第82話 そばにいるだけで



 頭がカクンと落ちる。

 その拍子で僕はぱっと目が覚めた。

 

 目の前にはダイニング。誰もいない。

 その状況を見て僕は何をしていたのか思い出そうとする。

 そうだ。両親とアキがダイニングで談笑していたはずだ。その姿を僕はリビングから眺めていたはずだ。

 

 もしかして僕は悩みも落ち着いたせいか寝てしまったのか? あれ? 両親は? そしてアキはどこ? けれどそこには誰もいない。

 そうやって状況を思い出していると

 

 あれ?

 

 右肩に軽い重みがかかっていることに気付く。


 何の重みか確認しようと右を振り向けば、僕に寄り添い右肩に頭を乗せ静かに寝息を立てて眠っているアキが居た。


 起こさなかったのは眠っている僕に気を使ったのかな? 

 そんなことを考えながら僕は静かに眠っているアキの顔を眺める。


 そしていつものようにしょうがないなあと思いながら苦笑した。


 でもこの笑い。考えてみると今まで別に嫌だとかそういうものが全く含まれていなかった。ううん、逆に好意のほうが多かったのかもしれない。

 特に気持ちの整理がついた今だから特に分かる。言うなれば安心感か。そして、なぜかこの仕草がアキに対して当たり前のようになってしまった気もする。

 

 そんな事を考えながら僕はアキを眺めていた。


 そして心底感じる。

 アキはそばにいるだけで十分だなって。


 今井さんに恋した時はそんな気持ちにはならなかった。なにかしら欲しい、近づきたいと常ながら思っていた。それがどうだ。アキに対してはそんなことほとんど感じない。あったのはどうしても顔が見たいと学校に走っていったときくらいだ。


 なんだろね、恋ってどんなものなんだろう。


 はっきり言って言葉にできるほどにはよくわからない。

 それでもアキにはそばに居てほしい……


 うん、それだけで十分だって今では思う。 

 



 ほんっとに。


 たった数週間でこんなに大きくなる存在が現れるとは思っていなかったよ。って大きいのに気持ちの整理がついたのは今日っていうのはお笑い草な話だけどね。


 本当にやっとだよ。


 でも……よくよく考えるとアキに対して照れとかはほとんど感じないのは不思議だ。なんだろう。そんなに女性に対して慣れているわけでもない僕だけれど……アキに自然に相手ができるそんな存在。


 あれかな?


 最初にアキの前で大泣きしたからそういう照れとかは感じなくなったのかな? あれだけみっともない姿を見せたからなあ。


 でも……過去の話を聞かれるのは恥ずかしいとか思っちゃったけど。


 うーーん。ほんとよくわからないなあ。


 でもこういうものかもしれないね。はっきりわかるものよりわからないものが多い……それが恋愛かもしれないな。


 なんてことを黙々と考えていると


 「うーーん」


 とアキが寝言を呟いた。そろそろ起きるかな?

 

 そうして僕はアキの寝姿を眺めながら起きるまでは静かにしていたのだった。




 あれ? そういえば両親はどこだろう……もうでかけたのかな? 

 息子が寝てるのに……

 お客が来てるのに……


 って僕も寝てたから人のこと言えないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女に2度告白した僕。けれど3度目はどうも無くしてしまったようだ ここです。 @kokotangpu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ