エピローグ

 図書館から出て、二人は近くの川沿いにある遊歩道を歩く。


「そういえば、本当のところ、どうやって今日、私がここに来ることが分かったのですか?」

 アキが心底不思議そうに聞く。

 

「簡単だ。有料アイテムはヘッドセットのローカルメモリに保存されてた。そこにアキの杖が残されてたんだ。刀に銘が打ってあって、それが、アキのアカウントIDだったみたいだな」

「あぁ、所有者固定用のIDですか」

「調べたら、似たようなIDでソフト開発者をみつけた」

「……なるほど」

 

「アキ、以前、世界が二進法でできていることのシミュレーションのアプリについて語ってただろ? だから、そのソフト開発者がアキだろうと推測したんだ。今日この日にここに来るってSNSに書いてあったぞ。もっとも会うまで本人かどうか確証は得られなかったけどな」

 ヨシミーはこれまでにないくらい楽しそうに話した。

「……ヨシミー」

「なに?」

 彼女は頭を少し傾げて聞く。

 

 アキは、今まで聞いたことのないほど、すらすらと話をする、ヨシミーに胸の高まりが抑えられない。

 再び会えることがないと諦めかけていた中での再会に、心臓がはじけそうな程ドキドキするの感じた。


 アキはおもわず、その華奢な体をぎゅっと抱きしめた。



「来てくれて有り難う。もう二度と離さない」

 思わずアキがヨシミーの耳元に囁いた。

 しばらくの間が開き、ヨシミーが呟く。

「……ん? それって、プロポーズ?」

 アキは思わず「そうだ」と答えた。


 ヨシミーは静かに身体を離し、アキの目を見つめる。

「いいよ」

 ヨシミーは少しはにかみながら、「自分も離れたくないからな」と消え入りそうな声で答えながら、アキの胸に顔を埋めるのであった。



 しばらく抱き合った後、どちらからともなく身体を離した。

 照れながらもお互いを見つめる。


「でも、ずいぶん気が早いな」

「予約を入れておかないと、他の人に取られてからじゃ遅いですから」

 ヨシミーはフッと笑うと視線を外した。

「……アキ以外ありえないから」

 と彼女は小さく呟いた。


 ふとアキはヨシミーの格好に気付く。

「え、って、その格好は!?」

「今頃気づくアキ」

 ゴールドイエローのパイピングを施した黒いボックスプリーツのミニスカートに、金のボレロクリップで留めたお揃いのケープ。足元も揃えたのか、似たようなデザインの黒いミドルブーツにニーハイソックス。

 ケープの下からフリルのついたブラウスの袖口がチラリと見えている。

「か、可愛い……!」


 これは、アキがフィルディアーナで絶賛していたあのファッションを近代的にアレンジしたような服装なのだ。

 もしかしてヨシミーはあの時の事を覚えていて……とアキはニヤニヤするのが抑えられない。

「ふん、たまにはな」

(アキに見せたかったから、なんて言えないな……)

 目をそらし、ちょっと顔を赤くして呟くヨシミーであった。



「ハンナはどうしてるかな?」

「ジェイと上手くやっているんじゃないでしょうか。あの二人はお似合いでした」

「セレは元気だろうか?」

「あのセレです、きっと元気ですよ」

「そうだな。いつかまたきっと会える気がするな」


 青い糸を感じる。

 ハンナには、きっといつかまた会える。

 二人は目を見合わせた後、頷いた。


 遊歩道をゆっくり歩く。

 青空を見上げ、いつかまた三人で会えることを願いつつ、二人は手を硬くつないで歩いて行くのだった。


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ハンナの魔法陣修行〜魔法陣暴走少女に振り回されて大変なので彼女の謎を解明します 譜田 明人 @ProgVanc

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