ちょっと寄り道(番外編) ツキヨミ様とアマテラス様

 現代社会に帰る前に少し寄り道という訳で、やって来たのは天孫降臨よりも、ずっと前の高天原です。


 何でここに来たのかというと、名前だけ出てきたのにエピソードが語られていない神様がいるのを忘れていませんか?


 イザナギ様の長男である月読命様ツキヨミノミコトサマです。


 姉のアマテラス様や、弟のスサノオ様のエピソードばかり目立ち、ツキヨミ様のお話はあまり語られていません。

 ページの都合なのか大人の都合なのかわかりませんが、ツキヨミ様のお話は古事記から外されているんです。


 しかし、ツキヨミ様にもちゃんとした神話があるので、今回はそれを見ていきましょう。



 


 まだ昼と夜の区別がなかったある日の事、ツキヨミ様は姉のアマテラス様に呼び出されました。


 イザナギ様から産まれて以来、この旅路ではツキヨミ様は本当に久しぶりの登場です。

 相変わらず落ち着いていて精悍な顔立ちをしています。

「何か用ですか? お姉さん」

「ちょっと地上にいる保食神ウケモチノカミの所へおつかい行って来てほしいの」

「わかりました」

 

 ツキヨミ様がアマテラス様の言葉に素直に頷いているところを見ると、二神の仲の良さが伺えます。

 因みに保食神様というのは、読んで字の如く食べ物を司る女神様です。


 こうしてツキヨミ様は高天原から地上に降りていきます。


 さあ、私達もツキヨミ様と一緒に、ウケモチ様の所へむかいましょう。


「ウケモチ様、お邪魔します。姉のアマテラス様の命で来ました」

「これは、これは、どうぞこちらに座ってください」

「それでは、お言葉に甘えて」

「ご足労いただきありがとうございます。僭越ながら本日は私から、ツキヨミ様に最高のお・も・て・な・し、をさせていただきます」

「は、はあ、それはどうも(そういえば姉さんのお使いで来たけど、僕は何をすればいいんだ?)」

「それでは、すぐにご馳走を用意するので、少々お待ちください」

 そう言ってウケモチ様は奥へと行きましたね。きっと食べ物を司る神様だから、最高に美味しい料理が出てくるに違いありません。


 奥からウケモチ様が戻ってきましたね……おや、持ってきた皿には何も料理がのっていません。

 しかもそれをツキヨミ様の前に置きました。

「え?」

 これにはツキヨミ様も困っています。最高のお・も・て・な・し、と言って空の皿を出す。もしかして哲学的な意味が込められているのでしょうか?


「それでは、ご馳走を用意しますね。それでは失礼します」

 ウケモチ様は何をするのでしょうか?


「オロロロロロロ……」

 って、ギャー! ウケモチ様は口からお肉や、お魚、野菜、お米などの食べ物を吐き出しています。


 神様が口から出したものなので、汚物ではなくちゃんとした食べ物なのですが、絵面としては綺麗ではありません。


「な、な、な……」

 これにはツキヨミ様もこれには引いていますね。


「さあ、召し上がってください。私が心を込めて吐いたものなので、とっても美味しいですよ! お口に合うといいんですが」

 ウケモチ様はニッコリと笑って言いました。


「こんなもの、食えるかーーーー! ボケーーーー!」

 あら、ツキヨミ様がキレました!

「きゃああああああああ!」

 しかもあまりに怒っていたので剣を抜いて、ウケモチ様を斬り殺してしまいました。


 キレやすいのは弟と似ているかもしれません。


 こうして、ツキヨミ様に殺されてしまったウケモチ様ですが、その亡骸がかいこや穀物、動物や魚といった食べ物となり、その恵みは全国に広がっていきました。


 一方、ツキヨミ様は高天原に戻っていったのです。結局、アマテラス様のお使いって何だったんでしょうかね?

 

「お帰りツキヨミ。ウケモチの料理はどうだった?」

「どうだったって、あいつ僕にゲ○を食べさせようとした!」

「初めてだと驚いちゃうよね。それで、どうしたの?」

「斬り殺した」

「え!?」

「ゲ○を食べさせるような奴は、僕が斬り殺した」

「な、な、なんだってー!!! いくらなんでもそこまでしなくてもいいじゃない! せっかくツキヨミに美味しいご飯を食べてもらいたくて、ウケモチの所に行かせたのに!」

「だったら、最初から言えばよかったんだ! まさか口から出すなんて思ってなかったぞ!」

「だからって殺す事はないでしょう! ツキヨミの馬鹿! ツキヨミなんて邪神か悪神よ! もう顔も見たくない!」

「そこまで言わなくてもいいじゃないか! ふん、僕だってもう姉さんには会わないからな!」

 あらら、喧嘩に発展しましたね。


 この一件でアマテラス様とツキヨミ様の仲は悪くなり、昼と夜が分かれたと言われています。 


 さてそろそろ現代に帰りますか。




 それにしても、今まで長い旅路にお付き合いしていただきありがとうございます。

 取り敢えず現代に帰ったら私はコンビニに行って、アルフォードとブラックサンダーを買い食いします。

 チョコレートが大好きなんですよね♪

 

 おや、ここは現代へと続いている道ですが、神話時代の方から何か近づいてきますね……あれは、何でしょうか? とてつもない霊力を感じます。


 あっ! あれはヤマタノオロチじゃないですか!? スサノオ様に退治されたと思っていたらまさか生きていたんですか。

 

 まずいです。ヤマタノオロチが現代に向かっています。

 

 えっ! なんとかしろ、だって!? 無理ですよ!


 スサノオ様だって酒に酔わせる戦法で勝ったんですよ。ただの案内人程度の力じゃ簡単に潰されちゃいます。

 一般人がゴジラに挑むようなものです。


 ヤマタノオロチの霊力の影響で、時空に流れもおかしくなっています。これは現代ではなく異世界に飛ばされてしまうかもしれません。


 あ! ちょうど伊勢神宮が見えます。あそこに避難しましょう!





 神話の旅は、まだまだ続きます。


 それでは新たなる神話の旅路で、貴方様をお待ちしています。

 

 


 

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日本神話~浪漫あふれる世界への旅~ 東樹 @itukiazuma33

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