いつもうるせえ潤瀬君と、いつも静かな音無静花ちゃん
「
「あー! 俺の隣、
「……」
くじ引きで席替えをした結果、いつも静かな
反対に
「なあ、
「……」
「は? 聞こえねえ! 書いて!」
「おお! ありがとう! やっぱ
「……」うれしかったのか口角が上がる
「なあ、
「……」固まる
ヒソヒソ、
「なあ、音無! 今日の給食のケーキちょうだい!」
「……」音無静花は黙ってケーキを差し出す。
「ダメよ、音無さん! 自分で食べなさい! ケーキ食べれるでしょ? 潤瀬君も音無さんに聞かないの! 音無さんあげちゃうんだからもー!」担任が怒ってる。「断れないタイプなの?」
二学期の終業式後。
一人下校する潤瀬。
「あー! 早く帰ってゲームやろうっと!」
タッタッタッタッ
足音が聞こえる。
「ん?」振り返った。
タッタッタッタッ
音無静花が追いかけて来た。手を振ってる。
「お? どうした?」
「……」潤瀬の忘れ物を渡す。
「あー! ありがとう!」
「……」口がかすかに動いてる。
「えっ? 何? 聞こえないんだけど」音無静花の口元に耳を近づける潤瀬。
「……」何かしゃべっている。
「聞こえない!」
音無静花は息を吸った。
「あっごめん!」耳を離す潤瀬。
「……ううん。名前呼んだの」
「え?」再び音無静花の口元に耳を寄せる。
「……いつも返事しなくてごめん」声をしぼり出す音無静花。
「あー、慣れてるから平気」
「……何て返事するか考えてて……」下を向いてしゃべる音無静花。最後の方は聞こえない。
「返事するの待ってろって?」
「……うん」
「無理だな。それにお前、しゃべっても聞こえない」
「……皆に聞こえるの恥ずかしくて」
「俺全然そういうの気にしねえな」
「……ねえ年賀状書くから住所教えて」
「LINEでよくね?」
「……じゃあ、LINE」
「はいこれID。なくすなよ」
音無静花はコクンとうなずいた。IDを書いた紙をギュッと握りしめて大事そうに持ち帰る。
元旦。
ピヨン♪
「お、音無からだ」
あけましておめでとう。今年もよろしくね。とメッセージと花の絵の写真が送られてきた。
「あいつ絵うまかったな。自分で描いたのか? 何の花だろ」
あけおめ。この花何? かわいい、と送った。
「母ちゃん、風鈴草って知ってる?」
「風鈴草? かわいい花よねえ。釣り鐘形で。大きい鈴蘭みたいな。知ってるけど、何で?」
「さっき女子からLINEで絵が送られてきた」
「ふーん。ま、深い意味ないと思うけど……」
「何?」
「風鈴草の花言葉は『うるさい』」
「ひっでえな。あいつ」
「あとね『感謝』と『真剣な恋』」
「ええ? あいつ俺のこと好きなの?」
「さあねえ〜」
「……」
「あらあら、静かになっちゃって。可愛いわねえ」
「うるせー!」
冬休みが終わって始業式。
「なあ、静花!」
「……」音無静花は潤瀬を見つめる。
ヒソヒソ、潤瀬の奴なんで静花って呼んだんだろ。静花ちゃん、あんな大きな声で呼ばれて恥ずかしそうとクラスの子達の声が聞こえる。
「これ! やるよ!」
潤瀬は写真を渡した。
「……」音無静花は両手で持ってじっと写真を見つめる。
細い枝に小さな花がたくさん咲いてるユキヤナギの写真。
「可愛いだろ! 静花に似てると思って!」
「……」潤瀬を見つめる音無静花。
「花言葉は『愛らしさ』と『静かな思い』ってんだ!」
「……」音無静花のほっぺがほんのり赤くなる。
「な! ぴったりだろ!」
「……」口をキュッと結んでトントンと潤瀬の肩を叩く。
「あ? 何?」
顔を近づけて潤瀬の耳元でささやく。
「あっ! ごめんっ!」
「……でも……ありがと」音無静花は、はにかんだ笑顔を見せた。
ヒソヒソ。あの二人、真ん中の一番前の席でイチャつかないでほしいよね。早く席替えしてほしい、とクラスの皆はうんざりしていた。
終
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