第1588話 無所属の動き
ベスタが名付けた『瘴気の転移門』が、黒の異形種の溜まり場になっている洞窟の付近に出現するのを防ぐ為、移動を再開!
もう転移門の消し方は分かったから、洞窟の近くでなければ消さない方がいいのか? いや、何個まで同時に開けるのかが不明だし、可能な限り消した方がいい? くっ! その辺、情報が足りん!
「ん? 羅刹から、フレンドコール?」
「ケイ、それはすぐに出とけ! この状況で連絡があるなら、重要な内容だろ!」
「だな! 少しの間、指揮は任せたぞ、アル!」
「おう、任せとけ!」
「……ラジアータ、俺らで交代しながら獲物察知での警戒はしていくぞ。『獲物察知』!」
「了解だぜ、十六夜さん!」
獲物察知での周辺に探りは十六夜さんとラジアータさんがやってくれるようなので任せておこう。いつ、どういう動きが出てくるかが不明だから……急な挙動で落ちないように、アルの木の根をしっかり挟んで……よし、これでいい。
さて、羅刹からのフレンドコールに出てみますか。一体、どういう話が出てくるのやら?
「っ! ようやく繋がったな、ケイさん!」
「すぐに出れなくて悪い。こっちも色々バタバタしててさ。それで……どういう重要情報?」
「『簒奪クエスト』の情報だ。今、俺らの他のメンバーが灰のサファリ同盟に同じ説明をしてるが……ケイさん達には、真っ先に伝えておいた方がいいと思ってな」
「あー、やっぱりその系統の話だよなー! それは助かるけど……具体的にどういう内容?」
羅刹達が『簒奪クエスト』まで進めているとは思えないんだけど……それでも何か情報を掴んでるって事は、無所属全体に対して何か働きかけがあったのかも?
「無所属全体に、演出が出たんだが……その主が黒の異形種でな?」
「……はい? え、言葉ってそのままじゃ通じないんじゃ?」
「いや、1つのエリアを奪い取る際に黒の暴走種のフィールドボスを乗っ取って、その言葉を利用しているらしい」
「……あー、やっぱり黒の暴走種が乗っ取られるパターンか。それ、助け出せるやつ?」
「乗っ取った奴からの話だから、そっち方面は分からねぇな」
「ですよねー!」
乗っ取った奴が、無所属に呼びかける中で、解放方法なんか話す訳ないよな。……てか、本格的に簒奪クエストに成功してるっぽいね。
グレイ達からは……その辺の説明が出るのは、まだ先か? まぁ状況把握からすべき事だし、すぐには進まないかもなー。問題は――
「俺ら、無所属への演出は……まぁざっくりと2つだな」
「……2つか。具体的には?」
「1つ目は、『黎明の地』と新エリアの間の転移の確立の宣言だ。『瘴気収束』での転移先として、占拠した『異形の海岸』の指定が可能になった」
「……マジっすか」
これまではランダムでしか転移出来なかったのが、明確に安定した出入り口として成立してしまったとは……。まぁ無所属では、傭兵になってなければ新エリアへの安定した転移は難しかったんだしな。
これくらいは予想が出来た範疇だけど……問題は2つ目かも? 灰の群集の傭兵をしている羅刹にもその情報が届いてるってのは……ちょっと嫌な予感。
「安定した転移は……まぁ傭兵になってない奴らが望んでいたものだから予想の範疇だったんだがよ? そこで問題になりそうなのが……2つ目だ」
「それ、問題になりそうな内容?」
「それぞれがどう動くか次第ではあるんだが……2つ目は、簡単に言えば自分達の味方をしろという勧誘だな。群集に対する、第4の勢力を確立するつもりみたいだぜ?」
「そうきたか!?」
黒の異形種をトップに据えた、3つの群集とは別の勢力を作ろうとしてるんかい! いやまぁ、骨の竜は争っている理由は本質的に群集と大して変わらないとは言ってたし……こういう流れになるのは、そう不思議ではないか。
「……羅刹達は、どうすんの?」
「んなもん、参加しやしねぇよ! ただ、今の無所属の勢力図は不安定だから……この機会に、第4勢力に入り込もうって連中は結構出る可能性はあるぜ?」
「……だろうな」
これ、どこの群集にも所属する気がない無所属の人が流れ込む可能性ありだな。この流れに合わせて、無所属でも交戦的な人と、争い事が嫌いな人とが二分されそう?
「あっ!? eスポーツ勢の動きはどうなる!?」
「そこは……多分、入ってきたばかりの奴は、そう動かねぇと思うぜ? 第4勢力なんてのに興味があるとは思えんし……群集で受け皿を用意してる最中なんだから、そっちに流れる可能性の方が高いんじゃねぇか? 変に荒れた集団の中にいるよりは、そっちの方が利はあるだろうしよ」
「あー、それは確かに……」
いくら対戦の機会を求めているとはいえ、急激な変化の中に身を投じるよりは、安定している場所の方がいいはず。むしろ、この事態によって、群集で準備中の専用の共同体へ、人が流れやすくなるかも?
「まぁともかく、無所属にはそういう情報が流れている。……好戦的な奴は、大きく動くぞ?」
「だろうなー。実際、攻め込んでくる準備はしてそうな感じだし……」
「ん? ケイさん、何かに遭遇したのか?」
「『侵食』での察知なしでも、目視出来る瘴気の渦をさっき見たとこでさ。今、レナさんが報告を上げてくれてるとこ」
「……なるほど、既に遭遇済みか。UFOからの宝探しイベントかと思えば……随分と、流れが変わってきやがったな」
「……確かに」
表向きではUFOの撃破がメインのイベントだったけども、裏では一部の黒の異形種やそれに味方する無所属のクエストが進んでたとはね。
運営め! 無所属と群集では人数差があり過ぎるから、群集での情報共有がまともに機能しないようになる調整でもしてたのか!? ……冗談抜きで、その可能性はありそうだなー。
「とりあえず、こっちで分かったのはこんなとこだ。ケイさん達は……黒の異形種に接触しに行ってる最中だよな?」
「まぁそうなるけど……そういや、羅刹達は今どこにいるんだ? まだ五里霧林でUFOに吸い寄せられるのをやってる?」
「さっきまではそうだったが……そういう段階は過ぎたみたいだからな。そろそろ、本格的に動くぜ?」
「というと?」
「俺らも無所属では知られた名だからな。『簒奪クエスト』の呼びかけに応じて、動いてもおかしくはねぇだろ?」
「さっき参加しないって……あ、なるほど。中に入って状況を探るんだな?」
「そのつもりだ。だがまぁ、傭兵経験がある無所属は警戒されるだろうから……これは一部の人にしか伝えとかねぇからな。ケイさん、もし仮に俺らとどこかで遭遇しても……躊躇なく、全力で殺しに来い。俺らも、重要な局面でない限り、本気で殺しに行くからな」
「……そうじゃないと、疑われるからか」
「あぁ、そういう事だ。灰のサファリ同盟にも、この内容は一部以外には伝える気はないからな」
ふむふむ、決して本当に裏切る訳じゃないけども……対外的には、そう見えるように動かないといけないもんな。本当に裏切るつもりなら、今こうして、俺へフレンドコールをしてきてる訳がない。だから、これは混ざる為の偽装工作。
その為に羅刹達、灰の群集の無所属支部は……これから灰の群集を裏切ったフリを盛大にやっていく訳か。そりゃ、大々的に言っておける内容じゃないですよねー!
「あ、イブキはどうなる?」
「何も言わず、置いていく。まぁそれでイブキがどう動くかにもよるが……教えておく方が情報流出のリスクがあるからな」
「ですよねー!」
多分、イブキには本当の事を伝えない方が良い動きをしそうな気がするよね。羅刹達への文句を言いながら盛大に対立するか、本気で裏切ったつもりで羅刹達を追いかけていくか……どっちになっても、状況を客観視した時の信用度を高める役目は果たしてくれそうだ。
「そういう事だから、戻れる状況になるまでは……もう連絡はないと思ってくれ。形の上では、傭兵としての資格も一旦剥奪になるだろうしな」
「……へ? あ、そりゃそうか!」
傭兵として灰の群集の味方をしてたからこそ、色々と特権を得られてたんだしな。それらを全て捨てるからこそ、本気で裏切ったという思わせれる状況も作れるのか。
「それじゃ、そろそろ切る――」
「羅刹! そういう動きをするなら、1つ注意しといてくれ!」
「……なにかあるのか?」
「曼珠沙華に今回の動きの黒幕を聞いてみたんだけど……無所属にいる検証勢が中心にいるっぽいんだよ!」
「あー、あの連中か。ま、そんなとこだとは思っていたが……それが何か問題か?」
「……へ? いや、群集所属の人達も関与してる可能性もあるらしいから、羅刹達の動きも悟られやすいんじゃないかと……」
「そこは心配いらねぇよ。俺らにスパイ嫌疑をかける事を心配してるんだろうが……もし、そんな事をしてくるなら、逆に利用してやるまでだぜ? 考えてもみろよ。灰の群集の所属のままの奴と、傭兵の権利を全て捨てて動く奴……どっちの言葉が怪しい?」
「あー、逆手に取るのか!」
それに、仮に羅刹達が信用されなくても……相手の中で少なからず不和は生じるはず。信頼される事ではなく、混乱させて足並みを揃えさせないのが目的なら、それだけで十分な成果か!
「それじゃ、またな。今のPTメンバー以外には口外無用で頼むぜ?」
「ほいよっと!」
そこまで言って、羅刹とのフレンドコールが切れた。こういう内容は出来るだけ知ってる人は少ない方がいいから、口止めされるのも当然ですよねー。
「ケイ、羅刹さんはどう言ってたのかな? なんだか、不穏な様子だったけど……」
「あー、その辺は説明するけど……十六夜さん、これから説明する事、『縁の下の力持ち』には伝えないようにお願い出来る?」
「……可能だが、広げない方がいい内容か?」
「そうなるな」
「……ならば、そうしよう」
「はいはーい! 羅刹さん、何を企んでるの?」
「それは――」
この内容を聞かせるのは、この連結PTにいるメンバーだけ。とりあえず、このメンバーには包み隠さずに伝えていこう。それ以上には伝えられないけどね。
◇ ◇ ◇
周囲を警戒しながら、羅刹達の動きを説明完了! 説明中、他に目立った動きがなくてよかったよ。でも、見えないところでは、色々と動いてるんだろうね。
この羅刹達の動きは相当、無茶な動きではあるんだろうけど……みんなはそんな反応を――
「羅刹さん達、無茶し過ぎなのさー!?」
「それ、大丈夫なのかな!?」
「傭兵の権利、戻せなくなっても大丈夫なの?」
「その無茶が出来るのは……灰の群集に戻る事は、既に決めているからだろうな」
「……傭兵の……権利の……最後の……使い所?」
「……多分、そうだね」
「思い切った事を考えるね、羅刹さん! 彼岸花、ラジアータ、どう動くと思う?」
「羅刹さんほどの大物が、そういう動きを見せれば……ほぼ確実に混乱は起こるだろうな。信じるにしろ、疑うにしろ……想定外の動きになるはずだ」
「……混乱させるのが狙いなら、これ以上はない手かも?」
ふむふむ、彼岸花さんやラジアータさんから見ても、かなり有効な手段ではあるっぽいね。まぁ現状の『立場』を代償にするんだからこそ、盛大な効果が期待出来るんだろうな。
「だが……レナさん、やらせて大丈夫なのか?」
「大丈夫にする為に、ケイさんに連絡してきたんだと思うよ。ねぇ、ベスタさん?」
「おそらく、そうだろうな。事前に話が伝わっていれば、後でどうとでもフォローは可能だからな。……レナ、俺は周囲の目があるから、大々的には動けん。そっちで対応を頼む」
「うん、任せて! まぁ羅刹さん達が急に暴れ出して、どこかに消えたって報告は上がってきてるし……とりあえず、現状では流れに乗っておくね。ご要望は『傭兵の権利の剥奪』だろうから、そっちを進めておくよー!」
「あぁ、頼む」
羅刹が俺にフレンドコールをかけてきた狙いは、まさしくそこなんだろうなー。素早い『傭兵の権利』の剥奪と、今の一連の流れが終わった後に、スムーズに灰の群集に戻る為の根回しは必須!
もし、その根回しなしに動き始めたら……冗談抜きで完全に立場を失って、戻ってくる事は出来なくなるもんな。てか、簒奪クエストの進行があってから、そんなに時間は経ってないのに……よく、こんな思い切った行動に移そうと思ったな!?
「んー、まだちょっと権利の剥奪を提案するには、混乱し過ぎてるから、少し待った方がいいかも? あ、イブキさんには伝えずに行ったって言ってたけど……イブキさん、混乱しつつも残るのを選んだみたいだね」
「おっ、そっちを選んだか!」
イブキ、灰のサファリ同盟の元に残る選択をしたとは、ちょっと意外? まぁ残ってくれた方が、出ていった場合よりも後始末は楽だしなー。
流石に、全くの恩知らずでもなかったか。まぁイブキの口が軽いのは間違いないから、下手に羅刹達の計画は伝えられないけどさ。
「あ、そうそう。話の流れ的に言い出せなかったけど……『瘴気の転移門』の消去方法の通達は完了ね! あと、あちこちの新エリア……それも命名クエストが終わってないエリアで『瘴気の転移門』の出現は確認されてるよ!」
「あちこちの出てきてるのか……。どこに狙いを定めているかは、今の段階では分かる?」
「んー、それはまだ無理みたい? わたし達が遭遇したのと同じで、転移してすぐに引き返すってのが目撃されてるから……今、向こうも情報収集中なのかもね」
「相手も情報収集中か……」
となると、しばらくは大々的な侵攻はなさそう? 羅刹達が動いたみたいに、無所属でも人が集まっていくだろうし……戦力が整うまでの間に、どうにか対策を考えないと! あちこち、占拠されまくる訳にもいかんしなー!
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