ED

祖母の部屋にも赤い薔薇が飾ってある。

祖母と何気なく会話を始められるほどにサチコは人生の不在を経験することもなく実世界に戻ってきた。

あれは全て夢の世界の話ではなかったのだろうか。今じゃそう感じられる。

しかし現実に内海キョウコは帰ってくることはない。そして清水先生も…。

「しかしお前、ペンダントをなくすなんて飛んだヘマをするもんだ」

「もう、いいのよ」

「いいっていったって」

「それよりおばあちゃん。私が夢ができたのよ。将来海外に行くわ。そのためにいっぱい勉強しようと思うのよ。だから頑張るの」

「頑張りなさい」

サチコは老人ホームを飛び出した。

外はまだ赤い薔薇に覆われた世界である。

サチコは赤い薔薇を一つ摘み食べた。

不味い。しかしこれこそが明日を生きるための活力となるのだ。

サチコは力のポーズを決めてから走り出した。

明日に希望があることを信じて。

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情熱の薔薇 容原静 @katachi0

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