第10話心渡りの探偵、死神をあざむく②

こんなところにいて本当に自分は大丈夫なのかと泉は一抹の不安を覚えていた。


場所は大型スーパーの食料品コーナーであった。

ゴシックロリータの装いの金髪美少女が虚ろな瞳でカートを押していた。

その上下にプラスチックの買い物かごが乗せられている。

お釜帽に羽織袴姿の探偵がそこに次々と食料品を入れていく。

丸眼鏡の奥の瞳は実に楽しげであった。

「理由はどうあれ、買い物は楽しいのですよ」

あははっと乾いた笑いをしながらQ作は言った。


それはそれは盛大な買い物だった。

フライドチキンにフライドポテト。コロッケ、メンチカツ。ローストビーフ、タコとエビのマリネ、シーフードサラダ。

ウイスキーにスコッチ、ブランデー。ワインにビール、泡盛、焼酎など酒類。

煙草はしんせいにわかば、みね。

買い物かごいっぱいのそれらの代金は泉がもつことになった。

「これはまあ、必要経費ですよ。これで助かるならお安いものだとおもいますよ」

へらへらと笑うQ作を見て、泉は若干のいらだちと不安を覚えずにはいられなかった。


ふたたび、彼はあの風が気持ちいい草原に立っていてた。

前回とちがうのは丸眼鏡の探偵夢野Q作とその助手であるモヨ子がいることであった。

彼らの両手にはスーパーで買った大量の食料品や酒類が持たれていた。

その一つを泉は持たされた。

「さてさて、それでは道案内お願いしますよ」

と夢野Q作は言った。

どうにかこうにか先日の記憶をたどりっていくと、見覚えのある風景が見えた。


三人の男女がテーブルを囲んで座っている。


「それでは田中さん、いきましょうか。一つだけ気をつけてほしいのですが、何があってもしゃべってはいけませんよ。あなたとモヨ子はだまって彼らに食べ物や酒、煙草を給仕するのです。彼らにきずかれないようにね」

Q作はへらへらとと笑いながら、言った。

「わ、わかったよ」

「モヨ子、わかった‼️」

二人はそれぞれに答えた。


しばらく歩いているとやはりあの三人がカードゲームにいそしんでいる。

招待客のように自然な動作でQ作は空いている椅子に腰かけた。

「いやいや、皆さんお揃いで何よりです。どうです、私も混ぜてはくれませんかね」

とQ作は言った。

ちらりと獏はQ作の端正な顔をみる。

ジャックは我かんせずとばかりにスキットルから酒をぐびぐびと白い喉に流し込んでいる。

「いいよ、いいよ。ゲームは大勢でやるのが一番だからね」

エルザはその色っぽい顔に笑顔を浮かべ、答えた。


それから、四人は時間を忘れたかのようにポーカーやブラックジャックなどのトランプをして遊んだ。やはり、獏は強い。

まったく表情がよめない。

Q作も負けず劣らず、なかなかのものであった。

へらへらとといつも笑いを浮かべ、それ以外の表情を出さない。

ゲームの最中、彼らはモヨ子と泉が差し出す料理や酒を貪るように食い、飲んだ。

獏は料理には手をださず、差し出された煙草を受けとるとうまそうに紫煙をくやらせた。

盛大に飲み食い、吸いをしているうちに時間はあっという間にすぎ、夕暮れになろうとしていた。


泉とモヨ子はただただだまって彼らに給仕していた。


一段落するとどこからか取り出したおしぼりで手をふくとエルザはトランプをテーブルにおいた。

「いやいや、今日も楽しかったわね」

エルザは言った。


そこでやっとエルザは泉とモヨ子の存在に気ずいた。


「してやられたな」

豪快に笑うとジャックは泉の体を抱き上げ、その豊満な胸に彼の顔を押し当てた。


「ああ、賄賂をもらってしまったな」

獏は周囲を見渡し、ちらかった食べかすや空いた酒瓶、灰皿にたまったすいがらを視界にとめた。


「あーあ、しかたないね。で、あんた何が望みだい」

とエルザはきいた。


「あ、あの。僕の寿命が十九歳になっています。それをどうかしてくれませんか」

頭をさげ、泉は頼み込む。


「わかったわよ。探偵、これはあんたの策略ね。今回だけはその策にのってあげる。でもね、一度だけだからね」

ふっくらとした頬を膨らませながら、エルザは言った。

ホットパンツからスマートフォンを取り出すと、画面をいじりだした。


田中泉享年十九歳に一文字つけたす。

田中泉享年九十九歳となった。


目が覚めるとそこはQ作の洋館にある一室だった。

モヨ子が瞳孔のひらいた瞳で彼の顔をのぞきこんでいる。

柱時計が十二時をさし、金の音が部屋中に響いた。

どうやら生き延びることができてようだ。

「うまくいったようですね。せっかくのびた寿命です。よく考えてつかってくださいよ」

Q作は人差し指を泉の唇にあて、そう言った。

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夢食み 夢と現実の境 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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