最終日 神武天皇最後の戦い

 兄の五瀬様を失うなど様々な苦難を乗り越え、ついに大和の地の側までやって来ました。

 しかしそのルート上には生駒山という、ナガスネビコさんの住む所があります。

 

 そう、ナガスネビコさんといえば、五瀬様の命を奪った張本人であり、カムヤマト様の宿敵でもありますね。 

 カムヤマト様の攻撃力がカンストしているとはいえ、一筋縄ではいかなさそうです。


 生駒山が近づくにつれカムヤマト様の表情も強張っていきます。


 



 さて、生駒山の山道に入ったのですが、カムヤマト様一行はどうなるのでしょうか。


「来たな! カムヤマト! 今度こそお前の命を奪ってやる!」 

 山道の茂みからナガスネビコさんとその軍勢が襲いかかって来ました!


「兄の命を奪った恨み、ここで晴らす!」

 ナガスネビコさんはカムヤマト様の首を狙って、剣を振り下ろします。しかしカムヤマト様も布都御魂剣ふつのみたまのつるぎを抜いて応戦します。


 久米部達はナガスネビコさんの軍勢と戦いますが、一度敗走という苦汁を味わっているので、剣を握る手には力と思いがより強く込められています。


 このまま、布都御魂剣があるのでカムヤマト様が圧勝すると思いきや、ナガスネビコ様も粘り強く戦っておりなかなか倒れません。


 カムヤマト様とナガスネビコさんの戦いは長引いています……おや、空から何かが舞い降りてきました。

 あれは何でしょうか……うわ! 眩しい!


 金色に輝くトンビが現れました! あまりの眩しさに目がくらみナガスネビコさんの軍勢は引いていきますね。

 しかし敗走した訳ではなく、カムヤマト様達から距離を取だけなので、まだ戦う意思はあるようです。


「カムヤマト! お前はどうしてこの土地に攻めてくるんだ!?」

「俺達はアマテラス様の子孫であり、この葦原の中つ国を治めるためにやって来たんだ!」


「それは嘘だ! 俺達は天津神(高天原の神)の饒速日命様ニギハヤヒノミコトサマに従い。この土地を守っている!」

 どういう事でしょうか? 高天原から降臨したのはアマテラス様の孫のニニギ様です。もしナガスネビコさんの言っている事が本当ならニニギ様以外に、高天原から降りてきた神様がいるという事ですね。


「お前達のような偽物の神に土地を奪われるわけにはいかない!」

「それは違う! 俺が天津神だ!」

「そればらば、カムヤマト。天津神と言うならば、天羽々矢あめのはばやを持っているはずだ。それを見せてみろ!」

 言われた通りカムヤマト様は天羽々矢を取り出し、ナガスネビコさんに見せました。


 すると、ナガスネビコさんは「馬鹿な!」と言って驚きます。


「何故、天羽々矢が二本あるんだ!?」

 そしてナガスネビコさんが持っていた、ニギハヤヒ様が天津神である証拠の天羽々矢をカムヤマト様に見せたのです。

 

 カムヤマト様、ナガスネビコ様、お互い持っている天羽々矢は見た目も、それから感じる霊験もまったく同じものです。


「ニニギ様以外にも天津神が降りていたというのか……」

 これにはカムヤマト様も驚きが隠せません。


 

 おや、生駒山の向こうから誰かが近づいてきて、ナガスネビコさんの側に立ちました。

「ニ、ニギハヤヒ様……」

 やはり、彼がもう一神の天津神のニギハヤヒ様のようですね。

 一体、ニギハヤヒ様が何者なのか時間を巻き戻して、彼が降臨した時を見に行きましょう。


 



 さて、ニニギ様が高千穂の頂上に降臨する少し前の事です。


 十種神宝とくしんのかんだからという、身体や精神の病を癒やし、人々を治める事の出来る不思議な力がある神器を持ち、天磐船アメノイワフネという船に乗って天から、大和の地へと降臨してきました。


 そこには既にナガスネビコ様が支配する土地でした。


 今までの旅を見てわかると思いますが、ナガスネビコさんは縄張り意識が強く、最初はニギハヤヒ様を敵視しました。

 しかし、ニギハヤヒ様が持ち込んだ高天原の先進的な文化に関心したナガスネビコ様は、彼に従う事にしたのです。 


 そしてニギハヤヒ様は登美夜姫様トミヤヒメサマという、ナガスネビコ様の妹と結婚したのです。

 

 義兄であり信仰神でもあるニギハヤヒ様が治める土地に、カムヤマト様が進軍してきたから、こんなにも必死になって戦っていたのです。


 ところでニギハヤヒ様は何者なのでしょうか? 手元にある資料を見てみましょう。

 

 えーと……。


 ニニギ様の腹違いの兄である隠し子説。

 オオクニヌシ様の子供説。

 アマテラス様説

 宇宙人説

 ニギハヤヒコハクヌシ説(千と千尋の神隠しのハク)

 

 色々な説がありまが、正体がハッキリしません。

 つまり何者なのか、わからないという事がわかりました!

 

 


 さて、カムヤマト様とナガスネビコ様が戦っている時に戻ってきました。 

 

「あいつがニギハヤヒか、まさかナガスネビコに加勢しにきたのか!?」

 突如ニギハヤヒ様が現れ、カムヤマト様も動揺が隠せません。

「今まで戦いで久米部も疲弊しているこの状況で、相手に援軍が来るのはマズイ!」


 その一方ナガスネビコ様はニギハヤヒ様の登場を喜んでいます。

「ニギハヤヒ様! 助けに来てくれたんですね!?」


「ナガスネビコ。もう、戦うのは止めよう……」

「え……ニギハヤヒ様、どういう事ですか!?」

 ニギハヤヒ様の意外な一言にナガスネビコ様だけでなく、カムヤマト様も驚いています。


「天津神同士で争うのはよくない。私はカムヤマトに従おうと思う。だからナガスネビコもカムヤマトの従者になるのだ」

「そ、そんな……」

 ナガスネビコ様から一筋の涙が溢れ落ちました。

 ニギハヤヒ様に従い、今まで危険を顧みず、必死に土地を守ってきたナガスネビコさんにとって、飲み込むのが難しい話なのでしょうね。


「俺は……俺は……何のために戦っていたんだ……」

「ナガスネビコ。今は受け入れられないかもしれない。しかし、これからこの国に新しい風が吹くんだ」

「俺は……そんなの認めない!」

 

 ああ、なんという事でしょうか!? ナガスネビコさんは主であるニギハヤヒ様の言葉を無視して、カムヤマト様に向かって行きます!


 剣の一撃によって血が流れました。


 カムヤマト様の首を狙っていた、ナガスネビコさん背中に剣が突き刺さり、心臓を貫いていたのです。


「ニ、ニギハヤヒ……様。どう、して?」

 なんとナガスネビコさんは、ニギハヤヒ様の剣によって絶命したのです。

「たとえナガスネビコであっても、天津神に剣を向ける事は許さない」


 まさかの展開で戦いが終わりました。

 

 ニギハヤヒ様と従えたカムヤマト様は大和の地へと入り、橿原宮かしわらのみやを建て日本の初代天皇である神武天皇に即位し、日本という国が誕生しました。


 この出来事が起きたのは紀元前660年2月11日だと言われています。


 そう2月11日といえば建国記念の日ですよね。

 つまり令和元年の時点で日本という国は、建国から2679年経っているという事になるます。

 

 考古学的に見て紀元前660年というのは縄文時代です。この建国2679年というのには無理があるんじゃないかという懐疑的な意見もあり、また神武天皇の存在を疑う声もあります。


 しかし神話の神々が存在したか否かと問う事が野暮であり、個人的な意見ですが神武天皇の逸話の元になった出来事があったんじゃないかなと思います。


 建国2679年という数字には確かに無理があるかもしれません。

 しかし皇室の祖先である大和朝廷が始まったのは3世紀から4世紀(諸説あり)といわれ、日本という少なく見ても1800〜1600年以上続いている世界で一番長く続いている国なのです。


 さて、旅の最終という事で、少し長くなってしまいましたね。

 これにて、浪漫あふれる世界への旅は終了させていただきます。

 それでは現代に帰りましょう……と、その前に少し寄り道していきませんか?


 まだ、ご紹介したい神話が一つだけ残っているんですよ。

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