第2話春の暮仏僧縛りし朱縄かな

牡丹寺地獄絵図


死ぬのが定め、散るのが定め。子守唄のように耳許でくちずさむあなたの声を聞きながら、朱縄で縛られ、戒められて、これが地獄かはたまた報いか、女犯の禁を破った私は打擲されているのです。いいえ、女犯と云わず、観音ばかりか吉祥天女に淫したのが私の過ちでございました。女犯よりも口憚られる、僧としてあるまじきことにございます。己が丹精した牡丹の園に御像を移し、花の密を味わうように夢うつつに交わって、法悦の心地に包まれたのも春の夜のこと、明日みょうにちにはかような仕打ちを受けて、げにおそろしく、まことに情けのうございます。私をいたぶるあなたの好色なお顔を拝しながら、筆で裸身に牡丹を描かれ、鞭打たれる私に仏の慈悲はございませぬ。いいえ、描いた牡丹から血をにじませ、朱縄が肌に食いこむたびに、被虐のよろこびが甘露となって私を満たし、人のみならず寺の猫にも獣の形相でにらまれて、畜生にも劣る罪を抱きながら、いよいよ熱が高ぶってまいりますのを如何とも抑えがたく、このまま打たれ憎まれ火を放たれて果てるも本望、焰の涯に観音菩薩が笑みましょうから、浄土へ赴くことは叶わずとも、地獄でふたたびあなたとまみえましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

揺籃忌 雨伽詩音 @rain_sion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ