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この物語には誰も立ち入ることのできない、絶対不可侵の秩序が築かれている。勇者は悪で、主人公は善。絶対悪たる勇者に主人公は必然的な絶望を与えられ、そして物語を読んでいる読者に安寧を齎すように、圧倒的な力を得る。

主人公は余り有る力故に苦悩し、罪悪感に苛まれ、凄惨な光景から目を背けようとするが、その一方で現代文明の遊具で遊んでいたり、ヒロインと戯れている姿を見ると、読者はその人間臭さに「こいつは叩き潰してやりたい」とか「自分もこんな感じになるだろうな」と、個人的な感情を剥き出しにして彼の物語と対峙するだろう。

ネットスラングだとか、何処かで見たことがあるネタだとか、猟奇的な表現に辟易して読むのをやめるのもまた一興。だが最後まで読み終えた時、作者が再三主張している叙述トリックというものは、読者に文章中に仕掛けがあると錯覚させ、深みを持たせるためのハッタリであるということを、一つの知識として認識できるだろう。

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