ホットワイン

「なんだ。見つかっちゃったか」


 肩をすくめ、笑う。


「ジャスミンに何をした?」


「別に。いつもお前のフリして女の子としてることだよ」


 本物のグリュー王子が、サングリア王子の胸元を掴み上げる。


「僕を殴るのか?」

「やめて!」


 サングリアとスノー・ジャスミンの声は同時だった。


 挑発的に笑う兄弟の頬を今にも殴りそうな勢いで拳を振り上げるが、グリューは留まった。

 サングリアを突き放し、尻餅をついた彼を、冷ややかに見下ろす。


「もう二度と、僕だと偽ってこんな真似をするな」


 立ち上がったサングリアは、ニヤニヤと笑いながら駆けていった。


「大丈夫だったか、ジャスミン」


 双子の兄を睨みつけていた表情とは打って変わり、グリューは心配そうにスノー・ジャスミンを見つめ、怪我をしていないか、肌が傷ついていないか、ドレスが傷んでいないか見回した。


「わたしは大丈夫。でも、サングリア王子に……」


 遣る瀬ない想いに唇をかみしめ、黒い瞳が潤んでいく。


「ごめん。僕がもっと早くそばにいれば良かった。周りの目なんか気にせずに、勇気を出してきみに交際を……いや、結婚を申し込んでいれば」


 ハッとしたように大きな目でスノー・ジャスミンがグリュー王子を見上げてから、顔を伏せた。


「ありがとう。嬉しいけど、わたしは汚れてしまったわ。もう、あなたには相応しくない……」


「汚れてなんかいない!」


 強く打ち消す彼の声に、王女は再び驚いたように顔を上げた。


「きみは前と変わらない。綺麗な心のままだ」


 じっと見据える偽りのない青い瞳を、王女は見つめた。


「僕の気持ちは変わらない。ジャスミン、きみだけだ。きみだけを愛してる。これからも、ずっと……」


 王女の潤んだ瞳が閉じられると、涙がこぼれた。


 唇が、静かに重ねられる。


 葡萄のように甘く、冷えた心と身体があたたまるほどの熱い口づけが交される。

 伸ばされたか弱い腕がブロンドの襟元に添えられると、王女の髪にあしらわれたジャスミンの花がほんのりと香った。


「あたたかいわ……。あなたは、なんてあたたかくて、甘いの? まるでデザートワインみたい」


「きみの唇こそ。花のようになめらかで香り高い。口づけるたびに愛おしくなる」


 抱き合う二人の後ろ姿を物陰から見ていた白いドレスの女は、口元に笑みを浮かべ、去っていった。

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