第5話 僕とニコニコ生放送

 小松島競輪場でのモーニング開催を終えて、中4日で小倉競輪場のミッドナイト開催への斡旋があったので、僕は九州観光を兼ねてすぐに小倉へと向かった。

 自宅にいたくないという気持ちが大きかったのは、事実だ。

 だが、せっかく全国各地でのだ。多少お金がかかっても、楽しんだ方が得じゃないか。


 中洲の街で食べ歩き、温泉旅館に泊まり、僕は完全にだらけていた。だらけている場合ではないことはわかっていたが、小松島での3日目のことを思い出すとやる気が出なかったのだ。

 競輪選手になれたのはいいが、僕なんてどうせ――と僕は早くも腐っていた。




 ***




 前検日。北九州メディアドームへと向かう僕の足取りは、やはり重かった。

 何も考えられない。

 早く4日間が過ぎてしまえばいいのに。


 前検日インタビューでは、やる気があるふりだけはしておいた。




 ***




 初日の僕は、3レースの1号車。

 小倉ミッドナイトでは、本命選手は1号車か7号車になることが多くなっている。

 てっきり1レース4号車あたりだろうと思っていた僕は、番組表を見て緊張してしまった。




 ***




 実況アナウンサーの橋本さんが、僕からで車券を買っていた。

 橋本さんに申し訳ない気分になった。


 白い勝負服を着て、観客の居ないドームの中、敢闘門から発走機へと向かう。

 罵声を浴びなくて済むのはある意味気楽かもしれないな、と僕は思った。




 ***




 ドームで走るのは初めてで、なんとなく走りやすく感じた。僕の後ろには同県の先輩が付いていた。

 不思議なもので、走り始めてしまうと真剣に『勝ちたい』と思うようになっていた。


 並びは17/246/35となって3周目に突入。また突っ張り先行か? と悩んでいるところに、後ろから赤い勝負服が近づいてくるのが見えた。3号車なら2車ラインだし、前に行かせてしまおうと思い、僕は一旦下げた。


 35/17/246の並びで打鐘。僕はとりあえず前を切り、少しペースを落とし気味に走った。


 4コーナーを過ぎたあたりで、僕は勢いよく踏んだ。ホームストレッチを全速で駆け抜けた。後ろを見ると、先輩のオレンジ色の勝負服。安心して僕はそのままひたすら踏んだ。何も考えずに踏んだ。――そして、1着入線を果たした。


 先輩は少し口が開いてしまったようで、1-3-7での決着だった。確か橋本さんは1-3-7を買っていた。


 スタジオへと向かって橋本さんにインタビューを受ける前に、僕は言った。


「橋本さん、車券的中おめでとうございます!」


 橋本さんは笑ってくれた。そして橋本さんと武田さんが見ているニコニコ生放送のコメント欄での的中報告に僕はなんだか照れくさくなってしまったが、はっきりとこう言った。


「明日もここに来られるように頑張ります! 僕アタマの車券を買ってください!」

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