真相

      *


「サングリア殿下は彼の手紙を勝手に読み、彼のスノー・ジャスミン王女への気持ちを知っていたようです。今日のお茶会で彼女と再会することも。これまでのグリュー王子の『影では女たらし』という噂は、彼の仕業のようでした。グリュー王子と揃いの服装に着替えては、若い女性を口説いていたようです」


 凛とした声が告げた。


「大方、おばちゃんたちに囲まれて都合良く甘えていたくせに、たまには若い女の子を口説いてみたくなったんでしょう。そんな時は顔もそっくりなグリューのフリをしていた、と。しょうもないわね!」


 大雑把な口調になったシャルドネ女王は、呆れ果てた。


「グリュー王子は真面目な好青年です、陛下。教養もありますし、国王陛下の近くで国政を学ばせてみてはいかがでしょう? 愛する女性のことも誠実に愛し続けることとお見受けしました。お相手のスノー・ジャスミン王女も淑やかではありますが、彼女はお父様の貿易のお仕事を手伝われているそうです」


「結構だわ」


 満足そうな声で、シャルドネは羽付きの扇子で仰いだ。


「第一王子は一見華やかで人間の出来ているご様子でしたが、女で人生を棒に振る恐れもあります。彼を後継者にするには、よほどしっかりした姫君を娶らなくてはならないかと」


「そのようね。まったく、まだまだ甘ちゃんのくせに身の程知らずにもほどがあるわ。あなたのような年上の美女を口説くなんて」


「白牡丹殿下など、いかがでしょう?」


「そうねぇ、彼女は気が強そうだけど、あのくらいの方があの子にはいいかもしれないわ。それで、第二王子キールはどうなの?」


「キール王子には借金があります」


「なんですって!?」


 シャルドネは扇子を置き、怒ったように目を剥いて話の続きに聞き入った。


「彼は密かに東インド会社と独自のパイプを持っていました。この度、内密に輸入した調度品をわたくしが鑑定いたしましたら、真っ赤な偽物でしたので慌てていらっしゃいました」


「前からあの子は考えが甘いと思っていたけど、なんなのよ、まったく、うちの息子たちは第四王子以外はロクでもないわね! 今まで甘やかし過ぎたのだわ! 王国のためにも鍛え直さなくては! 厳しい環境で育った葡萄ほど甘く美味しいワインになるように」


「お茶も同じですわ」


「ご報告ありがとう、オリエンタル・ビューティー」


「シャルドネ女王陛下。是非、今後ともどうぞ我が国をよろしくお願いいたしますわ」


「もちろんよ。信頼しているわ、あなたのことも」


「もったいないお言葉ですわ」


 白ワイン王とグレイ伯爵が呑気にチェスを楽しむ間、別室では、満足そうに笑うシャルドネ女王と茶を飲む東方美人が、艶やかな笑顔を浮かべていた。

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ワイン王子 かがみ透 @kagami-toru

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