【吸血鬼】選んだ進化の先は

 人が争う音が、金属同士のぶつかる音となって響き渡る。

 どこかに傭兵がいるのだろう。銃声の轟も時折響く。

 普段の戦場であれば、銃声に怯え、それでも握る刀で目につく敵には切り掛かってきた。しかし、今回の戦場は違う。この戦場に立っている多くの人間が気がついていないが、この戦場には異質なものが混ざっている。そのことに気がついた鎌倉は、必死になって逃げていた。

 目的地は特に決まっていないが、あの場所から少しでも離れることが重要だ。

 まさか、噂に聞く吸血鬼が本当にいるとは思わなかった。あんな、血を浴びて高笑いをあげる恐ろしい光景。その当事者になりたくなくて、鎌倉はひたすら走り続ける。

 ボトリ、という音がした。

「あぁー……。まじですか……」

 なぜか自然と、どうすればその音が発生するのかわかってしまった。わかって、そして、何がその音を作っているのかもわかってしまった。

 後ろから斬りかかられないように警戒しながら、ゆっくりと振り返る。

「やっぱりいるよな」

 そこには、血の滴る刀を片手に、もう片方の手にライター。口にくわえたタバコに火をつけている男が立っていた。

 男がライターをポケットにしまい、タバコを口から離し、煙を吐き出す。

 吐き出した煙を目を細めて見送るその姿は、ひどく満足げだ。

「さて、今回も十分に遊べた。そろそろ帰ろうか、と思っていたら、なぜか俺から離れる足音が聞こえた。俺が察知するよりも先に俺に気がつき、俺から逃げる。どんな奴かと思えば、なんだ、ついこの間世話してやった恩を忘れて脱走した非常食か」

 震える手を必死に叱咤激励し、どうにか刀を構える。

 そして、意識が途絶えた。

 もうだめだ。出し尽くした。

 物語の終わり。

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ファンタジー短編集 皐月 朔 @Saku51

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