「思い出すことが、すべての悩みのもと。修業とは、過去に捉われない心を持つことである」とは、ある高僧の言葉。
この物語りの主人公である2人の女性は、40年昔に2人の間に起こったわだかまりの1つ1つを鮮明に記憶し、それらに捉われたまま大人になり、そして再会する。1つ1つのエピソードに、「人間というものは、こんなに幼い時から求めあい傷つけあう生き物なんだなあ」と、その哀れさに嘆息せざるを得ない。
しかし、過去に捉われるからこそ、書ける物語というものがある。
そして、読者に与える感動というものがある。
作者の星都ハナスさんの感性がきらりと光る短編です。
主人公は、小学校の時に絶交した友人の家を、40年ぶりに訪ねた。インターホンを押して、相手が出るのを待つ。その時、主人公は眩暈を起こして、友人と初めて出会った時にタイムスリップする。そこでは幼い自分が、初めて会った友人に、「ブス」と言っていた。ここで主人公は、幼い自分自身に吸い込まれ、友人との思い出を追体験する。
小学校に上がると、友人は主人公をイジメた。主人公はそれに対して、意地悪で応戦する。しかし自分がイジメられても傷つくが、相手に復讐すればもっと心が落ち着かなくなるのだった。そんな微妙な関係になった二人のことを、ずっと見守ってくれていていたのが、お婆さんだ。お婆さんは戦争体験者だった。そんなお婆さんは、巾着を縫って、仲良しに戻れるという石を入れて、主人公と友人に渡してくれる。
そして、龍舌蘭の花が咲く。この花はとても珍しく、何十年かに一度しか咲かない上に、すぐに枯れてしまう。主人公と友人は、またこの花が咲くまで友人同士でいようと約束するのだが……。
昭和という時代背景が、懐かしさを連れてくる。
その懐かしさの中には、心に刺さった棘を思い出させる。
後悔と友情。優しさと悲しみ。
是非、御一読下さい。
ちょっとした些細な言葉1つから、険悪な関係になってしまったふたりの子供たち。
それでも本当は、友達がほしい、仲良くしたい、仲間はずれにされたくない、、、。
矛盾だらけの心は大人になっても続きます。
それと、本心も、、、。
過去から現在へ、子供から少女、女の子から大人の女性へ、複雑な争いと執着、裏切りと謝罪、あるアイテムと植物の花が、あらゆる思いを昇華し、目に見えない素敵な1つの花を、咲かせたエンディングだったと思います。
一筋縄ではいかない人生の、ある時代とある未来への、1つの希望が描かれていると思います。
なにか、腑に落ちたと言うとおかしいかもしれませんが、優しい余韻を残して終わる物語でした。
一読をお勧めします。