エピローグ


 カンコンカン、ごりごりごり。


 もう聞き慣れた音だ。リビングでつけっぱなしのテレビが、また連続殺人のニュースを流している。若い女性アナウンサーが、事件についてのコメントを述べている。

『インターネットでは、複数の犯人による全く別個の連続殺人が、全く同時に起こっているのではないか、なんて話もありますよね』

 でっぷり太った男が『そんなことありえますかねえ』と苦笑する。


「あるかもな」

 俺はひとりごちた。

 カンコンカン、ごりごりごり。やっぱりどう考えてもこの音だ。右腕を胴体から切り離しながら、俺は確信する。仏像を掘る音なんかじゃない。あれは――これと同じ。人間を解体する音だ。

 あっちの音がこっちに聞こえているということは、こっちの音もあっちに聞こえているだろう。カンコンカン、ごりごりごり。



 さて。彼女からのお誘いは、どうしたものか。乗るべきか、乗らざるべきか。俺も彼女も、思考はよく似ている。二人とも最悪なパターンの社会不適合者だし、それでも社会の追及を今の今まで逃れられるほど頭が切れるし、二人とも東京が好きだ。彼女は西日本から、俺は東日本から、人を殺しながら住居を点々とし、はるか東京を目指すほどには。


 ああ、ほんとに最悪だ。あんなに可愛いのに、殺人鬼だなんて。殺すのに手間取りそうだ。このまま無視して引っ越してしまってもいいが……。

『人生は一期一会。人との関わりを大切にしましょう』

 いつのまにかニュースが終わったのか、人権問題を説くCMが良いことを言った。

「人生は一期一会。確かに、そうだよな」

 俺は心を決め、思考により中断してしまっていた作業を再開した。


 カンコンカン、ごりごりごり。



【完】

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カンコンカン、ごりごりごり 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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