第5話 特別賞を引き当てた? 後編
カランカラン、と鐘の音が聞こえる。
「おめでとうございまぁすっ!」
係の人のそんな声も聞こえる。
僕は「嘘っ!?」と驚きの声を、
「いやぁ、さすがですね課長!」
僕達は小走りで課長のもとに駆け付けた。課長は係の人に誘導されて列の外に移動していたが、周りにいるおばさん達(といっても課長とさほど年齢は変わらないと思われる)から拍手されていて、真っ赤な顔でもじもじしている。
「当たっちゃったよぉ、会田くぅん」
いつもの恵比須顔で、課長は丸いお腹をさすりながら「えへへ」と嬉しそうだ。
「やりましたね、課長」
「ああ、上原君。まさか当たるとは思わなくてさぁ、びっくりしちゃったぁ」
「いえいえ、僕達はある程度予測してましたから」
「そうなの? すごいなぁ」
「おめでとうございます、課長」
「ありがとう
その言葉に、僕は「あれ?」と思った。
課長、国内旅行なんて欲しがってただろうか。
会田さんと上原さんもそこに気づいたらしく、怪訝そうな顔をして、景品を袋に詰めている係員さんを見た。彼は僕らの視線に気付くと「おめでとうございます、1等でございます」と笑って、その袋を課長に手渡す。
「1等?」
「おい上原、1等って何だ!? 国内温泉旅行券は特賞だろ!?」
「ちょ、ちょっと押さないでくださいよ会田君。――ええと、1等は……」
と、早速場所の空いた長テーブルに置かれた写真に視線を移す。それには早々と赤い花、そして『
『USB充電可能 猫型ロボット【NYAN☆BO】』
「ニャンボ! ニャンボですよこれ!!」
「にゃんぼぉ~? 何だそれ!」
「昔ほら、犬型のロボットあったじゃないですか。それの猫バージョンですよ。動きもまんま猫で案外可愛いんですよ」
「詳しいですね、岡崎君」
「姪っ子にクリスマスプレゼントでねだられまして」
「いや、でもおもちゃだろ? これが1等とかよぉ……」
「いや、会田さん……これ、実は……」
と、声を落として、ネットで見たその価格を会田さんに伝える。
「にっ、二十……っ!?」
「おもちゃじゃないんですよ、価格が」
「そりゃ1等だわ……」
「しかもこれ、ネットに繋いで学習したりとか出来るんですけど、それも有料で」
「何だと!」
「あと、機械ですし、保証サービスも入った方が絶対良いですから、多分、MAXで色々つけると三十……くらいは……」
「おいおい、それなら納得の1等だな」
「見た目は完全にロボットですけど、本物の猫みたいに動くんですねぇ」
上原さんは早速動画サイトで動いているNYAN☆BOを見ている。
「可愛いねぇ。これなら僕にも飼えるよ」
「これなら抜け毛の心配もありませんね」
上原さんから動画を見せてもらった課長は、画面がちゃんと見えているのか心配になるくらいに目を細めている。そんなに喜んでいる顔を見ればこちらの顔も自然とほころんでくるというものだ。
「……ま、課長が嬉しいならそれでいっかぁ」
ずっと苦い顔をしていた会田さんも、力なく笑っている。
「おい、岡崎。俺らの慰安旅行、犬山の旅館な。課長に場所聞いておけよ。申請とか面倒なのは手伝ってやるから」
「はい、わかりました」
上原さんは「ぐわぁ」と派手な声付きで伸びをしてから、よっしゃ、と腿を叩いた。
「さ、課長飲みに行きましょう! 猫ちゃんの歓迎会もやらないと」
「あ、そうだね。行こう行こう。嬉しいから、今日は僕が全部出しちゃう!」
「さっすが課長!」
「課長、ごちそうさまです」
「ごちそうさまです!」
猫が大好きなのに飼えないという、課長の――いや、ひいては我が顧客管理課の危機はこうして救われた。
有名温泉宿が何だ、海外旅行が何だ。
僕達はこれからも、課長が当ててくれたテレビでのんびりまったりとお昼休みを過ごし、さらに恵比寿感を増したにこにこふくふく笑顔の課長と毎日仕事をするのだ。これ以上の幸せはないと思う。
割とマジで。
O-SET学教(株) 本社ビル5階 顧客管理課の奇跡 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa
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