ナガミヒナゲシは駆除対象?

 同じクラスの長実陽奈子ながみひなこは今日も休み。僕が理科の授業でナガミヒナゲシの花を調べて発表した次の週から。


 ナガミヒナゲシはオレンジ色の小さな可愛らしい花で春になると道端でよく見かける。コンクリートのすき間からも生えている生命力の強い花だ。


 僕はネットで知り得た知識でナガミヒナゲシが危険外来種で脅威の繁殖力を持ち駆除対象にされていると発表した。その情報はデマだったと後で知り訂正したのだが、クラスの皆はもうそれを信じきってしまっていた。


 クラスのバカ共がナガミヒナゲシとよく似た名前の長実陽奈子ながみひなこを「よっ駆除対象」「よっ脅威の繁殖力」とからかっていた。


 長実陽奈子はそんな奴らを黙殺していた。長実陽奈子はバカ共を相手にしない。だがやっぱり嫌だったのか学校に来なくなった。


「お前のせいだぞ」と長実陽奈子をからかっていた奴らは、僕に責任転嫁した。


 僕は理科の発表の前にナガミヒナゲシの名前が長実陽奈子に似ていると気付いていた。


 駆除対象なんて言ったらクラスのバカ共は長実陽奈子をからかいだす。予測していた。しかしネットで知り得た情報をどうしても言いたくて得意気に話してしまった。


 まさか学校に来なくなるほど気にしてしまうとは思わなかったから。


 長実陽奈子の自宅に電話したが誰も出なかった。なんだかとても心もとなくて自宅前まで来てしまった。


 長実陽奈子の家は三階建ての一軒家だった。庭にナガミヒナゲシが大量に咲いていた。


 インターホンを鳴らしたら「どちらさまですか?」と声がした。長実陽奈子とよく似てる声だけど多分母親だろう。


 名前と、同じクラスの生徒だと伝えたら玄関から出てきてくれた。長実陽奈子より少し太った、優しそうな顔をしていた。


「呼んでくるわね」と一旦ドアを閉められた。


 お見舞いの品くらい持ってくればよかったと反省しながら長実陽奈子が来るのを待った。


 国語の時間じゃないから言わなかったけど、ナガミヒナゲシの花言葉は「平静」と「癒し」。いつも穏やかで静かな長実陽奈子は僕の癒しなんだ。なのにまるで「脅威の繁殖力」と「駆除対象」が花言葉みたいに言われて可哀想だった。



 ドタドタドタドタドタドタッ



 えっ。この音は……?


「ちょっと、ひなちゃん。静かに階段降りなさい!」


 ガチャッ


 長実陽奈子が出てきた。


「あっ、長実ながみ。休み続いてるけど大丈夫?」


「あ、うん。大丈夫」「大丈夫」「だいじょうぶ」「大丈夫」「だいじょぶ」「大丈夫」


「えええっ」


 大量の長実陽奈子が出てきた。階段から降りてきて玄関にあふれてる。


「理科の時間に脅威の繁殖力って言われて、バレてるって思って動揺しちゃった」「動揺しちゃった」「動揺しちゃった」「動揺しちゃった」


 たくさんの長実陽奈子がしゃべってる。イメージと違う。長実陽奈子はナガミヒナゲシのように平静で可愛くて僕の癒しだったのに。



「駆除対象にしないでね」「しないでね」「しないでね」「しないでね」「しないでね」「しないでね」「しないでね」「しないでね」


 長実陽奈子は脅威の繁殖力で増殖していた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る