……随分と、簡単にその情報を出すのですね?」
「もう既に2回、その連中と遭遇してるもんでさ。ジェイさんこそ、俺らの動きを大体掴んでて、こっちに近付いてきてるんだろ?」
「なるほど、そこまで把握されていましたか。えぇ、その通りです」
ジェイさん、あっさりと今の内容を知っていると認めたな。これは思っていた以上に、青の群集は情報を掴んでいるっぽい? ……この感じだと、イブキや羅刹みたいに、無所属で青の群集に協力してる人がいるのかもね。
「状況が状況だから、直球で。ジェイさん的には、何が狙い?」
「狙いは単純ですよ。無所属勢に占拠させない為の共闘の提案です。まぁ確実に防げそうなところから、防いでいこうという感じですけどね」
「要は、俺らの動きを察知して、それに便乗しようって狙い?」
「否定はしません。ですが、早い段階で、無所属……いえ、黒の異形種と黒の統率種の共謀を食い止める手段を確立するのが重要だと思いましてね? ここで群集間での主導権争いをするのは愚策でしょう?」
「……なるほど」
自分達で主導して計画するよりも、既に動き出していた俺らをメインに据えて、次に繋げる為の情報を得ようって魂胆か。まぁ、乱入勢を抑えるには、共闘するのはありだけど……。
「それ、青の群集としての話? それとも、ジェイさんが今、動いているグループの中での話? その辺をはっきりさせておかないと、答えにくいんだけど……」
「青の群集の話だと考えて下さい。……こちらからの急な提案ではありますし、共闘を考える元になった情報源の提示くらいはしておきましょうか」
ほほう? 俺らはイブキから仕入れた情報だけど、青の群集の情報源が何なのか、是非とも聞いておきたい話だね。
「今の段階で、既に無所属に流れているeスポーツ勢の方々がいるでしょう? その中で、青の群集の方へ移籍を検討している方から、『簒奪クエスト』に関する情報の提供がありましてね」
「ん? まだ、その件の共同体の発足準備は出来てないんじゃ……?」
「既に、そういう流れが出来ているという話自体は広まっていますよ。まぁそういうタイミングで、灰の群集が学生組の不在で窓口が弱まっているのは、私達にとっては都合のいい事ですけどね」
「ちょ!? え、そんな影響が出てんの!?」
待て待て待て! 確かに、灰の群集は今、ちょっと学生組の大会参加で人が減り気味な様子だけど……それ、悪影響になってくるのかよ!?
「……良くも悪くも、eスポーツで強くなるのを目的にやっている人はプライドが高いようですからね。灰の群集を避けた理由が、『学生の年下が多い』だったりしますので……必ずしも、良い状態とは言えませんけどね」
「あー、そういう……。ジェイさん、地味に苦労してる?」
「その理由を聞いて、少し頭を抱えたくはなりましたよ……。まぁそういう性格の方だったので、目に見えて利用されるのが嫌で、情報を持ち込んできてくれたという側面もありますけどね」
「……なるほど」
うーん、それは本当に素直には喜びにくい内容だな!? 勢力を増したい人に利用されるのは嫌だけど、年下の学生が仕切る側の多いところも嫌って……うん、扱いに困りそう。
俺とか、普通に学生だし……年齢を理由に、指揮されるのが嫌とか拒絶されると、すげぇ面倒だよなー。オンラインゲームで、年齢で対応を変えるような人ってなんなんだろうね……。
「まぁ情報提供者の性格はともかくとして、『簒奪クエスト』が進行しているのは確認出来ています。海岸エリアが、占拠されたのも確認していますしね」
「それはこっちも確認済みだな。『侵食』の効果なしでも、転移が可能な瘴気の渦の存在は?」
「それも存在の確認は出来ていますが……まだ、実物は見ていませんね。ケイさんはどうです?」
「……目の前に、2回ほど出てきた。さっき言った遭遇ってのがそれ」
「かなり引きが強いですね? まだ大量に発生しているとは聞いていませんが……」
あー、俺ら、遭遇率がかなり高いのか! 他に比較対象がなかったから、実感が全然ないんだけど……よく考えたら、どこのPTでも2回遭遇したなんて事になれば、転移門の数がとんでもない個数になるよねー!?
「あの瘴気の渦……浄化魔法で消滅させられるという話を耳にしましたが、それは事実ですか?」
なるほど、ジェイさん……というか、青の群集はまだその情報までは得てないのか。さて、これはどうしよう? 共闘するのであれば、転移門の消し方は伝えた方がいいと思うけど……。
「ケイ、レナ、返事はいらんが、聞いてくれ。共闘を持ちかけられたなら、了承で構わん。黒の異形種との接触は、そもそもクオーツが立ち会って、どこかの群集にすぐに組み込まれる可能性は低いからな。今は、無所属勢の簒奪クエストを進めさせない事を重視していくぞ」
ははっ! ここで、ベスタから正式に共闘の許可が出たよ。ベスタはベスタで、別ルートから何か情報を得て、そういう結論を出したのかも? まぁ群集としての方針が出たなら、ジェイさんの質問にも答えやすくなった!
「……ケイさん? 急に黙って、どうしました?」
「あー、いや、灰の群集としての方針が決まったとこでなー。ジェイさん、青の群集との共闘は受けるぞ」
「それはありがたいですが……もしかして、ケイさんは今、ベスタさんと同じPTにいるのですか?」
「正解! その辺、予想してた?」
「いえ、ベスタさんが飛翔連隊と共に、戦力の結集を呼びかけているという情報は掴んでいたので、もしかすると……とは思っていましたが、確信とまでは言えなかったですね」
「あー、なるほど」
まぁそれくらいの推測はしてますよねー! 紅焔さん達、飛翔連隊と俺らが一緒に行動してたのは、結構バレてる内容だろうしさ。
さてと、共闘は受けると言ったんだし、それ相応の情報は開示しておきますか。割と近くにいる状態の可能性が――
「となると……ケイさん達は、今、黒の異形種の溜まり場を探している最中ですか?」
「いや、もうその場所は見つけてるから、ベスタ達の到着待ちだな」
「っ!? まさか、もう突入目前なのですか!?」
「まぁそうなる。ジェイさん達、山岳エリアで東から進んできてる? 獲物察知を妨害してる状態かつ、スリムさんの岩のドームを展開した状態でさ」
「……灰の群集の方に、私達だと分かりやすいようにしていたつもりでしたが……もう、ケイさん達がそれを察知していましたか。となると……妨害可能な範囲内に、溜まり場があるのですね?」
「そうなるなー。そのまま西に進んでくれれば、アルのクジラが見えてくるだろうから、それを目印にしてくれ。あ、獲物察知の妨害は切っておいてもらえると助かる」
「……了解しました。それでは、すぐにそちらへ向かいます」
「ほいよっと。合流、待ってるぞ! あ、そうそう。瘴気の渦……ベスタが『瘴気の転移門』って名付けたけど、あれは浄化魔法で消せるので間違いないからな!」
「……ケイさん、実は今、浄化魔法の反動で身動きが取れなかったりしています?」
「……まぁ、そうなるなー」
「そこまで進めておいて、溜まり場に突入していないのはそれが理由ですか。色々と納得ではありますが……危ういところでもあったのですね。まぁ、ともかく今は合流を目指しましょうか」
「それでよろしく!」
「それでは、また後ほどで」
そこまで言って、ジェイさんとのフレンドコールは切れた。随分とあっさり、俺が身動きが取れない状態なのに気付かれたけど……まぁ共闘が成立したんだし、問題はないだろ!
さて、ジェイさん達がこれからここに来るのをみんなに伝えて、待機は継続っすなー。まだ、動けるようには回復してないしさ。
次の更新予定
Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜 加部川ツトシ @kabekawa_t
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