ふとしたきっかけで職場のハイスペック顔良男性と仲良くなるアラサー女性の恋と日常のお話。
仲良くなっていくその過程というか、ほぼ接点ゼロの状態から思いが結実するところまで一式、いやなんならおまけにその後のいちゃラブな一幕もつけちゃう的な、そんな甘味のフルコースみたいな作品でした。好き。
リソース配分の思い切りよさ、きっちり的を絞ったお話づくりの姿勢が好きです。
登場人物は最小限に、舞台背景もできるだけ簡素に。その分ふんだんに描写されるのは、やはり時谷さんの魅力とあと主人公の内心。揺れ動く心や距離感の変化。やっぱり恋愛ものはこうでないと的な部分にきっちり注力してくれる、このエンタメ性というかサービス精神が嬉しいです。
その上で、というか、だからこそ、というのか、『鳥』の存在が目を引きます。
唯一はっきりと組み込まれた題材。出会いのきっかけであり、『幸せ』を象徴するものであり、またふたりの存在そのものを代弁するものであったり。場面によって様々な役割を担いながら、物語の全体に通底するモチーフ。この『鳥』のおかげで話にビシッと筋が通るというか、物語そのものの『顔』のように作用しているところが魅力的でした。
誠実に張られた伏線と言っておいてなんですが、私が勝手に伏線だと思っているだけのことなんですが、時谷さんの好意の形がしっかりと一貫しているんですね。
一見すると話の主軸として鳥にフォーカスがあたっているんですが、これは語り手である佳織さんの視点だからで、時谷さんの視点ではまず佳織さんありきなんですよ。
二話目後半で明かされる、時谷の理由をしっかりと覚えた上で冒頭の飲み会シーンを見るとですね。第一声が「あ、~」から始まるのでまず最初にあるのは時谷さんが佳織さんを眺めているという前提なんですよ。しっかりと隅っこの席に座ってと書いてあるので、時谷さんの視線の先には佳織さんしかいない。なんでしげしげと見ていたかという理由が、先ほど挙げた二話目後半の話なわけですね。
ぐっと妄想をたくましくすると、時谷さんは超絶な美形なので、彼の前にこれまで現れた女性というのは、まず取り繕う、良いところを見せようとする、お行儀よくしようとするバイアスがとても高かったと思われるわけです。そこに、時谷さんの好みの女性のタイプという話と絶望的なすれ違いが発生する。
そういう前提があった上で(前提があったと私には思えたという話です)、この物語は始まるんですね。
丁寧な話運びでした。