第49話 再会

 桜の花びらの舞う青空の下、古めかしい図書館に長身の人影が入っていった。

 

 迷路のように幾つもの部屋が連なり、二階まで吹き抜けの広大な部屋には、その天井まで届くかというような高い書棚が整然と並ぶ。


 そんな中を、その人物は軽快な足取りで歩きつづけた。

 

 やがて、とある区画へと続く通路で立ち止まった。

 

「紙の本の匂いはいつも歴史を感じさせるな。やっぱりこの図書館がモデルか」

 男は呟いた。

 

 ある本棚の前で佇む。 

「ふ、なるほど、現実だと古い芸術書のコーナーだったんだな」

 そう言いながら、男はおもむろに目についた本を手に取る。

 すると、背後から声がした。


「その本、譲ってくれないか?」


 男は驚いて振り返る。

 

 悪戯っ子いたずらっこのような笑顔を浮かべ、緊張した面持ちで、その少女はそこに佇んでいた。

「ヨシミー」

「アキ」

 彼女はそう言うと、恥ずかしそうに微笑んでアキの目を真っ直ぐに見た。少し目が潤んでいるのが遠目でも分かる。


 アキは、吸い寄せられるようにヨシミーにゆっくりと近づき、包み込むようにして無言で彼女を抱きしめた。

 ヨシミーも同じように、確かにそこにある存在を確かめるかのように、しっかりと腕を彼の背中に回す。

 

 しばらくして、二人は身体を離した。

「どうして、ここが?」

「秘密」

「……そうか。会いたかった」

「私も」

 二人がしばらく見つめ合ったあと、ヨシミーがアキの胸に頬を付け、ギュッとしがみつく。

「アキのバカ。連絡手段を用意しとかないなんて」

「すみませんでした。まさかいきなり強制退会されるとは思ってなかったのです」

「やっぱり詰めが甘い」

「ははは。ごめん」アキはそう言うと、彼女の頭を撫でた。

「ふん。許す」

 ヨシミーは少し頬をふくらませて、上目遣いで見上げた。

 アキは彼女のその言葉と表情に胸がキュッとなり、再び彼女を抱きしめる。

 

 しばしの沈黙の後、二人は身体を離した。

 

 そしてアキが彼女の目を見て、ニヤリとして呟く。

「本ですが、譲ってもいいが条件があります」

「条件?」

「ああ。本の代わりに君を――」

「……」

 ヨシミーは一瞬目を泳がせつつも、アキの目を見つめ、はにかみながら目を瞑って、背伸びをした。

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