プールサイドの人魚
川嶋月子
第1話 出会い
ある日俺はプールサイドで人魚を見た。
黒い髪は光に反射して彼女が動くたびにさらさらと落ちてゆく。
小さいころ読んでいた人魚姫のお話から出できたようにその光景は美しかった。
そして彼女の茶色の瞳が僕を映した途端に彼女の口角が上がった。
まるで時が止まったような感覚だった。
「ゴラァ!宮下なにしている!」
まだ夏前だというのに蝉がうるさく鳴く中、汗だくになりながら僕は友達の中山に勧められトランプタワーを作っていた。
放課後日誌を書いていた僕に対して中山は
「宮下ってトランプタワー作ったことある?」
と聞いてきたのを無視すると早速やろうと勝手に始めたが作っている最中にトイレに颯爽と消えていった。
進学校を謳っている割に最悪な環境下な教室には蝉の鳴く声と柱に取り付けられているだけの扇風機が一生懸命首を振る音が響く。
そして今二つほどできた状況で今僕は、持ってきた本人の代わりに何故か怒鳴られている。
ちなみに勧めてきた中山は数十分はトイレに行って帰ってこない。きっと中山のことだから僕を忘れて帰ったと仮定している。確率はほぼ百パーセントだけど。
今この高校で一番怖いといわれる体育教師鈴木あつし、通称ゴリ木が目の前で僕とほとんど出来上がっていないトランプタワーを睨みつけて鍛え上げられた腕を威圧的に組んで落ち着かないのか右足をテンポよくつま先を上げたり下げたりしている。
怒ってといるのは一目瞭然で今すぐにでも“先生 怒っている 対処法”と検索かけたいぐらい怖い。
が、ここで屈してはいけないと拳をにぎりしめ口を開いた。
「トランプタワーです!」
結果は当の昔に見えていた。
俺は学校に不要なものを持ってきたということでプール掃除の刑と反省文を三十枚ということになった。
だが、元はといえば中山がトランプタワーをやろうと言ってきたのになぜ怒られるのは僕なのか。
とはいえ、僕的には比較的に軽い罰となった。
校庭五十周よりはましだ。冷たく暗い石の階段を上がるとまぶしいひかりときらきら光るプールの水面がみえた。
久しぶりにみるプールの現状は現在進行形でおかしい。
なぜならプールサイドに黒髪の女の子がプールの水に足を入れて座っていたからだ。
この出会いが最後の高校生活を狂わされるとはこの時の僕は思いもしなかっただろう。
プールサイドの人魚 川嶋月子 @tukikokawashima
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