第80話 両親とアキ



 いきなりやって来たアキにびっくりしたのは間違いない僕だったが……あの人を先にどうにかしたいと思ってしまう僕。あの人……アキの横でニマニマしている人。母親だ。あの笑みで何を言い出すかわからない。

 そう思ってしまうほどに今の母親は……はっきり言って相手にしたくない。


 けれど、母親の相手をしていてはアキも困るはず。一度は来たと言ってもその時は僕ひとりだったわけで。

 うん。先にアキに声かけないと駄目だよな。


「おはよう? こんにちは? どっちだろ? まあいいか。まさか来るとは思わなかったよ。大丈夫なの? 」


 だから僕はそうアキに声をかける。ニマニマ母をスルーして。


「えーと。急に来てごめんね。気になっちゃって。部活にも身が入りそうになくて……」


 そんな僕の言葉に気不味そうな顔をして答えるアキ。うーん。部活を休んだのはあれだけどそこまで気不味そうな顔をする必要はないんだけどなあ。もしかすると両親が居ることも気不味さに繋がったのかな? まさかいるとは思ってなかったんだろうな。休みは普段居ないって話してたし。。。だから


「いや気にしなくていいよ。うちの両親がいても問題ないしね。そこのニマニマしている人! だよね? 」


 僕はアキに安心してもらえるよう相手にしたくない人に振ってやる。どうせほっといても出しゃばってくるだろうだから。もうこんな形でも役に立ってくれと。すると


「ええっ良いことだわ。さっきも話していたけれど……なつに友達が会いに来るなんて。ああ……嬉しくて笑ってたけどなんだか泣きそうになってきたわ」


 とそんな言葉を話しているうちに次第に潤んだ顔になる母親。え? 僕に会いに来た友人が居るだけでそんなに泣きそうになるの? 今までのニマニマは何なんだよと僕は言いたくなってしまう。そんなわけわからない状況になっているところに


「はいはい。そろそろ母さんも落ち着こうか。こんなところで泣いたらお客さんも困るだろ? はじめまして。私が夏樹の父親です。そしてあなたの横に居るのが私の妻、夏樹の母親だね。ようこそ、我が家へ」


 と父親がそう言って場を収める言葉とともにアキへと挨拶を告げる。


 なんというか母親が困った状況になりそうな上、今度はいきなり会話に入ってきた父親からの言葉に驚いたのか、いや驚くだろうな……そんなアキは慌てながらも


「はじめまして。いきなり押しかけて申し訳ありません。夏樹くんと親しくさせてもらってます千葉 アキです。よろしくお願いします」


 と僕の父親を見てしっかりとお辞儀をしてそう告げるのだった。




 しばらくすると落ち着いたのかそれに続いて母親もアキと挨拶を交わし……とりあえずこの場は収まったかなと僕はちらっと父親を見るととても優しい笑みを浮かべていた。そんな父親を見て多分あの笑みは母親からさっさと逃げろと僕に伝える笑みだろうなと僕は勝手かもしれないがそう理解し、アキを連れてさっさと僕の部屋へと行ってしまおうと考えていたのだが……甘かった。いや行動が遅かった。


「ねえねえ、千葉さん。よかったら少しお話しません? なつとのことも聞いてみたいし……」


 やっぱり出てきた母親。そんな母親に父親は呆れた顔をし


「ほらほら、夏樹と千葉さんに迷惑がかかるだろうに」


 と母親を抑えようとするも


「だって……真也くん以外で家に来てくれたの千葉さんだけなんですよ。話してみたいじゃないですか? 」


 と母親は聞き入れず、おまけに


「いえいえ、私もお話がしたいです。お母様」


 そんな感じで相手にしてしまうアキ。おい……勘弁してくれと僕は父親の顔を再度ちらっと見やるとちょっと困った顔をしている父親が出来上がっていた。諦めろってことですね。はい、父さん。




 というか今気づいたこと。アキさんや。お母様ってなんでしょうか?

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