第81話 コノヤロー
ぼーーっと隣の部屋を僕は眺める。
そこにいるのは母親と父親……とアキ。
皆は軽い昼食をとりながら楽しそうに談笑している。まあ主に話しているのは母親だが。そんな母の話を楽しそうに聞いている感じなアキ。そして最後にふたりを温かく見つめている感じな父親。まあ、たまに僕の方を見て諦めろという顔をして見たりしながら……ね。
さて、僕といえば繋がってはいるがひとり隣のリビングにいた。そしてみんなと同じで軽い昼食をとっている。
なぜって? 母親からの被害を受けないように……だね。
まあ恥ずかしいから逃げているというところもある。ただ、アキに聞かれることはは嫌だとは思っていない。聞いてもらっていいと思っている。だって昔の僕をアキは知らないわけでそれを知ってもらうには良いことだと思うから。
ただ、その会話に入っているのは流石に照れるし恥ずかしいから。
だから僕は避難といえば良いのか逃げているといえば良いのか……隣の部屋に来ていた。たまにアキがこっちを見て心配そうだったり笑顔で僕を見たりと。アキも母親の相手に僕を気遣ったりと忙しいなと思いながらぼーーっとしていたわけだ。
いやぼーーっとしているだけじゃ駄目なんだよなと僕は今更思い出す。一気に起こったドタバタで忘れそうになってしまったが……父親との話、アキのことだ。
父親の話で思ったことがあった。
というのも当たり前という感じがアキにはある。そう以前まで好きだった今井さんへの感情と全く逆な感情だって。
今井さんへの感情は、どちらかといえば追いかける感じだった。そして緊張していた。今井さんの真也への思いも気づいていて遠い存在だと僕は感じていた。だから一生懸命近づこうと追いかけて追いかけて……
だから近づきたい、一緒に居たい。話したいという感情が強かったんだ。
けれどアキは違う。僕がそんなことを感じなくても側にいる。いや居てくれる。心配することもない安心な時間。
だから好意があっても今井さんへ感じていた思いもそう感じないんだ。
けれど。
ひとつ思い出す。
アキに強い思い。今井さんに対してのように感情を感じた時。
今井さんと話し合った後、僕はアキに無性に会いたくて会いたくて……
学校まで走っていったんだ。
顔を見て落ち着いたんだった。
ああ…… なんで気付かなかったんだろう。アキにだって感じていたんだ。
そんな事を考えながらパンをつまんでいる僕にアキは今までしてきたようにこちらを向いて「ニコッ」と笑顔で微笑んできた。
アキは普通にしただけだったかもしれないけれど。
不意だった。
アキに感じた今井さんと似た感情を思い出していた僕に届いた素敵な笑顔。
それを見た瞬間……
心のなかに眠っていた鈍感な僕が気付かなかったもの。
それを僕は遂に見つけてしまったよ。
そんな僕は流石に笑ってしまった。まあ、何もなくひとり急に笑い出すなんて周りから見れば変な人にしか見えないけれど仕方ないだろう。
だって可笑しいんだから。
けれど、そんな僕を心配してアキが席を外して側に来てくれた。
そりゃわけわからないし心配するよなと僕も思う。
だから僕はアキに「大丈夫、なんでもないよ」と申し訳なく伝えることで両親の元へと戻ってもらう。
そして……アキが戻った後、僕は
「はぁ……ほんと僕は駄目駄目だな。けれどやっと見つけたよ。コノヤローー」
そうひとり呟くのだった。
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