第6話 僕と準決勝進出選手

 ミッドナイト競輪が終わるのは23時半頃。

 7レースまで観ておこうと思い、僕は倒れそうになるのを我慢して起きていた。



 ***




 橋本さんの軽快な実況放送が流れる中、6レースで同県の須田先輩が4号車で走るのを観ていた。

 並びは147/26/35となり、先輩は絶好の位置を取っていた。


 そのまま準決勝に出てくれれば、須田先輩の前を回らせてもらえば、とも思ったが、番組表を見ると最終7レースの1号車に同地区の渋川先輩も出ている。僕は、どちらが後ろに付いてくれた方が得なのか、考えなければならないと思った。


 ぼんやりと考え事をしているうちに、400バンクを4周しかしないレースは打鐘を迎えており、白い勝負服の1号車が須田先輩を連れて後ろから一気にカマしてホームストレッチ付近で前に出て、3列並びの接戦になる。


 が、何故か須田先輩はバックストレッチ付近で1の番手捲りを敢行、入着順は4357126というひどい結果になった。もしこれがミッドナイト開催でなければ大ブーイング間違いなしな展開だということは、競輪選手になりたての僕にだって簡単にわかることだ。


 なら、僕の後ろを須田先輩が回ることになったとき、僕は使うだけ使われて見捨てられる可能性が高いのではないだろうか? ならば7レースで渋川先輩が準決勝進出を決めてくれた方が僕の2連勝への道は開けるのではないか?


 そして最終7レース、1号車の渋谷先輩は打鐘で先行し、渋谷先輩の後ろに付けていた黒い勝負服の2号車の選手が後ろを見事にさばいて、車券を買ったお客様には貢献できない可能性のある3着入線を果たした。


 明日の準決勝戦――僕の後ろは渋川先輩、その後ろを須田先輩、という並びで走ることになった。僕の二度目の二連勝となるのはほぼ間違いないな、と僕は安心して眠った。

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アスリートの葛藤 天照てんてる @aficion

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