1日目 午前中(1)

定期検診の日は少し憂鬱だ。


午前中に病院に行く僕はお昼から学校に行くことになるが、僕が登校するとクラスを変な雰囲気にしてしまう。

仕方ないが、どうしようもない。

どうしたって1年後に死ぬ。そんな僕の運命を知っていたら普通の人なら検診が終わった僕になんて声をかけていいか分からないだろう。

僕がクラスメイトの立場でもなんて声をかければいいのかわからない。

それでも優しいクラスメイトは戸惑いながらも僕に気を遣いながら接してくれようとするし、自分たちではどうしようもないと知りながらも僕のことを考えてくれる。

そんなクラスメイトに感謝しつつも、そんな気遣いが僕は苦手だった。


確かに僕は死ぬ。

でも僕はみんなより死ぬのが早いってだけであって、運動も食事も生活も何も制限はかかっていない。

だから特別扱いはやめて欲しい。

僕はみんなと普通の学校生活を送りたい。

はっきり言ってしまえば今の生活は息苦しい。

みんなと一緒にはしゃいで、いろんなところに行って、一緒に何かをして喜んだり、涙を流したり、たまに怒られたり。

そんな生活を送りたい。


実際今の僕の生活は周りに迷惑をかけてるだけだ。

迷惑をかけるだけで何もできないのだったら死んだほうがマシだ。そう思うことも少なくない。

むしろ死んだらみんなは気を遣わないで済むし、親は僕にかかる無駄なお金を使わなくて済む。

僕もこんな生活に嫌気がさすこともなくなる。

僕が死んだらみんなはどう思うんだろう?

少しはみんな悲しんでくれるのかな?

やっぱり死んだら死んだでみんなホッとするのかな?

死んだら幽霊になって観察しようかな?

誰も悲しんでなかったら少し寂しいな…




そんなことを1人で待合室で考えていた。




日比谷海斗ひびやかいとさん、診察室へどうぞ」

自分の名前を呼ぶアナウンスで我に帰り、僕は立ち上がって診察室の扉をノックした。


「失礼します。」

診察室の中では見慣れた熟練の看護師さんと僕の主治医である吉原修治よしわらしゅうじ先生が待っていた。

「こんにちは。」

「こんにちは。体調はどうだい?」

「いつもと変わらず、悪いところは無いと思います。」

「そうかい、それは良かった。じゃあいつもの検査を始めるよ。」

そんな短い会話だけをしていつも通りの検査が始まった。僕ももう慣れたものだ。いつも通りに言われた指示に従って淡々と検査をこなしていく。


「検査結果が出たら家に郵送するね。お大事になさってください。」

「ありがとうございました。」


検査を終えて診察室を出た。


病院に来て受付をして、アナウンスを待つ。

アナウンスで呼ばれたら診察室に行って検査をしてもらう。

検査を終えたら再びアナウンスを待つ。

アナウンスで呼ばれたら受付でお金を払ってから処方箋をもらう。

病院を出たら学校へ行く。


もう1年も病院に通い続けているが定期検診の日はやることが全く変わらない。

もはやルーティーンだ。


今日もこの後はアナウンスを待って受付でお金を払い、処方箋をもらって学校に行くだけだった。


しかしこの日は違った。

待合室でアナウンスを待つ僕に"トントン"と肩を叩く手があった。


「日比谷くん?」


僕が振り返るとそこにはクラスメイトの横山悠里よこやまゆうりが立っていた。


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誰がために僕は生きる つむぎ @bay_Galaxy

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