第1587話 大きな変化


 簒奪クエストにも進捗があったのが確認出来たし、無所属の乱入勢の動向に警戒しつつ、山岳エリアにある黒の異形種の溜まり場へ向けて移動中。

 周囲を警戒しやすいように、川の上空を通っているけど……結構、灰の群集の反応があるな。同じ方向に進んでいるような様子だし……狙いは同じか?


「ケイ、周囲はどんな感じかな?」

「灰の群集の人達が、俺らと同じ目的地に向かってる様子はあるな。まぁあそこの場所は報告に上げてるんだから、この動き自体はそう不自然じゃないけどさ……」

「それなら、協力は出来ないかな?」

「簒奪クエストに協力してない人なら協力出来るだろうけど……その判別手段がなー。流石に倒せない相手に妨害されると厳しいぞ?」

「……あ、確かにそれもそうかな」


 普段から馴染みがある人なら、そういう警戒は不要なんだろうけど……獲物察知の反応だけでは、それが誰なのかは分からない。だから、協力を前提に不用意に近付くのは避けておきたい……。


「あぅ……同じ群集の人が、本当の意味で敵に回ってる可能性は厄介なのです……」

「……そうなんだよなー」


 同じ群集だからこそ、ダメージがまともに通らないという要素が厄介過ぎる。逆に、相手からすると……ダメージが通らなくても、妨害だけすればいいんだから……本当に厄介だな!?


「ケイ、警戒はしておくべきだが……過剰過ぎるのも気を付けろよ?」

「簡単に言うけど……アル、もし甘く考えて、盛大に妨害されたらどうすんだよ?」

「そもそもの話、今の段階で堂々と動いてくるのか? 灰の群集に所属しているのに、無所属の味方をしているのをバラすのは最終手段だろ? 出来る限り、悟られないように動くと思うがな」

「……あー、確かにそれはそうかも?」


 俺らの妨害に動けば、簒奪クエストの進行に協力しているのは、言い逃れが不可能なくらい明白になる。でも、その手を使えるのは一度だけだと考えるべきか。

 もし俺がその立場だとすれば……ここぞという時まで、極力隠し通すかも? いや、どれだけの人数がそっちに付いているか次第か? 人数が多ければ、少数にわざと裏切るような様子を見せさせて、本命を潜り込ませるという事も――


「……ケイさん、落ち着いて。……そうやって悩ませるのも、作戦の内かも?」

「あー、それもそうだな……」


 彼岸花さんの言う通り、この手の疑惑は考え出したらキリがない。今はアルが言ってたように、過剰に考え過ぎない方がいいのかも。下手に考え過ぎれば、疑心暗鬼になって、どうしようもなくなるし……。


「っ! 瘴気の渦、東に確認!」

「東か! みんな、警戒してくれ!」


 リコリスさんが転移の兆候を見つけたか! UFOと無所属、どっちが出て……って、『Ⅰ型』のUFOかよ! これ、紛らわしいな!?


「ケイさん、ケイさん! UFO、どうしますか!?」

「あー、今回はスルーで! ……惜しいけど!」

「まぁ状況が状況だし、仕方ないよねー」


 くっ! 本当なら、『Ⅰ型』の改造を手に入れるチャンスなんだけど、優先順位はどうしても下がる。今は、黒の異形種との再度の接触が最優先!

 幸い、必要なアイテムは全部揃っているんだから、ここでUFOから確保しなきゃいけないんじゃないし……って、あれ?


「……UFOの方に、移動方向を変えたPTがいる?」

「……必要な……アイテムが……足りてない?」

「あー、そうか。そういう可能性もあるか」


 俺らには揃っているけども、どこのPTにも揃っているかというと怪しいはず。特に翻訳機能に関しては、そこまで重要視していた人も少ないだろうしさ。


「はいはーい! それって、必要なアイテムが揃ってないのに、黒の異形種のとこに行こうとしてたって事? その状況で、行って意味あるの?」

「リコリス、現地で足りてない物を持ってるPTと一緒に動こうとする可能性はあるぞ? それに、今みたいに現地で調達出来る可能性もあるからな」

「あっ! 確かにそれはそうだね!」

「……翻訳を持ってるとこは、多分、まだ少ないよ?」

「……雑な言い方をするなら、野次馬なんだろうよ」

「十六夜さん、それは雑に括り過ぎ! 別にわたし達しか、クエストを進めちゃいけない訳じゃないんだしね」

「……確かに、それはそうだな。今の言い方は、取り消しておこう」


 今の十六夜さんの言い方はちょっと悪かった気もするけど、実際にそういう人も混ざってそうではあるのが……ん? 別にそれも悪くはないか? むしろ、そういう人達を集めて……。


「……人が多ければ、それだけ変な事もしにくくなるよな?」

「およ? ケイさん、何か思い付いた?」

「まぁなー。場所は分かってるんだし、アイテムが揃ってない人も集めて、周囲を固めるってのはどう? 無所属に協力してる人が混ざったとしても、人数自体が多くなれば、それだけ動きにくくなるだろ! それに、無所属勢の動きも邪魔出来る!」


 午前中の動きで、黒の異形種に関する事なら灰の群集のみんなとは協力して動けるようになっているんだ。流石に大人数が無所属に協力しているとは思えないし、動く人数を増やせれば、妨害自体を妨害出来るはず!


「んー、確かにそれはそうかも? それなら……ベスタさん、タシュー・タヨーウにいる人達をこっちに動員をかけられない?」

「ほう? 確かに、その手はありだな。紅焔、少し手伝え。ここにいる連中を、山岳エリアまで連れていく」

「そりゃいいな! いいけど……元の目的はどうすんだ?」

「それはもう目前だ。その確認を終えてから、呼びかけていくぞ」

「おっ! もう少しで到着……って、あそこの洞窟か!?」

「そうなるが……入り口を塞ぐ敵は消えたままか。これはやはり、無駄骨の可能性が高そうだな」

「マジか……。まぁそれならそれで、サクッと確認を済ませようぜ!」

「あぁ、そのつもりだ。ケイ達は引き続き、現地に急いでくれ。俺らは確認が終わり次第、人を引き連れて、そちらへ向かう」

「ほいよっと!」


 ベスタが呼びかけて連れてきてくれるのなら、心配は無用だな! てか、こんな形でベスタや飛翔連隊と別行動になってたのが役立つとは思わな――


「えっ!?」

「っ!? ケイ、これって!」

「『侵食』なしで見えてる、瘴気の渦なのさー!?」

「うげっ、そうくるか!? 全員、戦闘態勢!」


 今度のこれは……ほぼ確実にUFOじゃなくて、無所属の乱入勢の転移! それも、これまでの瘴気収束を使ったランダム転移ではなく、簒奪クエストで得た転移手段の可能性が高い!

 みんなからの返事はないけど……一気に空気が切り替わって、警戒心が高まった気がするね。出てくるなら、出てこいや! 簒奪クエストを進めてる無所属の乱入勢!


「……瘴気を纏った、タカ?」

「あっ!? 引き返したのさー!?」

「判断が早いかな!?」

「っ! 『識べ――あ、間に合わなかった!?」


 ちょ、出てきてすぐにUターンして、戻っていった!? 今のタカ、瘴気属性持ちだったっぽいけど……動きから考えて、プレイヤーっぽいよな? レナさんが識別しようとして間に合ってなかったけど、動きやプレイヤー名が出てなかった事を考えると……。


「……今の、黒の統率種? 率いた個体はいなかったっぽいけど……」

「多分、偵察だったんだろうねー。どうも、転移の瘴気の渦は開きっぱなしみたいだし、どこに開いたかチェックに来たんじゃない? それで、わたし達を見て、すぐに撤退したんだと思うよ」

「ですよねー!」


 大体、レナさんの見解に同意。黒の統率種であればプレイヤー名は出ないし、すぐに戻れるのなら……即座の撤退判断にも納得は出来る。


「ねー、ねー? 今の、コトネさん?」

「……多分、コトネさんじゃないよ」

「コトネさんなら、大人しく引き下がる訳がないな。今頃、盛大に攻撃を仕掛けてきて交戦になってるだろう」

「あ、やっぱり? んー、他に知ってるタカの人……思いつかないなー?」

「リコリスさん、知ってる人ばっかりが出てくるとも限らないからね? 黒の統率種はプレイヤー名が出ないんだし……そもそも、今のが統率された個体って可能性もあるんだしね。プレイヤーが出てくると思って、識別が遅れたのは痛かったかも……」

「あ、そういや黒の統率種って、1体までは直接操作が可能なんだっけか」


 確か、『瘴気支配』ってスキルだっけか? それでタカの瘴気強化種を直接操作して、偵察に送り出したと考えるのは筋が通るけど……それって無鉄砲に動いてる訳じゃないって証明にもなるよな。

 うーん、直接操作された個体だったのか、プレイヤー自身だったのか……そこまで考えが及んでなかったな。まさか、あんなにすぐ引き返すなんて思ってもなかったし……そもそも、相互に転移出来るのは想定外だよなー。


「……過ぎた事を気にし過ぎても仕方ないだろう。……それよりも、未だに残ったままのその瘴気の渦をどうするかが問題じゃないか?」

「……このまま……放置も……出来ない!」

「そうなんだよなー」


 色々と想定外だったのは確かだけど、十六夜さんの言う通り……今、優先すべきは反省じゃない。これまで出てきた瘴気の渦と違って、消えずに残っているこれを無視して進む訳にもいかないもんな。

 まさか、その場に残るとは思いもしなかった。まぁ時間経過で消える可能性もあるけど……消えなかったからこそ、引き返すなんて想定外も起きた訳で……。


「アル、この瘴気の渦……壊せると思う?」

「壊すというか、消せるとすれば……まぁ『纏浄』の出番だろうな。だが、ただの『浄化の光』程度でどうにか出来るとは思えんぞ?」

「……ですよねー。浄化魔法くらいは必要になりそうだけど……そうなると、しばらく1人は戦線離脱か」


 浄化魔法を使うと、デメリットで『過剰浄化・重度』がもれなく付いてくるから……現状での使用は躊躇うね。でも、何もせずここから立ち去る訳にもいかないし……さて、どうしたもんだ?

 もし消せたとしても……おそらく、また出現する可能性は高い。出現場所が変わる可能性もあるし、下手に消すよりはベスタ達が人を連れてくるを待って――


「……ケイさん、纏浄と浄化魔法は私がやる」

「彼岸花さん、いいのか?」

「……私は、面と向かっての戦闘が苦手。……だから、無駄になっても、戦力の低下にはならないよ?」

「いやいや、Lv10の氷の操作をあれだけ使えてたら、十分過ぎるほどの……いや、分かった。それじゃ、彼岸花さんに任せるよ」

「……うん、任せて!」


 一瞬、彼岸花さんが自分の事を卑下して言っているのかと思ったけど……今のは、そういう意図じゃないな。他の人を戦線離脱させない為に、自分から名乗り出たみたいだし……再出現するとしても、一度は試してみるべきだという意思は感じた。

 ダメ元でも消す手段の模索はしておくべきだし……ここは、彼岸花さんを頼りにさせてもらおう! 俺らが先に進む為にも!


「……『纏属進化・纏浄』!」

「彼岸花、思いっきりやっちゃえ!」

「そんな瘴気の渦なんて、消し飛ばしてしまえ!」


 リコリスさんとラジアータさんからの激励を受けつつ、彼岸花さんが浄化の光に包まれて、進化を果たしていく。

 瘴気に対して浄化の力が特効なのは、これまでの事で分かっている。でも、これで消し切れるかは……ぶっちゃけ分からん!


「……いくよ! 『並列制御』『浄化の光』『アイスクリエイト』!」


 浄化の光を帯びたキラキラとした氷の粒が霧状に広まり、瘴気の渦を呑み込んでいく。頼むから、これで消えてくれ! ……ダイヤモンドダストが今回の浄化魔法の元になってるから、様子が見えないのがもどかしいけど!


「……これで、発動は終わり! ……どうなった?」

「おぉ!? 見事に消えたのさー!」

「彼岸花さん、ナイスかな!」

「浄化魔法で消せるみたいだね!」

「……よかった。成功!」

「彼岸花、ご苦労様! ハーレさん、彼岸花を巣で保護しててくれない? 動けるようになるまで、しばらくかかるからさ!」

「もちろん、それでいいのさー!」

「ありがとねー! それじゃ、彼岸花はしばらく休んでて。よっと!」

「……うん。ありがと、リコリス」

「いえいえ、どういたしまして!」


 リコリスさんが、過剰浄化で動けなくなった彼岸花さんを岩で運び、ハーレさんの巣の中へと退避させていく。アルの樹洞の中に退避って方法もあるけど……まぁこれでも、無茶な挙動をしない限りは大丈夫だろ。


「ベスタさん、こっちの状況は聞こえてた?」

「あぁ、聞いていた。レナ、その瘴気の渦……これまでと違っているなら、名称は別にあった方が分かりやすいし、便宜上『瘴気の転移門』と名付けておくか。『瘴気の転移門』の再出現の可能性はどう見る?」


 さっきの瘴気の渦は『瘴気の転移門』か。まぁ『侵食』の察知無しでも見える状態だったし、混同しないように別名称を用意しておくのは無難かもね。

 それに……再出現の可能性は、無視出来ないよな。このまま消え去ったままとは、とても思えないしさ。


「すぐではないとは思うけど、ほぼ確実に再出現はあるだろうねー! まとめの編集と情報共有板での情報拡散、わたしの方でやっとくのでいい? ベスタさん、今忙しいでしょ?」

「任せられるなら、頼みたいところだな。任せていいか?」

「当然! それで、そっちの動きはどう?」

「完全に無駄骨だったから、人を集めるのに移行中だ。ケイ、そっちはそのまま進んでくれ」

「再出現は、待たなくていいんだな?」

「場所が変わる可能性もあるからな。もし、洞窟のすぐ近くに転移門が出てきたら厄介だ。その前に、洞窟を確保してくれ」

「ほいよっと!」


 危惧すべきは、無所属勢にとって有利な場所に転移門が繋がる事か。もしそうなった場合には消す為の手段が必要になるし、消す為にはその場にいる必要もある。

 消す手段は把握したんだから、今の最優先事項は黒の異形種の溜まり場の洞窟へ、一刻も早く辿り着く事だな!


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