第二話 僕はお人好しではありません

大旦那様の朝は早い。──なんて事はなく、起きるのは十時くらい。


本来なら起きるべきなんだよ?起きるべきだけれど、だからと言って起きれるわけもないし、それに朝早く起きた所で夜まで全員寝てる。



起きた僕は鼻で笑って時計を見る。


現在の時刻は短い針が四を指し、長い針が六を指している。



外は明るくなく、まだ暗い事からなんだ、まだ朝の四時半か。もう一眠りしようと思い布団に入った時だ。僕をこの時間に起こした元凶の大声が響いたのは。



「何二度寝しようとしているんですか! 起きてください!」


「……いや、あのさ……何してんの?」


「お掃除ですが」


「それは見たらわかる。そうじゃなくて、なんで君が此処の従業員みたいにしてて猫を抱いてるのかを聞いてるの。それ野良? 懐いたらどうするの?」


「猫にまで八つ当たりしないで下さい。あと私はお手伝いで仕事をしていたらお腹を空かせてたこの子が来たんです」


「そっか。お手伝いか。偉いね。でもお手伝いしてて迷惑になるような事してたら意味ないと思うんだ。だから僕は寝るね。君もまだ寝てていいよ。後その野良は捨てて」


「このおたふく野郎!」



彼女は僕に何か恨みでもあるのだろうか。もしや恨みではなく怨みだとでも言うのか。


罵倒の言葉の意味もわからなければどうして殴られたのかもわからない。



あ、気付いてくれた?


うん、そう。彼女が来てから約一週間。その間に平手打ちから殴るに進化したのこの子。



最近では僕はこの子に何かしたのかなって真面目に考えるようになったよ。僕何かしたのかな。


出会って早々嘘は憑いたよ? でもそれくらいじゃ殴られる理由にならなくない?



後は──ご飯のおかずをちょっと横から盗ったり誰も居ないだろうと思ってお風呂に入ったら裸の彼女が居たり庭の鯉に餌をあげてる彼女に間違えて物を当ててしまって池に落としたり掃き掃除して集めていた葉っぱとかをその上歩いてぶちまけた事はあるけれど。


……思ったよりやらかしてるね? まぁ、本音を言えばお風呂と池に落としたのは悪気はあった訳じゃなく、本当にたまたまで、それ以外はわざとだけどさ。



「お、やってるねー神鳴ちゃん」


「千陽さん! はい、お陰様で!」


「千陽のかげに、お陰様の陰……意外とやるね」


「お前の俺に対する名前弄りもここまで来れば天晴れだな」


「天晴れの語源、知ってる?」


「そのまま天が急に晴れてあっ、はれ! からのあっぱれじゃないのか?」


「馬鹿。天晴れの語源は哀れだよ。感動語である「あは」に接尾語の「れ」が付いたもの。喜びも悲しみも含めて、心の底から湧き出る感情の全てを表す語……って前に見た。つまり君は今自分の事を哀れんだんだよ」


「……俺やっぱり馬鹿なのかな……ねぇ、神鳴ちゃんどう思う!?」


「すいません聞いてませんでした」



彼女は僕達に振り返る事無く窓をせっせと拭いている。


その姿はまさに大女将のそれだ。埃一つ塵一つ残すまいと眼鏡を光らせて拭いているが、普通に怖い。怖過ぎる。否、恐過ぎる。



炎の様なオーラがメラメラと見えていて、僕の心はもう底の底から辞めて欲しいと願う。何故ならこの旅館が燃えてしまったら何を言われるかわからない。


オーラで燃えるわけがない? その考えが甘い。甘過ぎるよ。


このオーラは現実に燃えていると錯覚を起こしそうになる。



「君ってさ、お人好し過ぎない?」


「お人好しって、人を疑わないって事ですか?」


「この場合のお人好しは気の良い人、が正しいだろうね」


「俺は辞書の世界にでも迷い込んだの? え、何? 天晴れの語源だとか同じお人好しなのにこの場合はこうとか……俺は二人が怖いよ」


「朝から珍しく騒がしいと思いんしたら、見覚えのない子がおりんすな」


「これはこれは女郎蜘蛛の梅香様。騒がしくして申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」



名前の通りの梅の香りがする方へと振り向けば、そこにこの旅館の常連。何時も蝶の夢を欲しがる客が、何を隠そうこの客だ。


客人である彼女は僕達の顔を確かめる様にゆっくりと目線を移動させ、僕の方に向いてから少し笑うと大女将(仮)の方へと目線を移動させた。



「かまいんせんよ。──そこの女子、此方へ」


「私は掃除が御座いますので御遠慮願いますか。御用があるならそこの雑用にでも仰ってください」


「……俺?」



花魁の前でかっこつけようとしていたのか、壁にもたれ掛かり腕を組んで居た千陽が自分を指差して驚いた顔をする。すっごくかっこ悪い。


お客様の前だからキリッとした顔で堪えているものの、笑いたい。



笑いたい衝動で僕の身体は若干震えてはいるが、バレては居ないようだ。


大女将は額の汗を拭いながらバケツの水で雑巾を洗い、絞って、また拭くを繰り返している。良くもまぁ、見ず知らずの他人の店を文句も言わず、誰に言われるでもなく自ら掃除出来るものだよね。



僕だったら頼まれなかったらやらないし頼まれたとしてもやらない。



「いやいやいやいや、俺此処の関係者じゃないし。雑用は此奴だろ」


「は?この人は此処の大旦那なんですから、雑用なわけないじゃないですか。ほら、そこの女性も突っ立って居ないで掃除してください! ここの旅館は無駄に広いんですから」



ポカンとした顔をし、これ、私に言ってます?みたいな顔をした後に大笑いをした。


とはいえ、此処はやっぱり花魁になるモノは違うなと思う。大笑いはしているが、口元は隠し、何処と無く上品さがある。




「そう来んしたか。掃除なら任せてくんなまし。これでも花魁になる前は掃除や雑用ばっかして居たんでありんすよ」



千陽が良いのかよ客にあんな事やらせて、と言ってきたが、その客が嫌がる事なく寧ろ嬉しそうにしているのだから、別にいいんじゃない?


これで客の方も嫌がっているなら流石に僕も止めにはいるけどさ。



「二人も掃除するんですよ。今日は掃除日和です!」



千陽と顔を見合わせ、はいはい、とバケツと雑巾を受け取り、外を見る。


外は明るくなりだしていた。







「琴葉さん! 見てください!」


「何?」



階段から凄い勢いで降りてきた大女将の後ろには花魁。


最近この二人は仲がいい。



あの掃除以来、花魁は彼女をたいそう気に入った様で毎日の様に「神鳴様は何処でありんすか」と聞いてくる。


花魁には悪いが僕は知らないし興味は無い。



彼女が何処に行こうが僕には関係ないし、問題を起こさないのであれば好きにすればいい。



「梅香さんに貰った着物どうですか? 似合いますか?」


「猫に小判」



久しぶりに殴られたのはグーでしかも鳩尾だった。


これは無理。本当に無理。



立っていられなかった僕は呻きながら跪く他なかった。



「あらあら、仲が良いでありんすな」


「ど、何処がですか……。こんな暴力的な女の子は僕は認めない……」


「別に私は貴方に認めてもらいたくて産まれてきたわけじゃないので認めてもらわなくて結構です」



僕を鋭く見下ろして、否、この目は見下していると言ってもいいと思う。そんな目で僕を見ている彼女を下から見る僕はなんと言うか、浮気がバレた男の気分だ。


浮気がバレた男がどんな気分なのか知らないけどね。



「おーっす琴葉。蝶の夢ゲットしたぜ──今度は神鳴ちゃんに何をしてそうなったんだ?」


「流石相棒、話が早くて助かるよ……」


「聞いて下さいよ千陽さん! 琴葉さんったら酷いんですよ! 私が梅香さんに貰った着物を着て似合いますかって聞いたら猫に小判って!」


「圧倒的にお前が悪い」


「五月蝿い……。で、蝶の夢が手に入ったって?」


「女心がわからないお前にこれはやらん。と言うわけで梅香様──否、梅香。俺が君にこの夢をあげよう」



片膝を着き、花魁の手を取り柄にもなく眉毛をキリッとさせた千陽が言う。



「気持ち悪い」



大女将と、僕の気持ちが初めて一致した瞬間だった。



「なんでだよ!?」


「柄じゃないでしょ、君。そういうの似合わないよ」


「梅香さんにはもっといい人が見付かります。流石に千陽さんじゃない」



そんなやり取りを見ていた花魁はクスクスと笑い、手渡された夢を見て、呟く。



「蝶の夢でありんすか。そういいますれば、わっちはその夢を目当てに此処の旅館に来ていたような気がしんす。ここのとこは神鳴様と過ごす日々が楽しくて忘れていんした」


「どうして梅香さんは蝶の夢を求めているんですか?」


「その話は長くなりんすが、聞いてくれんすか?」



胸に手を当て、愛おしい何かを思い出すようにして話しだした。


僕達も巫山戯るのは辞めて、話を聞く姿勢になる。



「わっちはある人に恋をしんした 。その人はお客様で、女郎としてはあってはなりんせん 事でありんすぇ。 お客様との恋はご法度。でもそれはわっちの初恋で、わっちは──わっち達は愛し合って居んした。あの人はわっちに言ってくれたんでありんすぇ。わっち が妖だと知っても、愛してる、此処を出よう。此処を出て、一緒になろう……と。しかし、罰が当たったでありんしょう。何年、何十年待ってもあの人は来んせんでありんした。わっちを嫌いになりんしたのか、こなたの恋がバレてしまいんしたのか……。初恋は実りんせんと言いんすが、まことでありんすね。……蝶になれば、また会える気がしたのかもしれんせん。自由に羽ばたく蝶の夢ならば、何時か生まれ変わったあの人の幸せな顔を見れると思ったのかもしれんせん。でも、所詮は夢。一向にあの人は現れてはくれんせんでありんした。もう逢えないとわかってありんすのに、往生際が悪いでありんすね 。待ち続けてもう数百年、わっちはもう疲れんした。もう、悲しいんでありんすぇ。 苦しいんでありんすぇ。 それでも──愛していんす」


「梅香さん……」


「申し訳ありんせん。困らせてしまいんしたぇ。 わっちは大丈夫でありんすから気にしないでくんなまし。千陽様も、わっちの為にありがとうございんす」



袖で涙を拭い、笑いかける。


僕はこの笑い方を知っている。母さんがよくこういう笑い方をしていた。



ごめんね、ごめんね。大丈夫だから。ごめんね。と、僕を抱き締め、涙を溜めながら僕に言い続けていた言葉。


嗚呼、嫌な事を思い出した。



この笑い方は大丈夫じゃない笑い方。僕はそれを知っている。


でも、何も言わない。何もしない。



だって僕には何も出来ないから。何も出来ないのに何かしようとするのは、余計に相手を苦しめてしまうから。



「きっと相手の人は迷子になっているんですよ! 梅香さんが嫌いになったとかじゃないです! 初恋も実らないなんて事はありません! だって梅香さんは初恋じゃないから」


「神鳴様……?」


「いいですか?初恋と言うのは一回目の恋。でもきっと恋って一回で終わらないんです。一人の誰かに何度だって恋をする。昨日よりも明日その人に恋をして、明日は明後日よりも恋をして、何度も何度も何度だって恋をする。だから、初恋が実らないなんて事はありません」



「探しに行きましょう」そう言って手を取る彼女に困惑する花魁。


そりゃそうだろう。探しに行きましょうって何処をどうやって。



顔も名前も僕達は知らないのに、この広い世界をどうやって探すというのか。



「無茶だよ神鳴ちゃん。この世界だって君が居た世界以上に広いよ。どうやって探すの?」



相手が妖だと言うのであれば希望もあるし、可能性だってある。でももし、相手が人間だったら?


数百年も生きている人間なんて普通は居ない。



そんなの、幽霊か妖くらい──嗚呼、そうか。人間でも可能性はある。可能性はあるが、でも、無いに等しい。期待するだけ無駄だ。


無駄なのに──







「此処に居る可能性があるって事ですね!?」


「……はぁ」


「聞いてるんですか?」


「そうだよ。でも、過度な期待はしないで。居ないものだと思って探す事、いいね?」


「行きましょう梅香さん!」



どうして一緒に探しに来ているのか誰か説明してくれない?


此処に来たって可能性があるってだけで、探すのに時間はかかる。



居たとしても見つけられるとは限らない。わかっていたのにどうして連れてきちゃったかなぁ……。



「まさかお前が手伝うなんてな」


「僕も驚いてる」


「良いんじゃね?誰かに優しく出来るって言うのは」


「誰かに優しく出来る……ね」



なら違うよ千陽。きっとこれは親切だとか、優しさだとか、そういうのじゃない。


希望なんて、可能性なんて、ないのだと思いたい僕が連れてきただけだ。



きっとそう。絶対そう。……多分、そう。


そうじゃないと僕のこの行動の答えがわからない。



「見付かりませんね……」


「構いんせん。もういいんでありんす。もう、忘れんすから」


「駄目です! そんなの絶対……駄目です。きっと待ってます。梅香さんが来るの、きっと待ってますから……!」


「神鳴様……」



結局そうなんだよ。見つかりっこない。


可能性も、希望も、奇跡も、ありはしない。この世界も、どの世界も、残酷なんだから。



彼女達に近寄り、帰ろうと言おうとしたところだった。


悪いけれど、見つからなければ良かったのにと思う僕は酷いやつだろうか。悪魔だろうか。でも、そうあってほしかった。



見付かった彼は、もう何も判断出来ていない様だけれど。



「吉近様!」


「え? え!? あの人がそうなんですか? めっちゃ襲ってますけど」



彼女が驚くのも無理はない。


花魁が求めていた愛しの彼はなりふり構わず襲い、此方に気付き、愛しの相手が居るにも関わらず襲ってきたのだから。



「梅香さん! 神鳴ちゃん! 俺の後ろに──」



そして吹っ飛ぶ千陽。彼は一体何がしたかったのだろう。こんな醜態を晒す為に来たとでも言うのか。


吹っ飛んだ千陽の代わりに僕が二人の前に立ち、突っ込んできた奴の頭を掴み地面に押し付ける。



「琴葉さん! その人は──」


「人じゃないよ」


「琴葉さん……?」


「…………僕はそこまで悪魔じゃない。助けてあげるから少し黙ってて」



抱き着こうとしてきた大女将の事は避けたけど、花魁の方は不安そうにこっちを見る。──正確には地面に押し付けられている彼の方をだけれど。


少しくらいこっちの心配してくれてもいいんじゃないかな。別にいいけどさ。



「梅香さん、彼の名前は」


「え……?」


「名前。早く」


「よ、吉近でありんすが……吉に近いで吉近」


「吉が近い、いい名前だね」



懐から出した紙に名前を書き、それを彼の頭に貼り付けると大人しくなっていき「梅香ぁ……」と泣き出した。


言っちゃあ悪いけれど汚い。僕は心底後悔した。



「凄い……! 凄いですよ琴葉さん!」


「五月蝿い」


「吉近……様……?」


「可能性に気付いて良かったな。希望があって良かったな。奇跡は起きたな。」


「何が言いたいの?」


「お前が此処に来たのも、それら全部があったからだろ」


「……何もありはしないよ。僕にも、誰にも、この世界にも」


「これを見てもか?」


「僕の答えは変わらない。僕が、ずっとこの先も此処に居る現実も変わらないよ」


「俺は大歓迎だぜ」



まぁ、良かったんじゃない?僕からしたら面白くないけれど、悪い気はしない。


これから恒例の二人の話を聞かされるのだろう。興味は無い。少なくとも僕は全く興味が無い。



なんなら今すぐ帰りたいくらいだよ。



「どうして迎えに来てくれなかったんでありんすか?ずっと待っていんしたのに」


「行ったさ……でも、そこで店の奴に言われたんだよ。俺との関係がバレて、梅香は自決したって。それで俺……」


「あのさ、感動の再会の所悪いんだけれど、僕はこれっぽっちも興味無いんだよね。なんなら彼女が死ぬのか生き返るのか位どうでもいい」



二人は落ち込んで、千陽(生きていたらしい)にはせめてそれくらい興味を持ってやれと言われたけれど、それはどっちにだろうか。


彼女に対してなのかそれとも二人になのか。



どっちだっていいよ。とりあえず彼の身体には負担がかかっている為、二人には旅館に来てもらう事にした。






「おはよーございまーす!!!」



最早恒例になった大女将による朝の起床。こんなに大声を出されてしまっては客達の迷惑にもなるんだけれど、何故か彼女は人気だ。


意味がわからなくて最近の僕の悩みの一つでもある。



二人は大人しく部屋に篭もり、男の方は元気になって来たらしく、部屋の外からもたまに笑い声が聞こえてくる。


そんな二人が部屋から出てきて僕の前に現れたのは昼を過ぎた頃。



「あの、昨日は助けて頂きありがとうございました」


「別に。自分を守っただけですから。これからどうするんですか?」


「これから二人でやり直そうと思います。悪霊になってしまった今、梅香と出会えたので何時成仏するかもわからないですし、残りはゆっくり過ごしたいと思います」


「吉近さん……梅香さん……幸せになってください」


「それは無理だよ」


「ちょっと琴葉さん!?」


「幸せになるならないはお互いの問題だから知らないけれど、少なくとも君は成仏しない」


「……え?マジすか琴葉さん」


「マジですよ大女将」


「どういう事でありんしょうか……」


「まず梅香様、お言葉ですが彼をちゃんと見ていますか?」



目を伏せ、申し訳なさそうに首を横に振る姿を見た彼は、肩を落とし、見るから落胆した。


僕は本を読みながらだから大して二人を見てはいないから実際は知らないけれど。



「次に吉近さんだっけ?」


「は、はい」


「自分の姿鏡で見た?」


「見てませんが……」



今度は僕がはぁ……と溜め息をつき、本を閉じて横に置き、席を立って手鏡を持ってきてそれを見せる。


鏡に映る彼の頭には"角”が生えていて、それを見た彼の顔からは血の気が引いていた。



「よかったね。成仏はしないし、鬼だからと言って嫌われる事もない」


「あ、あの……俺達はこれからどうしたら……」


「好きに生きればいいんじゃない?誰も君達の邪魔はしないよ」


「吉近様……」


「大丈夫だ梅香。俺が何とかするから」



僕は一体何を見させられているのだろう。


大女将はうっとりした顔で手を組み、羨ましそうにしているし、此処にマトモなのは僕しか居ないのか。



君一人じゃどうしようも出来ないのに。


彼女だって昔は花魁だったと言うだけで、今は無職に等しい。



そして最近まで暴れていた彼が、一体何が出来るのか。


鬼は嫌われて居ない。が、彼が嫌われて居ないとは限らない。彼は妖達を襲っていたのだから。



「行く場所もあてもないんでしょ。此処で働けば良いよ」


「……良いんですか……?」


「駄目な事をわざわざ言うわけないでしょ。でも、ちゃんと働いてもらうよ。もちろん花魁、君もだよ」


「わ、わかりんした!」


「まずその廓言葉を辞める事からだね」


「申し訳ありんせん……」



僕は何時からこんなにお人好しになったのか、今度千陽にでも聞いてみよう。きっと笑い過ぎて涙を流して地面にのたうち回るよ。


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僕は一度死んでいる。〜ようこそ人ならざるもの達の世界へ〜 @ayakasisakaya

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