ジン子のワルキューレの騎行が超マッチしてます!!
ドア一面が一瞬でゴキブリで埋め尽くされた、M探偵こと奥葉ジン子は、倒れたままの害虫駆除業社のカバンから、スリッパ片方を取り出し、臨戦態勢に臨んだ。
その時、ジン子のスマホが鳴った。
冴渡からのlineだ。
冴渡「駆除業者はどんな羞恥をしているのか教えろ」
ジン子はすぐに返信を打つ。
M探偵「それどころじゃないんです!ゴキブリが凄い数出てきてるんです!」
冴渡「さすが害虫業者のプレイ!」
と、謎の勘違いで返す。
羞恥しか興味ないのか?
ジン子はイラっとして、
M探偵「バカっ!!!!」
と、返す。
こうなったら自分で戦うしかない。ジン子はスリッパを放り投げ、スティック掃除機を構え、スイッチを入れる。
「みなさん! まとめてお相手よっ!」
ぶおぉぉぉ!!と、すごい勢いで吸われていくチャバネゴキブリたち。
カサカサ、カサカサ……と、生きたゴキブリの塊が動く音が、異常に気持ち悪く聞こえる。すぐに透明のゴミタンクがチャバネゴキブリでいっぱいになり、
ブーン……。
あっけなくすぐ止まる。
吸い込み口から難を逃れたゴキブリが再び出てくる。
「やだ……出て来る……!」
思わず掃除機を放り投げるジン子。
床に叩きつけられた掃除機が壊れ、一斉にチャバネゴキブリが四方八方に飛び散る。
スローモーションで飛び散るチャバネゴキブリ……。
BGMは、ワーグナー「ワルキューレの騎行」だ。
ジン子の身体におびただしい数のチャバネゴキブリが張り付く!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
半狂乱になったジン子はSM用の磔台を持ち上げ、窓に向かって投げつける。それほど解放されたいのだ。なんという力だろうか。人間の隠された力を目撃した気分になる。
窓をぶち破り、青空の都会の空にSM用のY型磔台が宙を舞う。
外の風を浴びたジン子の身体は急速に冷えて、寒いところが嫌いなゴキブリはジン子の身体の温かい場所を探して大移動を始める。
ジン子の身体にいたゴキブリは、ジン子の一番温かいジメっとした場所をすぐに探し当てた。
カサカサ……カサカサ……。
「やだ……やだ……やめて……いや……」
すべての羞恥の力が……。
オラのある一か所に集まる……。
ジン子の股間付近は、普通でも真黒な海苔が逆三角形型に張り付いているが、もはやゴキブリの密集というより、真っ黒いパンティを履いているようだった。
と、そのゴキブリとゴキブリの隙間から、黄金の光が見え隠れする。
「こんな辱め……羞恥じゃない……」
ぽつり、ぽつり、とゴキブリが落ちていく。落ちたゴキブリは苦しんで動かなくなる。
「いやぁ……う、うぉぉぉぉぉ!!!!」
おっさんのような唸り声を上げ、ジン子の陰毛が黄金に輝き、ジン子はスーパーサイヤジン子となった。
その瞬間、ジン子の脳裏にある映像が浮かび上がる。
━それは数日前。
公園をペロッと散歩しているジン子。
ペロッが道に落ちている小豆を欲しそうに鼻でクンクンしている。
「ダメよ。ペロッ。落ちてる小豆なんか拾っちゃ」
ペロッは寂しそうな顔で見上げる。
━さらにさらに別の日。
部屋の廊下にコロコロと転がる小豆が3つほどある。
それを楽しそうに転がして遊ぶペロッ。
「こら。どこからそんなもの持ってきたの?」
ペロッは嬉しそうに、
「ワン!」
と、吠える。
廊下に転がる小豆……。
小豆……?
卵鞘です。
…………。
「お……お前かっ!」
鬼の形相のジン子が、ペロッに怒鳴りつけた。
ペロッは、ビクッと驚いてジン子を見上げる。
「貴様……許さん……」
ペロッは明らかに自分の分が悪い事に気付いている様子だ。
キョロキョロして挙動不審になり、逃げ道を探しているが、ゴキブリだらけでどこにも行けない。
「くーん、くーん」
持ち前の愛嬌ある鳴き声で、飼い主の怒りを鎮めようとするペロッ。
「なぜダメだと言っている事をする?」
「くーん、くーん」
「答えろっ!」
ジン子の右手の握りこぶしが震える……。
「答えろ! ペロッ!」
その時、冴渡からlineが来る。
冴渡「そう言えば愛犬からの羞恥はどんな感じだ?」
冴渡は能天気だが、どこか勘の鋭いところがある。
眼だけでスマホを見るスーパーサイヤジン子。
冴渡「いいんだろ? すごく……」
怒りが頂点に達したジン子は、最後の決断の時を迎えた。
愛犬を仕留めてしまうのか?
それとも、自らの羞恥の為に生かすのか?
ジン子が放り投げたY型の磔台は、地面でバラバラに潰れていた。
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