第2章 棒比べ

棒比べ その1(黒人21センチの犯罪)

 その日は、朝からずっと雨が続いていた。


 点字ブロックの上に立つ老人は、盲目のようで右手に傘、左手に杖をついて雨のスクランブル交差点を歩き始めた。


 


 邪魔。


 


 誰かが、老人を突き飛ばし老人は杖を手放してしまう。


 うぅぅ……。


 老人が悲痛な声を上げ、動けないでいる。


 信号が、点滅から赤に変わる。


 


 その時、すっと若い女性が老人に杖を渡す。


 


 おじいちゃん、危ないから。


 


 女性は、老人の手を取り交差点を一緒に渡りきる。


 老人は心から女性に感謝に、お礼をしたいと申し出た。


 女性は断って行こうとするが、その老人は女性の手を離そうとはしなかった。


 


 離して……。


 


 老人の力は異常なほど強く、女性はほどなく大通りから入った路地裏まで一緒に歩いてきてしまう。


 


 やめてください。


 


 老人は杖で女性の足元にあるマンホールを、「コツン、コツン」と叩いた。


 


 突然、マンホールの蓋が下に開き、女性が深い穴に落ちた。


 きゃぁぁぁぁぁ。


 暗闇に消える女性を上から見つめる老人。


 マンホールの蓋は自動的に元に戻った。


 老人はニヤッと笑みを浮かべ、歩き出した。




「風は……どっちから吹いてる? どっちでもいいか」


老人は、頭全体を覆っていたマスクをはぎ取る。


老人の正体は、世紀の大犯罪者「黒人21センチ」だった。


悠々と歩き出す黒人21センチ。




「誰も知らない……知られちゃいけない……ヒヒ」


大きな声で言うから、時折人に変な目で見られる21センチ。




「悪の味っつうかな……おいしいっつうかな……」


路上に落ちている老人のマスク。


「やめろって言われても、だって。おいしいんだもん……ヒヒ」



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