ぎっしりと詰まった物語

 読み終わった後、びっくりして文字数を確認して、一万文字以内にきっちり収まっているのにもう一度びっくりしました。
 この密度で物語が展開されているにもかかわらず、最初の一話がまるっとアクションシーンに割かれているというのもすごいことです。その上で日常パートが二回に問題解決のための動きがあるパートまで挟まって過不足なく物語を終わらせている手腕が強い。
 メタ構造が特徴の作品なのですが、仕掛けが二段階あるように思います。
 主人公「橘高ヒロト」の中に入ってしまった作者「青木ヒロシ」は、名前の部分の「ヒロ」が被っていて、「三十路のサラリーマンが趣味で書いている小説の主人公へのちょっとした(あるいは無意識の)自己投影」が見えて笑みが漏れるのですが、ここに本当の作者である「木船田ヒロマル」さんの名前を並べると話が変わってきます。こちらの名前もまた、「橘高ヒロト」に字面も音も似せてあるのです。
 これをあえて作者がやったのだとすると、作中世界内のメタ構造の上にもう一つ、作品と作者のメタ構造が生まれます。その前提を踏まえることで、はじめて、「了」のあとに書かれた文章の意味が見えてくるという仕掛けが、とてもテクニカルでした。

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