暴走!! マジックミラー号!

 マジックミラー号(通称MM号)。


 その名のごとく、マジックミラーで出来たAV撮影用のトラックである。


 羞恥の原点とでもいうトラックである。


 


 そのMM号が猛スピードで国道を走っていた。


 右へ左へ走る車を追い抜きながら。ついには、赤信号に突っ込んだ!


 驚いてハンドルを切った乗用車が、MM号の後部にぶつかる。


 なおも走り続けるMM号。


 


 人々が行き交うスクランブル交差点に突っ込んでいく。逃げ惑う人々。


 なんとか誰も轢かれずに済んだが、マジックミラー号はそのまま公衆電話をなぎ倒し、さらに国道を猛スピードで走って行った。


 人々は恐れおののき、トラックの消えた方向を見ていた。


「警察! 警察を呼んで!」


 子供を抱えた女性が叫んでいた。


 


 いったい、誰がこんな危険な運転を……何のために……


 


 大空を舞う警視庁のヘリコプター。機体には、『6・9』とある。


 ヘリコプターに乗る冴渡刑事と、部下の明智。


 冴渡がヘリから体を出し、下の国道を見ていると、猛スピードで走るMM号を発見する。


「発見! 明智、本部に連絡だ!」


「はい。こちら、6・9(ロクキュウ)本部どうぞ」


「おい、間違えるな、シックスナインだ。このヘリの愛称は」


「そんなこと今どうでもいいでしょ?」


「相変わらず真面目なやつだ」


 明智、パラシュートを背負いながら、


「ホシを追います」


「M探偵を待て。あいつなら、事件を解決できる」


 明智、鼻で笑う。


「自分で解決しようって気が無いんですか?」


 冴渡、押し黙り拳を作る。


 明智は、小さく敬礼して、


「俺は自分で解決したいんで」


 


 明智がマジックミラーに向けて、ヘリからダイブする!


 


 落ちていく明智を見ながら、冴渡は、


「捜査なんて羞恥なんだよ……」


 という全く意味不明な独り言を放った。


 


 暴走するMM号の荷台には、当然ながらAV撮影を行うマジックミラーで出来たスタジオがある。


 その中に、全裸のM探偵こと、奥葉ジン子がいた。


 ジン子は、自分の羞恥心の成長のため、自らAV志願し今日たまたまこのMM号で撮影に挑んでいたのだ。


 道路に止めたMM号の中で、マッサージを受けてみませんか?という設定で、男優からオイルマッサージを受け、さぁいよいよ男優の手がジン子の紙ブラジャーをはずし、大きな乳房があらわになったところで、突然、MM号が大きく揺れた。


「動くな! 動くと殺すぞ!」


 と、男の声がした。


 ジン子にしてみたら、いよいよマジックミラー越しに羞恥が始まると思っていた矢先だったため、激しい怒りと羞恥への情熱が入り混じった。


「今はまだダメ! あとにして!」


 ジン子は叫んだが、迷彩服に身を包んだ男が機関銃を手にジン子の前に立つ。


「はぁ? なんだこの茶番」


 男優のシゲが、全裸で立ち上がり


「女優さんに手を出すな!」


「うるさい!」


 機関銃の銃弾を浴びるシゲ。勃起は全開のままの死だった。まさに、男優の中の男優。いや、戦士だった。


 


「キャーッ!!」


 ジン子は悲鳴を上げた。予想以上に大きなペニスだったからだ。


 


 迷彩服の男は語り出した。


「おれたちはエロテロリストだ。このふざけた茶番AVに終止符を打つ為に結成した。本物のAVを作るために」


 トラックのハンドルを握るのは、両腕がバイブになっている青年ディルズ(※第4話・5話に登場)だった。


「今、運転しているのはディルズという、手がバイブになっている男だ。だからあっぶねぇ運転しやがる! ヒヒヒッ」


 笑い出す迷彩の男。


「ディルズ! あのディルズがいるの?」


 バイブの手で楽しそうに運動するディルズ。めちゃくちゃ危ない笑。


「おっと、やつは今運転に夢中だ。自分の腕でも運転できるんだって嬉しそうでな。あいつと俺で、本物のAVを作るんだ。あれはスゲー代物だよ。グリグリ動くん。ヒヒヒ」不気味に笑う男。


「あの伯爵はどうしたの?」


 


 大きな湖に浮かぶ古城。(第4・5話に登場)


 無残な佐渡伯爵さどはくしゃくの銃殺死体が転がっている。


 


「人殺し!」


 ジン子は、佐渡伯爵から受けそこねた責めを心から後悔しながら言った。


「あなたの目的は何なの?」


「いい事を教えてやろう。まずは、この近代AVの象徴、MM号で世間に大迷惑をかけたあと、どこかの海に消えて貰うつもりだ。その時、あんたも一緒に海の中だ。ヒヒヒ」


「あなたいったいだれ?」


「おれか?」


 迷彩服の男はサングラスを取ると、バットマンに出てくるジョーカーのようなメイクを顔にしている。


「おれは、エロの中のエロ。本物のエロテロリスト。いや、エロリストか。ヒヒヒ。名前なんかねぇ。あるとしたら、みんなこう言う」


 男は、長い舌をベロッと出し、唇を舐める。


「……ジョーカー」


「そのままやんけ!」


 M探偵こと奥葉ジン子の突っ込みは、真性のMだけに中途半端に静けさを生んだ。


 


 その時だった!


 


「ドーン!」


 


 MM号の天井に、パラシュートをつけた明知が衝突した!


「何!」


 焦るジョーカー。機関銃を天井に向ける。


 しかし、天井のマジックミラーには、明智が気を失って動かない事がすぐ分かる。


 唖然とする、ジン子とジョーカー。


 明智のパラシュートが電柱に引っかかり、明智の死体はMM号から落下し路上に転がってしまう。


 


 一方、ヘリを降りた冴渡は、ある工場地帯を歩いていた。


 この周辺では、トラックの違法改造などを手がけていると情報があったからだ。


「……待ってろよ……M探偵」


 ヘリから落下した部下の明智の事など微塵も心配しない冴渡だった。


 


 MM号は、断崖絶壁の山道を猛スピードで走っている。


「いよいよショーの始まりだ」


 ジョーカーは、マジックミラー越しに見える海岸を見つめていた。


「何をしようって言うの?」


「あの海水浴客を恐怖の海に落とし入れるんだ。ヒヒヒ。マジックミラーといえば、ナンパ。ナンパと言えばマジックミラーだ」


「どこまでもマジックミラーを毛嫌いするのね」


「ああそうとも。おれが生まれたのはどこだか知ってるか?」


「え?」


「そうだ。忘れもしない。俺のかあちゃんは、このマジックミラーでナンパされた。ある海岸で。水着特集だったらしい……。その時、テンションの上がった男優が中田氏したそうだ。もちろん、かあちゃんは怒った。そのVはお蔵入りになったそうだが……かあちゃんはお腹に子を宿していた。この俺だ。だから、俺以上この車を憎んでいる者はいない。そう断言できる。おれは……マジックミラーの申し子だ」


「そんな……」


 絶句するジン子。


「さぁ、着いたぞ。ディルズ! 車を止めろ!」


「ハイ!」


「お前はここから一人になる。羞恥が好きなのか? 存分に浜辺の男たちに見て貰うがいいさ。言っとくが、車は勝手に海の中に入っていくように仕掛けておく」


「待って!」


 ジョーカー、マジックミラーを降りかけて、振り返る。


「じゃぁな。子猫ちゃんよ」


「わたしはM探偵。いつかあなたを追い詰める」


「ヒヒヒ。笑わせるな」


「そして、こんな羞恥じゃダメなの。結局マジックミラーは、外から見えないのよ」


「だから視聴者に受けたんだろ! 見えたら犯罪だ!」


 ジョーカーがMM号を去っていく。


 すると、車はゆっくり海岸に向かって動き出す。


 このまま行くと、海岸を突っ切り海に沈む。どんどんスピードを増すMM号。


 時速40キロ……60キロ。


「やだ……ダメ……」




 楽しんでいる浜辺の客がいっせいに悲鳴を上げ逃げ出す。


 向こうからMM号が猛スピードで走ってくるではないか!


 


 MM号を降りたジョーカーとディルズが歩いていると、正面からトラックが猛スピードでやって来る。


 ジョーカーはその荷台を見て驚く。


 それは、マジックミラーならぬ、完全ガラス張りだった!


「あ、あれは……!」


 その瞬間、ジョーカーはトラックに衝突!


 吹き飛ばされ、空中を舞うジョーカー。


 


「上には上がいるんだ……」


 


 そんなふうに思って、死んで行くジョーカーだった。


 


 その様子を唖然と見るディルズだった。


 


 トラックを運転しているのは冴渡刑事だった。


「行けぇ! ガラス張り水槽号!」


 目の前に暴走するMM号を発見する冴渡。


 冴渡が、ハンドルにあるボタンを押す。


 クレーンが稼動し、フックが登場する。


 MM号に近づく冴渡。もう一度ボタンを押し、フックをMM号の後ろにかける。


「よしっ! 止めるぞ!」


 冴渡、渾身の急ブレーキ!


 


 ガガーッ!


 


 砂浜にめり込むが、止まらないMM号。


 


「南無三!」


 


 ハンドブレーキを目いっぱい引く冴渡。


 MM号の動きが遅くなり、砂浜にめりこんでいく。


 


 そのすきにトラックから飛び降りるジン子。


 紙パンツ1枚のほぼ全裸だ。


 


「M探偵!」


 ジン子、声のほうを見る。


「冴渡刑事!」


 


 冴渡、トラックから半身を出し、


「こっちに来い! めいっぱい羞恥してやる!」


「はい!」


 ジン子が荷台に入ると、そこは、まるで外!


 そうガラス張りだ!


 さらに、Y型のSM用はりつけ台と、ピンクの回転ベッドが用意されている。


 


「すごい……さすが冴渡刑事」


 そこに冴渡が、ギンギンの状態で入って来る。


「これからだ本番だ」


 


 海水浴客の面前で紙パンツを破き取られ、全裸にされたジン子は、Y型の磔台に縛られ目隠しをされた。


 小さな刷毛で乳首の先端を触れるか触れないか程度で愛撫する冴渡刑事。


「どうだM探偵。感じるか?」


「すごい……」


「みんな見てるぞ。興味津々だ」


「やだ……」


「さて……いったい誰が犯人だ?」


「……ダメ。イヤ。感じる……感じるわ……」


「そいつはどこに行った?」


「降りた……」


「そいつの名前は!」


 冴渡が刷毛をジン子の股間にスライドさせていく。






「……バ……バットマン……」


 


 肝心なところで名前を間違うM探偵であった。



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