なんとかなりそうでどうにもならない目の前の現実

犯罪者をバットで処刑する仕事(公務)に従事する男の日常の物語。あるいは独白。
とにかく重い。いや重くはないけど閉塞感というか無力感というか、きっと現代社会にも通底する類のそういう〝しんどさ〟のようなものを、文章越しにポイポイ投げてきてくれるお話です。大事なのはこのポイポイで、グサグサでもゴリゴリでもなくあくまでポイポイ、何の気なしに軽く(でも大量に)投げつけてくるような、この独特の感覚が癖になります。
どこか冷笑的な側面はあれど、でも語り口そのものはあくまで軽く。なのに終盤近くまで読み進める頃には、なんだか石の中に生き埋めにされたような気分になる。
世代や環境にもよるのでしょうけれど、でもそれなりに多くの人が感じているであろう、〝この先〟に対する漠とした不安のようなもの。それをそのまま、くっきりと実体化させてしまったようなお話。
結末はきっと気持ちよくも読めるのですけれど、でもいざ目線を自分の足元に向けると、まだ怖い。
果たして、急に画面の向こうから転がり落ちてきたそれに、自分は顔をくしゃくしゃにして笑えただろうか?
なんだか鏡の中のグロテスクな化け物を見せつけられたような、それでもその背の向こうに晴れ空を見つけたかのような。自分の足元さえ見なければ空だけは晴れているかのような、そんな綺麗で胃に悪い結びが最高に好きです。

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