不可解な事件の「被害者」たちと、その腕に刻まれた「味わえ」の文字。いったい誰の手によるものか。
司法などあてにならないとばかりに私刑というものが横行する世の中ですが、そんな集団心理よりももっと直接的でラディカルな神の手による刻印。人間ではない神による私刑です。
味わえ。お前自身が。
再読ですが、その分「被害者」たちの味わった恐怖と苦しみが、間接的に真の被害者の姿と重なり、さらに濃くその業を感じさせました。
死ぬことを選べない者たちは、一生消えることのない刻印を押されたまま生き地獄を歩むのです。
罪と罰という題材を不条理劇というかたちで明瞭に表現してくれる秀作。
物語のタイトルは顔です。初対面でつま先や背中から見る方は、まれでしょう。今作の顔、「味わえ」ですが、いきなりドキッとさせられます。いったいなにを味わえというのか。もうここで物語に引き込まれていきます。さらにとんでもない、背筋が寒くなる事件が展開していきます。それも次から次へと。ミステリーとホラーをとてもうまくマリアージュした物語、とでも表現すればよいでしょうか。真相が明かされたとき、読み手は「味わえ」の本当の意味を知ることになります。怖いです。これは現代に鳴らされる警笛だと受け取りました。お薦めです。
突然、アパートの住民から警察に通報があった。アパートの住民の一人である男性が、何者かによって部屋に監禁され、食べ物を取り上げられ、冷水風呂に頭を突っ込まれた。そして何者かによって、暴力もうけたというのだ。しかし男性の言う「何者か」の痕跡はなく、保護された男性の腕に血が伝う。男性の腕に刻まれた文字こそが、「味わえ」だった。
そして苛めを訴える少年やレイプされた男にも、加害者の痕跡は全くなかった。しかしその二人の腕にも、一件目の男性と同じく、腕に刻印されていた。「味わえ」と。その文字を目にした者は、恐怖におののき、半狂乱になるほどだった。
そして、その刻印を受けた人々の間には、ある共通点があることが判明する。
刻印が関係する事件は続いたが、犯人は見当たらず、迷宮入りした。
これは、人の因果と恐怖の物語。
この恐怖に、果たして終わりは来るのか?
是非、御一読下さい。