• 異世界ファンタジー
  • 現代ドラマ

ミトラ解説【泥のミトラ】※絵あり


「不可説のミトラ」【https://kakuyomu.jp/works/1177354054893260838
第一章の終盤に登場するミトラです。登場し、そして燃やされる。(損な役回りを押し付けてしまって申し訳ない……)


 主な生息地域はイグ・ムヮの楔の山ですが、彼らの亜種のような存在は、割とどこにでも棲んでいます。

 彼らは定まった形を持たない(不定形)、極めて原始的な形態のミトラです。
 普段は泥として地表や地面内部に存在し、生き物が死んだ時に現れてその死骸を取り込みます。そして、取り込んだ死骸の一部を模倣し、自らの姿とします。例えば虫の翅や脚、鹿の角や蹄、人間の眼球、毛髪、爪などです。

 模倣しているだけで実用的な用途は何も考えられていないので、体の下に目があったり(地面しか見えないのに!)、虫の翅の表面に長い毛髪が生えていたりします。模倣さえ出来れば、彼らは満足なのでしょう。

 個の意識が非常に薄く、寄り集まって大きなひとつの個体になることも出来るし、小さく分かれてそれぞれ独立した個体になることも出来ます。
 集まったり分かれたりすることに、何か統制の取れた命令系統があるわけではなく、何となくでやっているようです。

 彼らの本質は泥ですので、生命を維持するために摂取しなければならないものは水と土です。つまり彼らが生き物の死骸を取り込むのは、食事ではなく、本当にただ模倣するためなのです。
 従って彼らは本来攻撃性の低いミトラで、生きているものを積極的に捉えて取り込むことはほとんどありません。


 ところで、彼らが模倣するのは、取り込んだものの姿形だけではありません。彼ら自身は気付いていないのですが、実は取り込んだものの性質的な情報も、わずかながら吸収されます。
 鹿を取り込めば、何となく草を食みたくなったり。人間を取り込めば、何となく人里が恋しくなったり。

 吸収される性質はごくわずかであるため、時間経過と共に霧散し、彼ら自身の本質が大きく変質することはありません。
 逆に言えば、同一の性質を長期にわたって大量に吸収した場合、その性質は彼らの内部に蓄積し、彼らの在り方に変化を与えます。

 楔の山に住む生き物は、ミトラであれミトラでないものであれ、みな楔を畏れています。人間も同様に、楔を神と崇め奉っています。トカゲも、虫も、植物でさえも。

 多くの生き物たちが持つ「楔を畏れ敬う」性質は、泥のミトラたちの中に大いに蓄積されていることでしょう。
 それゆえに、泥のミトラはどんな生き物よりも楔を畏れ敬い、大山風の楔の眷属たり得ているのです。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する