第1589話 目的地で
羅刹達、灰の群集の無所属支部が……表面上は裏切るという形を取って、大きく動き出した。簒奪クエストに対して後手に回ってしまってるから、こういう形で内部から乱してくれるのは助かるけど……かなりの無茶をしてるよな。
戻ってくる際には、どうにか俺らでフォローしないといけないけど……まぁそれはその時だ! 今は、急いで黒の異形種の溜まり場である洞窟まで行かないと! もうあと少しで到着ってとこまで来ているし――
「っ!? 『瘴気の転移門』!?」
「この位置でかな!?」
「わー!? ここはマズいのです!?」
「滝、もうすぐそこだよ!?」
「ケイ! どうする!?」
「どうするも何も、消すしかないだろ!」
もう洞窟が隠れている滝が見えてきたってのに、このタイミングで、滝の上側に『瘴気の転移門』が出てくるとか……最悪にも程があるわ!
いや、そもそもの話……無所属の乱入勢は、黒の異形種の溜まり場の正確な位置は把握してるのか? 今、まだそれを探ってる段階なら……それでも、この転移門は消した方がいいな。問題は、誰が――
「……悠長に考えている暇はなさそうだ」
「……敵が……きた!」
「うげっ!? 群がってる!?」
ちょ、待て、待て、待て! タカが筆頭に飛び出てきたと思ったら、カモメの群れを引き連れてきてるんだけど!? くっ! これ、黒の統率種が瘴気強化種を引き連れてきたか!?
「怪しいのは……そこ! 『識別』! あ、それなら……『識別』! あ、やっぱり! ケイさん! タカは黒の統率種じゃないよ! 少し離れた位置にいる、カモメが黒の統率種! タカは瘴気強化種だから、フェイクだよ!」
「っ!? レナさん、ナイス!」
先陣を切って現れたタカが本体じゃなく、直接操作された瘴気強化種か。本体はカモメ……ちっ! それも瘴気を纏っているから、どれがどれだかさっぱり分からん! レナさんに見抜かれて、群れの中に紛れやがったか!?
「アル、ヨッシさん! 神経毒で、ポイズンミスト! 転移門は、俺が消し飛ばす!」
「ケイがやるのか!? ……いや、了解だ! ヨッシさん、やるぞ! 『アクアクリエイト』!」
「了解! 神経毒で『ポイズンクリエイト』!」
「ハーレ! 私達で、ケイを守るかな!」
「当然なのさー!」
「ケイさん、お願いね! わたし達が、敵は通さないからさ!」
「任せるぞ、みんな!」
迷ってる暇はない。下手に時間をかければ、それだけ増援が来る可能性があるんだし、最優先は黒の統率種の撃破よりも転移門を消す事!
<『浄化の輝晶』を使用して、纏属進化を行います>
<『同調激魔ゴケ』から『同調激魔ゴケ・纏浄』へと纏属進化しました>
<『同調激強ロブスター』から『同調激強ロブスター・纏浄』へと纏属進化しました>
<『浄化制御』『浄化の光』が一時スキルとして付与されます>
神経毒の毒霧がタカとカモメを覆って、次々と地面へと落下中。落下してないのもいるだろうけど……それはこの際、どうでもいい!
転移門自体も毒霧で覆えているから、見えていなくとも、他に誰かが転移してきていても、即座に毒を受けるはず。もし毒が効かない人でも、少なくとも視界の妨害にはなるだろうしな!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 132/133 : 魔力値 324/326
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を2消費して『浄化の光Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 130/133
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
生成位置は、毒霧に覆われて見えない状態の転移門の真上! 視界の妨害も兼ねてる策だから、ここは自分でやるのが確実! 誰かに任せてもいいんだけど……指示出しの時間が惜しい!
<『浄化魔法:ピュリフィケイション・アクア』が発動しました>
浄化の光を帯びたウォーターフォールで、消えちまえ! 本物の滝の上で、なんとも不思議な光景にはなってるけど……まぁそんな事を気にしてる場合じゃないな。
「……リコリス、毒で動けない、落ちた個体を水に取り込んで! そのまま放置は、よくない!」
「任せて、彼岸花! 『アクアクリエイト』『水の操作』! ラジアータ、よろしく!」
「水の中に放り込んでいけばいいんだな! 十六夜さん、風音さん、手伝いを頼むぜ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「……了解だ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「……うん! ……『アースクリエイト』『岩の操作』!」
俺の浄化魔法の影響で、毒霧が散っていってる状況だけど……毒の影響を受けた個体は、リコリスさんの水の中へとどんどん放り込まれていく。てか、リコリスさんが水の流れを作って、俺の浄化魔法の中に放り込んでいってるな!?
「ふふーん! どんどん、いっけー!」
「サヤさん、ハーレ! わたし達は、毒を受けなかった個体を受け持つよ! 『魔力集中』! よっ! ほっ! 『連爪回蹴撃』!」
「分かったかな! 『略:魔法砲撃』『魔力集中』『並列制御』『略:ウィンドクリエイト』『爪刃双閃舞』!」
「近付けさせないのさー! 『魔力集中』『爆連投擲』!」
毒霧に呑まれないように回避した個体もいるけど、そちらはサヤ達が相手をしてくれてるね。リコリスさんの水へと吹っ飛ばした後の岩で、ラジアータさん達もフォローしてくれてるし――
<纏浄のデメリットが発生します>
<浄化魔法の発動負荷により、纏属進化・纏浄が解除になります>
<『同調激魔ゴケ・纏浄』から『同調激魔ゴケ』へと戻りました>
<『同調激強ロブスター・纏浄』から『同調激強ロブスター』へと戻りました>
<『浄化制御』『浄化の光』が使用不可になりました>
あ、そうしてる間に浄化魔法の効果が切れて、進化も解除になって、『過剰浄化・重度』になってしまった。……彼岸花さんもまだ動けないままなのに、俺も活動不能になっちまったなー。でも、やるべき事はやったぞ!
「おし! 転移門は消したぞ!」
「ナイスだ、ケイ! 指揮は……いけるか?」
「指揮だけなら問題なし!」
そう判断したからこそ、俺自身で浄化魔法を使うって選択にしたんだけど……。
「……でも、その必要ってある?」
「あー、なさそうだな……?」
「撃破、完了かな!」
「ふっふっふ! ただの瘴気強化種程度じゃ、相手にもならないのさー!」
「数がいただけだったしねー。黒の統率種は……およ? どの個体だろ?」
「……それなら……毒を受けて……ケイさんの……浄化魔法で……死んだよ?」
「ふふーん! 浄化属性は瘴気属性には特効なんだし、効果は抜群だよね!」
「確かにな。リコリスにしては、良い判断だったぞ」
「何さ、その言い方は!?」
「褒めているんだから、大人しく受け取っておけばいいだろう?」
「褒められてるようには、聞こえないんですけど!?」
またやってるよ、リコリスさんとラジアータさん。まぁ、神経毒で動けなくなった状態の個体を、浄化魔法の影響下に放り込むのは良い手段だったのは間違いないけどね。いやはや、瘴気に染まった相手には本当によく効いたもんですなー。
でも、数えるより先に動いたから、具体的に何体いたのかは把握し切れてないんだけど……まぁ結構な経験値にはなった。異様に経験値が大量に入ったタイミングがあったから、あれが黒の統率種を倒した時のものなんだろうなー。まぁ何はともあれ……。
「とりあえず、これで一安心か。流石に、短時間で同じ場所には出てこないだろ」
「そうだとは思うけど……ケイ、大丈夫かな?」
「デメリットは仕方ないし、しばらくは大人しくしとく。あー、洞窟を入るのは……回復してからの方がいいかも?」
「絶対に、その方がいいかな!」
「そうなのさー! ケイさんが動けない状態で、何が起こるか分からない中へ飛び込むのは危険なのです!」
「ベスタさんや紅焔さん達を待つ余裕も出来るし、しばらく待機でいいんじゃない?」
「だそうだが……ケイ、それでいくか?」
「そのつもりだから、それでいくぞー!」
「それじゃ、しばらく待機だね! ただし、周辺警戒はケイさんと彼岸花さん以外のみんなでしていくよー!」
「はーい!」
「当然かな!」
みんな、気合いは入ってるし、動けるようになるまでは任せておいていいかもね。結果的にだけど、すぐに洞窟に入れる状態じゃなくなったから、ベスタ達の到着を待つ猶予も出来た。
今回は思ったより呆気なく、黒の統率種の襲来は凌げたけど……瘴気の転移門の出現は、マジで危険だな。少なくとも、一度消せば済むという話ではないのは確定なのが痛い……。これ、黒の異形種を俺らの味方に付けるか、命名クエストを終わらせないと脅威が去らないんじゃね?
「あー、ケイさん達は一旦、区切りがついたって事でいいのか?」
「その認識で問題ないぞー。桜花さんの方は、何か動きは?」
「その件を話そうと思って、タイミングを見計らっててな。安全圏にいる黒の異形種との接触準備、整ったぜ」
「おー、ナイス! これから始める感じ?」
「そのつもりだな。俺もメジロで現地まで行ってるから、様子は分かる状態だ」
「おぉ!? メジロが活躍中なのさー!」
「ま、つっても脚に根が結び付いてる状態でだけどな。この程度の距離なら、この方法でなんとかなる範囲だ」
「……なるほど」
ログインする種族を切り替えたんじゃなくて、共生進化の状態で、桜の木の根を伸ばしている訳か。まぁ不動種の根は移動種の根よりも遠くまで届くからこそ、そういう芸当も出来るんだろうな。
「おっ! もう始まるみたいだから……一応、そっちで動きがない間は、様子を伝えていこうか?」
「それで頼む! 俺、動けない状態だしな! アル、その間は全面的に任せていいか?」
「ま、今のケイは、ほぼ無力だしな。動きがあれば伝えるから、彼岸花さんと情報を仕入れといてくれ」
「ほいよっと!」
「……分かった」
全員が全員、集中して聞ける状態ではないけど……俺と彼岸花さんは、今の状況で出来る事はほぼないのは事実。だからこそ、今出来る事をしておくべき! 彼岸花さんは先に回復するとは思うけどさ。
「という事だから、桜花さん、よろしくなー!」
「おうよ! さて、こっちは実際にどうなっていくか……お、呼びかけが始まったな。ほほう? 確かに、翻訳されてんな?」
マサキが元になっていると思わしき、安全圏にいるゾンビな大蛇の黒の異形種だけど……一体、どういう反応を示してくるんだろうね? 俺らが確認する時間を惜しんだから、こうして他の人に任せる事態にはなってるけど……。
「……ん? なんだか不穏な様子だな?」
「不穏な様子? それって、どういう意味?」
「どうも、会話が通じてるようで通じていない感じでな? クオーツが出てきて、宥めてはいるんだが……『離れられない』だとか『欠けている』だとか『懐かしい』とか言ってるな。これ、ケイさん達が試した時と内容は同じじゃねぇのか?」
「……え、マジで?」
「うげっ!? 本格的に錯乱して、暴れ出しやがった!? 駄目だ、これ! ここの黒の異形種、まともに対話が成立してねぇ!」
「……そうきたか」
なるほどなー。何か要素自体はあるんだろうけど、安全圏にいる黒の異形種に関しては、まだ進行させる為の条件が整っていないのかも?
「ケイさん! 悪いが、こっちは失敗みたいだ!」
「まぁそれは、仕方ないって。その感じだと、やっぱり別枠で何かありそうだし……それが分かっただけでも成果だぞ!」
「ま、検証に失敗はあって当然か。もう戦闘になって、討伐に移行してるが……ケイさんは何が失敗の要因だと思う?」
「失敗した原因か……」
考えられるとしたら、何がある? 他の黒の異形種と違うところは……移動妨害のボスであるのが、一番大きな点か。そこから連想して……移動が不可能な事や、他の黒の異形種との接点が皆無な事もあるもんな。でも、どれが原因かというと――
「……先に、溜まり場にいる黒の異形種と接触する必要があるのかも?」
「彼岸花さん、そう思う理由は?」
「……黒の異形種の、存在の問題。……『欠けている』何かが原因で不安定になっていそうだし、同族からそういう情報が得られれば、何か変わるかも?」
「あー、溜まり場にいる黒の異形種が、安定化させる為の情報を持ってる可能性か。確かに、それはありそうかも?」
クオーツが一緒に出てきても、欠けていて補えるのは、あくまで肉体の部分だけ。精神的な欠落は、クオーツではどうにも出来ない可能性は高い。
プレイヤーからの説得の仕方によって変わる可能性もあるけど……それよりは、対話の出来る同族の手を借りる方が、上手くいく可能性は高いか。
「となると……ケイさん達の、そっちでの進行待ちって事になるのか?」
「それで上手くいく保証もないけど、接触出来た時に、その辺も聞いてみるわ。……そういう余裕があればだけど」
「それは……まぁ実際、動いてみるまで分からんわな!」
「そうなんだよなー」
動けるように回復するまで、何も出来ないのがもどかしい! まぁでも、その間に聞くべき内容が増えたのは……よかったのか? うーん、必ずしも答えが得られるとは限らないから、まだなんとも言い難い!
「あ、そういや、俺ら以外にも黒の異形種の溜まり場に接触しに行ってる集団っている?」
「オオカミ組とモンスターズ・サバイバルが連携して、占拠された海岸に殴り込みをかける計画を立てていたな」
「ちょ!? 殴り込みを仕掛けるのか!?」
「そうらしい。まぁ詳しい話までは聞いてないけどな」
いや、でもそういう敵情視察も必要なのかも? ベスタが単独でやったのは、流石に人数的に無理があったんだろうけど……その2つの共同体が一緒に連携して動くなら、それなりの成果はありそうだよな。
敵の勢力が整う前に、本拠地を叩くというのは決して悪い案ではないか。羅刹達とぶつかる可能性も出てくるけど……それはそれで、混乱させるいいチャンス?
「それと、他の場所にも動いてる人はいるとは思うが……一番大々的に動いてるのは、ケイさん達が行ってる場所だぜ? なにせ、ベスタさんと紅焔さんが呼びかけながら向かってるんだしな」
「ですよねー!」
流れでそうなったとはいえ、俺らがいる場所が一番注目されてる状態か。うん、まぁそうなって当然の状況だよなー。
まだ接触は出来ない状態だけど……この場が、今の最前線の1つって事か。俺ら、今の状況でかなり重要な立ち位置になってきてるね。
――――
命名クエスト、X版(旧Twitter)を実施中!
今回の対象エリアは『名も無き未開の山岳』!
よければ参加していってねー!
私のXアカウントはこちら
@kabekawa_t
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